42話 ガチャをしてみた
というわけで、新章開始です!
また、ここから2日に1回更新となります。ちょっとストック消費ペースがやばいというか……とりあえず速筆になりたい。
「「アリエス先生、さよ~なら~!」」
「ええ、さようなら。ちゃんと今日の授業の復習をするのよ」
「「は~い!」」
港町アクアスの外れ――海辺の丘にある水竜神殿にて。
アリエスは読み書きを教えていた子供たちを見送ったあと、潮風を胸いっぱいに吸いこみながら、「んぅ~~っ」と伸びをした。
こんなに爽やかな気持ちになるのは、いつ以来だろうか。
(ふぅ……あんな子供たちの笑顔が、また見られるとはね。ローナちゃんには本当に感謝しないと)
アリエスはいつもの日課で、海へと祈りを捧げる。
彼女が生まれ育ったこの神殿からは、港町アクアスを一望することができた。
アリエスは、この町の景色が好きだった。
だからこそ、“水曜日”のせいで町が寂れていくのを見るのは、歯がゆくて。なにかをしたくて。
アリエスは、前任者が逃げた“貧乏くじ”の冒険者ギルドマスターに自ら立候補し、神官の仕事とかけ持ちで、毎晩遅くまで仕事をした。
毎日毎日、涙をこらえて、歯を食いしばって、神に祈りを捧げてきた。
しかし、どれだけ頑張っても状況は悪くなるばかりで……。
正直――もう、あきらめかけていた。
しかし、そんなときだった。
ローナ・ハーミットという少女が現れたのは。
最初はどこにでもいそうな少女だと思ったが……その予想はすぐに裏切られた。
彼女はいきなりエレクの雷湿原のレア素材をぽんぽん出したかと思えば、この町の恐怖の象徴であるエリアボスを一撃で葬り去り、伝説のエルフの秘薬を200本も無償で提供し、一瞬で巨大な城壁を作り上げ――最終的には、あまりにも常識外れな方法で、この町を救ってみせた。
ローナは自分がたいしたことをしていないと思っているようだが……とんでもない。
このどれかひとつだけを取っても、歴史に名が残るような偉業だ。
(本当にどこから来たのかしらね、ローナちゃんは……? 常識がないわりに、やたらと知識が豊富だったりするし。『スキルで神々の知識を見られる』って言ってたけど、本当は天界育ちの天使様だったりして……)
と、考えていたところで。
突然、アリエスの目の前に、ぱぁああ……っ! と光の柱が立ちのぼった。
「…………へ?」
光はみるみるうちに人の形をなし、そして――。
「――へぇ、アクアスの転移先はここなんだね。って……あっ、アリエスさん! こんにちは!」
「……………………」
――ローナ・ハーミットが降臨した。
噂をすればなんとやら、というやつだろうか。
なぜか、ローナは麦わら帽子をかぶり、釣り竿を肩にかついでおり……。
そして、背中からは――光の翼を生やしていた。
(えっ……ガチで天使……?)
アリエスが思わず、ぽかんとしていたところで。
「では、私は釣り大会の最中なので、これで!」
「え、ええ……?」
それだけ言って、ローナはぱたぱたと飛び去っていく。
(な、なんだったのかしら? なんか普通に翼を生やして降臨してきたんだけど……)
とりあえず、今日も今日とて、ローナはわけのわからないことをしているらしい。
(うん、なんにせよ……わたしのローナちゃんが今日もかわいいわ)
アリエスは考えることをやめた。
そうして、ふたたび祈りを再開したところで。
ぱぁあああ……っ! と、ふたたび目の前に光が集まり――。
「こんにちは!」
「え? あ、うん……?」
「では!」
ふたたびローナが現れたかと思うと、ぱたぱたと去っていく。
(……な、なんなのかしら?)
さすがに戸惑いながら、アリエスがふたたび祈りを再開し――。
「こんにちは!」
「…………あの、なにをしているのかしら?」
さすがに気になって尋ねることにした。
「たしか釣り大会と言ってたけど……なんで、この神殿に来るの?」
「え? ああ、これは“魚影リセマラ”です!」
「…………なんて?」
「えっと、釣りをする時間と場所と魚影の対応表を見ると釣らなくてもなにが釣れるかが判断できるんですが転移すると魚影がリセットされるので狙った魚影が出るまでマラソンするように転移をし続ければレア魚を狙って釣ることができるんです!」
(……ダメだ……なにを言っているのかわからない)
そうしてアリエスが混乱している間に、ローナはふたたび去っていく。
(…………き、気になる)
もはや、祈りに集中できる状態ではなかった。
アリエスはローナのあとを追いかけ――。
そして、釣り大会をしている海岸で、その姿を発見した。
「うぉおおお――ッ! ローナ様がまた大物を釣り上げたぞぉお!」
「今度は幻の魚ミュウナギに、色違いのタイキングだ!」
「ローナ選手! 2位を10倍以上突き放し、歴代最高点でぶっちぎりの1位だぁあっ!! 若き天才が今、釣り大会の歴史を塗り替えました――ッ!!」
なぜか口笛を吹きながら釣り場をぱたぱたと飛び回り、釣り糸を垂らすたびに大物ばかりを釣り上げていくローナ。
そのいろいろすごい光景が話題を呼び、いつしか町の人たちがこぞってローナを見物しに来ていた。
(な、なんか、またすごいことしてる……)
本当に、どこまでも自由に生きている少女だ。
ローナを見ていると、なんだか肩から力が抜けていくような感覚があった。
(わたしもローナちゃんみたいに……もっと自分に正直に、もっと自由に生きてもいいのかしらね)
ここ最近はずっと仕事づめで、『町のために』と自分を殺して生きてきた。
だけど、今はもう違う。
水曜日クエストの重責からも解放され、時間もたくさんできた。
今後はもっと、自分のために生きてもいいのかもしれない。
だから――。
「ふっ……」
と、アリエスは微笑むと。
どこからともなく古代遺物のカメラをすちゃっと取り出し、その場でブリッジの姿勢になり――。
「はぁ……はぁ……いいよぉ、ローナちゃ……かわいいよぉ……っ! たまらん……くぅ……さらに……もう……すごすぎ……どうして……好き……はーっ! すばらし……うつくし……! えっ、ちょ――なにっ!? なにをするの!? やめなさい! わたしは怪しい者じゃないわ! わたしは――冒険者ギルドマスターのアリエス・ティア・ブルームーンよ!!」
そんなこんなで、不審者1名が衛兵に連行されたものの。
釣り大会はつつがなく終了したのだった。
◇
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▍ミニゲーム/【釣り大会】
▍開催場所 :【港町アクアス】
▍開催時期 :土曜日・日曜日
6:00~18:00
▍参加条件 :釣り竿の所持
▍クリア報酬:【召喚チケット】×2
【すんごい釣り竿】
【しもふりエサ】
▍概要
【港町アクアス】で参加できるミニゲーム。
無課金プレイヤーにとっては貴重な【召喚
チケット】が手に入るチャンス!
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(ふぅ、楽しかった~! 釣り大会って、すごく盛り上がるんだなぁ。優勝賞品目当てで参加したけど……おいしいレア魚もたくさん釣れたし、いいイベントだったね。まあ、なんか不審者が出たって話も聞いたけど……)
釣り大会が終わったあと。
ローナは『釣りキング』のタスキをつけながら、ほくほく顔をしていた。
(ふふふ、それじゃあ……お待ちかねの報酬確認タイムだね)
ローナは先ほど表彰台でもらった優勝賞品を、砂浜に並べていく。
優勝賞品はインターネットに書いてある通り、高級釣り竿“すんごい釣り竿”と、高級釣りエサ“しもふりえさ”を1年分。
そして、一番の目玉は――“召喚チケット”2枚だ。
『――そのチケットかい? 使い方はわからないけど、貴重な古代遺物みたいだから初優勝者には記念に配ってるんだよ』
と、賞品をわたしてくれた釣り大好きクラブの会長が言っていたが。
これはインターネットによると、召喚獣をランダムで手に入れることができる古代遺物らしい。
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▍システム/【召喚】
▍概要
いわゆるガチャ。
ソロプレイ時に一緒につれて行ける召喚獣
の【召喚石】をランダムに呼び出すことが
できる。
リリース初期の頃は、『戦闘のサポートを
してくれるペットモンスター』という扱い
だったが、現環境では……。
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(召喚獣かぁ……あんま強くなくていいから、“ふかきモン”みたいなかわいいのが手に入るとうれしいなぁ)
やっぱり、かわいい召喚獣がいれば、旅の孤独も癒やされるだろうし。
この召喚チケットの存在を知る前は、【テイムの心得】を習得してみようかと考えていたぐらいだ。
「えっと召喚するには、チケットを天に掲げて――“2回ガチャる”!!」
と、インターネットに書いてある通りの“呪文”を唱えてみると。
それに呼応するように、召喚チケットの1枚が金色に光り輝きだし――。
「うわっ!?」
ばしゅ――ッ! と
召喚チケットが天へとのぼり、雲を突き破った。
天空に巨大な魔法陣が投影され、神聖な光の柱が地上へと降りそそぐ。
「な、なんだ!?」
「そ、空に魔法陣が――ッ!?」
「せ、世界の終わりだあああ――っ!!」
町中の人たちが、なんだなんだと騒ぎながら空を見上げだす。
(な、なんか、すごいことになっちゃった……)
まるで、神話の一場面のような光景。
これを、神々の言葉で――“ガチャ演出”と呼ぶらしい。
しばらくすると、水晶のかけらのようなものが、空から地上へと下りてくる。
やがて、その水晶のかけらは、ぱりんっと光となって砕け散り――。
ふたたび目を開けたときには、ローナの目の前にひとつの人影が立っていた。
「――ルルを喚んだのは、おまえか?」
それは、ひとりの少女だった。
いや、本当に“少女”と呼んでもいいものなのだろうか。
まるで神々によって美しくデザインされたような、圧倒的な存在感の少女だった。
流れる水のような、するりと透き通った銀色の髪。
幼い肢体を包みこむ、神聖な純白の衣。
黄金比を体現したかのような、かわいらしくも美しい顔。
腰から伸びた水竜を思わせる翼を広げ、少女はふわりと地上に降り立ち――。
「――我が名は、ルル・ル・リエー。水竜族の姫にして、いずれこの海を統べる者。喜べ、おまえを我が“げぼく”にしてやる」
『召喚石:【水竜姫ルル・ル・リエー】(SR)を獲得しました!』
少女の言葉とともに、そんなメッセージが視界に表示された。
(えっ……人? なんで、人が召喚されて……? しかも、水竜族の姫? えっ、どういうこと……?)
と、いまだ状況についていけてないローナを置き去りにするように。
「あ――っ!」
もう1枚の召喚チケットが輝きだした。
まるで先ほどの焼き直しのように、召喚チケットが、ばしゅ――ッ! と天へとのぼり雲を突き破る。
そして、目の前に現れた水晶のかけらが砕け散り――ひとつの人影が現れた。
「――ルルを喚んだのは、おまえか?」
それは――ひとりの少女だった。
まるで神々によって美しくデザインされたような、圧倒的な存在感の少女。
流れる水のような、するりと透き通った銀色の髪。
幼い肢体を包みこむ、神聖な純白の衣。
黄金比を体現したかのような、かわいらしくも美しい顔。
腰から伸びた水竜を思わせる翼を広げ、少女はふわりと地上に降り立ち――。
「――我が名は、ルル・ル・リエー。水竜族の姫にして、いずれこの海を統べる者。喜べ、おまえを我が“げぼく”にしてや――えっ?」
「えっ?」
「「………………えっ?」」
召喚された少女×2が、ぽかんとしたように顔を見合わせる。
双子みたいな――いや、それ以上に寸分違わず同じ見た目をした少女たち。
そして――。
『召喚石:【水竜姫ルル・ル・リエー】(SR)を獲得しました!』
ローナの視界に、先ほどとまったく同じメッセージが表示された。
(あ、あれ? まったく同じ人が、2人……? え、どういうこと……?)
混乱するローナの頭に――そこでふと、ひとつの言葉がよぎる。
それは、たまたま先ほどインターネットで見かけた言葉だった。
自分とは無縁の言葉だと思っていたが――間違いない。
(あれ、もしかして…………ダブった?)
年末の風物詩










