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22話 お土産

いつの間にかハイファン日間2位! 本当にありがとうございます!



「ろ……ローナさん!? ご無事でしたか!?」


 ローナが町へと戻ると。

 町の入り口前で、衛兵のラインハルテが驚いたような声を上げた。


 その側には冒険者が5人ほど集まり、空から降りてきたローナにぽかんとした顔を向けている。


「……ラインハルテさん? そんなに慌てて、なにかあったんですか?」


「え? なにかあったって……ローナさんが一晩経っても帰ってこないので、知り合いたちに頼んで捜索隊を組んでもらったのですが……」


「あ……」


 まだ出会って間もないし、ここまで心配されるとは思ってもいなかったが……。


 やはり、モンスターが出てくる森に行ったまま帰ってこなければ、心配されるのは当たり前だろう。

 ただでなくても、天変地異が起きたばかりなのだ。


「な、なんか、ごめんなさい……」


「いえ、まあ……ご無事だったなら、なによりです。ローナさんにはまだ恩を返せていませんしね」


 と、ラインハルテが苦笑する。


「しかし、なにかあったんですか? モンスターのいる森でわざわざ野宿するとは思えませんし……」


「ああいえ、エルフの隠れ里に招待されまして。そこで一泊してきただけですよ」



「「「……っ!?」」」



 その場にいた全員が、唖然とする。

 情報源=インターネットのローナにとっては、それほどたいしたこととは思えなかったのだが。


「……エルフの隠れ里って、あの伝説の?」

「あの“迷いの霧の結界”を突破したのか!?」

「う、嘘だろ……さすがに」

「いやでも、さっき空飛んでたし……なぁ?」


 近くにいた冒険者たちが、ひそひそとささやき合う。


 エルフの隠れ里は、この町の冒険者にとってはかなり有名な場所だ。


 一攫千金を求めて、何人も“迷いの霧の結界”に挑んでいるが……。

 どれだけ進もうと、気づけば同じ場所に戻ってくるのだ。

 あきらかに別方向に進んでいたとしても……。


 さらに、欲をかいて進み続けようとした者は、霧の中から一生出られなくなると言われている。


 そのため、10年前にはエルフを滅ぼそうとしたググレカース家が軍を差し向けたこともあるが、この結界を前にあっさりと全滅したといわれている。


 しかし、ローナはその辺りの事情にくわしくないため、とくに気にした様子もなく。


「あ、そうだ。これ、お土産です。みなさんで食べてください」


 せっかく自分のために集まってくれたのだからと、ローナがアイテムボックスから“エルフせんべい”の紙箱を出して手わたした。


 インターネットに『エルフの隠れ里の名物』と書いてあったものだ。



「ん、今どこからともなく箱が出てきたような……?」

「と、というか、これ……おとぎ話に出てくるやつだよな……?」

「た、食べるより売ったほうがいいんじゃないか……? 国宝レベルだぞ、これ」

「いや、エルフの隠れ里に行ってきたなんて、誰も信じないだろ……」

「なら、まずは学者に調べさせて……」



 なんだか思ったよりも好評なようで、ローナはほっとする。

 こういうお土産選びは初めてだったから、少し緊張していたのだ。


 それから、ふと思い出す。


「あ、そういえば、ラインハルテさん……昨日、町で奇病が流行ってるって言ってましたよね?」


「ああ、はい。たしかに言いましたが……?」


 おそらく、町での奇病は毒花粉が届いていたからだろう。

 花粉が来なくなれば、すぐにみんな良くなるはずだ。


「たぶん、もうすぐ良くなると思いますよ、それ」


「え……? はぁ……?」


 それだけ言うと、首をひねっているラインハルテを残して、ローナは町へと入っていった。


 その後、しばらくして――。


「……っ! まさか、ローナさんは、この町での奇病の流行を収束させるためにエルフの隠れ里へ……? なるほど、そういうことだったのか……! それでいて、これほどまでの成果を誇らないとは……さすがはローナさんだなぁ」


 ラインハルテの中で、だんだん『ローナ=あらゆる病を癒す大天使』みたいな認識になっていたが、そのことをローナはまだ知らない。


(……あっ、そうだ。エリミナさんにもお土産をわたそうかな)


 一方、町に入ったローナは、のん気にそんなことを考えていた。


 昨日もカード再発行のときにお世話になったし、ちょうどお礼もしたいところだったのだ。


 そうと決まれば、善は急げだ。


「――エンチャント・ウィング!」


 ローナは光の翼を広げ、町の上空へと羽ばたくのだった――。

 



   ◇




 ――焼滅の魔女エリミナ・マナフレイム。


 その名を、イフォネの町で知らない者はいないだろう。

 世界でも希少なAランクスキル持ちにして、若くしてイフォネの町の冒険者ギルドマスターになったエリート魔法使い。


 ググレカース家という権威にもうまく取り入り、生まれてからずっとエリートコースまっしぐらな人生を送っていた少女。


 そんな彼女は今――。



「……よし、夜逃げの準備はできたわね」



 全力で夜逃げをしようとしていた。

 夜逃げといっても、決行するのは朝イチだが。


(ふっ……この私がまさかホームレスになるとはね。さらば、私のエリートな人生……いやでも、この町にいたら、いずれローナ・ハーミットに殺されるし、ググレカース家とも敵対しちゃったし……)


 というわけで、残された道は逃げることだけだったのだ。


 そのため、ローナ・ハーミットが町にいなかった昨日のうちに、まだローンが残っている家や家財道具を売り払い、ギルドマスターの執務机の上に退職届を出しておいた。


 全ては、ローナ・ハーミットから逃げるために。


「さてと……」


 エリミナは【マナサーチ】を使って、人目をはばかるように辺りをきょろきょろする。


「ローナ・ハーミットは……今、あそこにいるわね」



 ごぅぉおぉぉおおおおォォオオ――――ッ!!



 と、遠くのほうで、天へと立ちのぼっている膨大なオーラが見える。

 見間違えるはずもない、やつだ――。


 ――ローナ・ハーミットだ。


 彼女はどこにいても、その凄まじいオーラで居場所がわかる。

 そのおかげで、問題なく逃げきることができそうだ。


(ふふんっ……ローナ・ハーミット恐るるに足らずね。逃走経路も複数パターン確保したし、一分の隙もないエリートな夜逃げだわ。やっぱりエリートだと、夜逃げすらもついエリートになっちゃうのよね)


 とか心の中でドヤ顔しながら、エリミナが足を踏み出しかけたとき。


(……ん? あれ、なんかオーラが……こっちに来てるような?)


 そう思ったところで――。


 ぐるん――ッ!!


 と、ローナ・ハーミットのオーラがいきなり方向転換をして、こちらに猛スピードで接近してきた。


(え、ちょ……嘘、でしょ……?)


 あきらかに、エリミナの家へと一直線に向かってきている。

 まるで、夜逃げのタイミングを見はからったかのように。

 そして――。




「――エリミナさ~~ん♪」




 ごごごごごごォオオオオオオ――ッ!! と。

 満面の笑みで手を振りながら、隕石みたいに空から襲来する少女を見上げつつ――。



(………………もうやだぁ)



 エリミナはへなへなと、その場にへたりこむのだった。



 その後、エリミナの自宅にて。

 エリミナはローナと向かい合っていた。

 がらんとした部屋の中、ローナに自分のトランクを椅子としてすすめ、自分は床に正座する。


「あ、あの、エリミナさん? もしかして、どこかに出かけるところでしたか?」


「……い、いえ、そんなことは」


 だらだらと冷や汗を流すエリミナ。


(え……なに? どういう状況? というか、なんで当たり前のように、うちの住所知られてるの? 怖い……)


 おそらくは、逃げようとしたエリミナに警告しに来たのだろう。

 だからこそ、今まで泳がせておいて、いざ逃げようとしたタイミングでやって来たのだ。



『――逃げられると思ったか?』



 と、エリミナを嘲笑うために。


(ああ、そうだ……)


 わかっていたはずだ。


 ――ローナ・ハーミットからは逃げられない、と。


 そんなふうに絶望しているエリミナをよそに。

 ローナはおろおろしていた。


(うぅ……勝手にインターネットで家を調べて来ちゃったけど、迷惑だったかな? エリミナさんは優しいから気を使ってくれてるけど、やっぱり出かけようとしてるとこだったよね?)


 それから所在なさげに、家の中をきょろきょろ見回す。


(でも、エリミナさんってギルドマスターだし稼いでそうなのに、質素な暮らししてるんだなぁ。きっと稼いだお金のほとんどは、新人冒険者の援助や寄付にあててるんだろうなぁ……私のカード再発行のときみたいに)


 そんなふうに、しばらくすれ違ったあと。


「そ、それで、本日はどのような用件で……? 『自害せよ』とか……?」


「じがい?」


 おそるおそる尋ねるエリミナに対して、ローナはここに来た目的を思い出す。


「ああ、そうでした。エルフの隠れ里に行ってきたのでお土産を」


「え、エルフの……隠れ里……?」


 当然のように、ものすごいパワーワードを投下された。


 それから、エリミナは気づく。

 ローナのオーラがすごすぎて、今までまともに直視していなかったが……。


 ローナの頭の上には、薔薇をあしらった王冠が載っていた。


「そ、それは……?」


「あっ、これもエルフの隠れ里で手に入れてきました」


「手に入れたって……王冠を?」


「なんか敵を倒したら落としました」


「敵を……?」


「はい!」


 と、笑顔で答えるローナ。

 これはなにを隠そう、女王薔薇クイーンズハートのドロップアイテムだ。



――――――――――――――――――――

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――――――――――――――――――――

▍防具/頭/【女王薔薇の冠】


 ▍ランク:B  ▍種別:兜

 ▍効果

  防御+87 精神+87 幸運+87

  敵視増加(大)


▍装備スキル:【女王の威厳】

 ▍効果:範囲内にいるレベルが下の敵を、

     高確率で魅了状態にする。


▍概要

 【女王薔薇クイーンズハート】のドロップ

 装備。

 王冠なのに、なぜか盾役向きの性能になっ

 ている。


 敵を引きつけたうえで、まとめて無力化で

 きるため非常に優秀。

――――――――――――――――――――



(あいかわらず、加工品が落ちてくるのは謎だけど……ドロップ率20%のアイテムをまた手に入れるなんて、ついてるなぁ。ちょうど頭装備はなかったし。ちょっと目立っちゃうけど……)


 と、ご満悦そうなローナに対して。


(敵を倒したら王冠を落としたって、まさか……)


 エリミナはわなわなと戦慄していた。




(…………王位簒奪を?)




 そういえば、とエリミナは思い出す。

 先日、発生したイプルの森での天変地異……。

 おそらく、あれもローナ・ハーミットの仕業だが、思えば“迷いの霧の結界”の近くに被害が集中していた気がする。


 ただでなくても警戒心が強いエルフに対して、あれほどの敵対行動を取ったのだ。

 エルフと友好関係がなければ入れないという隠れ里に、正攻法で入れるわけがない。


 ということは、あの天変地異を起こした目的は――。



(結界の外から……エルフの隠れ里を滅ぼすため……?)



 エリミナの中で――全てが、つながった。


 おそらく、ローナの言う『敵』とはエルフのことだろう。

 そもそも、武門のググレカース家が総力をあげても入りこめない地に、ただのモンスターや盗賊なんているはずがない。


 もしも入りこめたところで、精強なエルフの戦士に、すぐに討伐されるはずだ。

 だとすれば――。


「いやぁ、里の中には“敵”がたくさんいて大変なことになってて。あまりにも“敵”が多いから、一度で倒しきれなくて後始末が大変でしたね……本当に次から次へとわいてくるので、“敵”が」


(……え、エルフが……)


「でも、“敵”がたくさんアイテムを落としてくれたので、ちょっと儲かっちゃいましたけどね。えへへ」


(……そ、そんな笑顔で……略奪を?)


「それに、“敵”をたくさん倒したら、エルフのみんなから宝石とかごちそうとかたくさんもらっちゃって。このお土産のエルフせんべいも、実はただでいただきまして――」


(……み、貢ぎ物を捧げられてる)


「エルフの城のベッドもすごい寝心地がよかったなぁ……久々にぐっすり寝られました」



(…………怖いよぉ……)



 これが、ローナ・ハーミットに敵対した者の末路なのだ。

 そして、なぜエリミナにわざわざそんな話をしに来たのか。

 そんなのは、決まっている。



『――次はお前がこうなる番だぞ?』



 ローナの笑顔は、そう語っているようにしか見えなくて――。


「エリミナさん? どうして泣いてるんですか?」




「………………殺さないで」




「え、敵を……?」


 なぜか、エリミナがえぐえぐと泣きだす。

 その姿に、ローナは少しぽかんとするが――。


(そっか……倒されたモンスターのことを想って、涙を流してるんだね。エリミナさんって、聖女みたいな人だなぁ)


 そんなこんなで、お土産配りも済み。

 ローナの中で、エリミナへの好感度がさらに上がったのだった――。



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― 新着の感想 ―
もうエリミナさんが旅について行く、とかいう展開になったら面白そう
[一言] もう草しか生えないw
[一言] 勘違いがすごいことにw
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