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世界最強の魔女、始めました 〜私だけ『攻略サイト』を見れる世界で自由に生きます〜(Web版)  作者: 坂木持丸
第3章 エルフの里に行ってみた

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17話 エルフの姫


 イプルの森の中――。

 エルフ族の姫エルナが、フォレストウルフの群れから逃げていた。


「はぁ……は……ん、くっ……!」


 いつもは危険なモンスターが出てくるような場所にまで入らなかったが、今日は焦りからか深入りしすぎてしまったのだ。


 この辺りにいる“森のヌシ”がいなくなったため、油断していたのもあるだろう。


 森歩きには慣れているエルフとはいえ、まだ子供の身だ。

 ウルフの群れとの距離はどんどん縮まっていき――。


「あ……っ!?」


 やがて、エルナは木の根に足を取られて、その場に転んでしまった。

 はっとして後ろを見れば、すぐ側まで迫ってきているフォレストウルフの群れ。


「こ、来ないで……っ」


 エルナが小ぶりのナイフをウルフに向けるが、威嚇にもならない。

 ウルフたちはぐっと体勢を低くして、今にも飛びかかろうとしている。


(くっ……頑張って魔法も練習したのに)


 モンスターを前にすると、エルナは身がすくんで戦えなくなってしまった。

 魔法を発動しようにも、冷静に術式を編むことができない。


(わたし……こんなところで、死ぬの? マボロリーフも見つけられないで……お母様を助けられないで……)


 どうして、こうなったのだろう。

 少し前まで、エルナは平和な日常を過ごしていたというのに。

 いつからか、全てがおかしくなってしまった。


(……神様っ!)


 そして、エルナがぎゅっと目を閉じて、そう祈りを捧げたとき――。




「――プチアイス」




 ふいに、頭上からそんな声が聞こえてきた。

 その次の瞬間――。


「……っ!?」


 ひゅぉおおぉおォオオ――ッ!!

 と、強烈な冷気が押し寄せてきた。

 同時にウルフたちのうなり声が、ぴたりと消える。


「な、なにが……?」


 エルナがおそるおそる目を開け――絶句した。

 目の前の景色全てが、白く凍りついていたのだ。


 ウルフの姿はもうなく……。

 ただ怯えたような顔をしたウルフ型の氷だけが、辺りに残されている。


「…………な……なっ」


 なにが起きたのか理解できない。

 こんなのは人間業ではない。

 それは、まるで本当に神様の奇跡のようで……。


「……っ!」


 エルナは頭上に気配を感じて、はっと顔を上げた。

 そこにいたのは、光の翼を生やした神々しい少女だった。


 ただ見ただけでも、その体から膨大なマナが放出されていることがわかる。

 その姿は、間違いない――。




「――――神様」




「え? いや、違うけど……」


 翼の少女は戸惑ったように頭をかいた。


「あ、ごめんなさい! 救世主様でしたか……!」


「違う、そうじゃない」


 翼の少女はすぐに否定するが。


(なるほど、()()()()()()にしたいんですね)


 エルナにはわかっていた。

 翼の少女の手に握られているものが、なんなのかを。


(あれは、やはり伝説の……世界樹の杖)


 ――世界樹杖ワンド・オブ・ワールド。

 それはエルフの神話にある伝説の杖だ。

 いずれ世界に危機が訪れたとき、救世主がこの杖を手にするとされている。

 だとすれば、この天使のような少女がここにいるのは――。


「もしかして……わたしの願いを聞き届けて、神様がつかわしてくれたんですか?」


「なんで、神様……? ああでも、言われてみれば、そうとも言えなくもない……のかな?」


「やっぱり!」


 エルナが涙を流して、翼の少女に感謝の祈りを捧げる。


「お願いです、救世主様! どうか、お母様を……エルフの里を救ってください!」


「……え? あ、はい」


 一方、いきなり祈られだした翼の少女――ローナのほうは、ひたすら戸惑っていた。


(ど、どういう状況……?)


 地図にあった『サブクエスト開始場所』の真上を通過したら、なにか事件に巻きこまれて、救世主と崇められた件。


 ローナは顔を引きつらせながら、改めてインターネットの画面を確認する。



――――――――――――――――――――

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――――――――――――――――――――

▍サブクエスト/【毒医(ドクター)ザリチェの野望】


 ▍推奨レベル:50

 ▍発生条件 :【森のヌシ】討伐

 ▍開始場所 :【イプルの森】

 ▍達成報酬 :【エルフ女王のお守り】


▍概要

 エルフの姫【エルナ】とともに、エルフの

 流行り病の謎を追おう。

 植物系モンスターが多く、【身代わり人

 形】などの状態異常対策は必須。

――――――――――――――――――――



(これ……今さらキャンセルとかできないよね?)


 キラキラした目を向けてくるエルナを見ながら、ローナは少し肩を落としたのだった。




   ◇




「――救世主様! エルフの隠れ里はこっちです!」


「う、うん。救世主じゃないけど……」


 ということで、エルフの少女エルナを助けたあと。

 ローナはエルナに手を引かれて、森の奥へと進んでいた。


「ちゃんと手を握っててくださいね? そうしないと、帰れなくなってしまいますから」


「な、なにそれ、怖い……」


 だんだん立ちこめる霧が濃くなり、道が見えなくなっていく。


 周囲の町民たちからは、迷いの森と言われている場所だ。

 エルナの話では、エルフが“迷いの霧の結界”を張って、里を隠しているらしい。


(……帰りたい)


 その異様な森の様子に、ローナがちょっとビビりながら森を進んでいくこと、しばし――。


「そろそろ里に着きますよ」


「ああ……よかった」


 と、安心するのもつかの間だった。




「――――立ち去れ、余所者よ」




「へ?」


 気づけば、霧の中から無数の弓矢がローナに向けられていた。

 その弓を持っているのは、エルフの集団だ。


「な、なにするんですか!? この人は悪い人ではありません!」


 エルナがローナをかばうように前に出るが。


「……っ! エルナ姫! 貴様、姫様になにをするつもりだっ!」


 なぜか、すごい警戒されていた。

 エルフたちがどこか怯えたような目をローナに向けてくる。


「え、えっと、私はただつれて来られただけで……べつになにもするつもりはないですよ? ほら、実際になにもしてな――」


「う、嘘をつくな……っ!」


 エルフの誰かが叫ぶ。



「――貴様がこの森で天変地異を起こしたことは、わかってるんだぞ!」



「……………………」


 そういえば、めちゃくちゃ警戒されるようなことをやらかしていた。

 いきなり森を焼き払ったり、凍りつかせたり、竜巻でなぎ払ったりしたら、エルフと敵対関係になってもおかしくない。



「な、なんてマナの量……っ! う、うぉおええええッ!!」

「だ、大丈夫か! しっかりしろ!」

「ひっ! ひぃああああッ! 来るな……来るなぁああッ!!」

「バカッ、勝手に矢を放つな! 姫様もいるのだぞ――って、弾かれただと!?」

「な、なんだあの硬さ!? 化け物だぁっ!」

「くそっ、厄災の魔女めっ! 我らの森を滅ぼすつもりかっ!」

「やはり、人間とは戦争をせざるをえないのか……っ!」



 ……大惨事だった。

 ただ立っているだけなのに、状況がどんどん地獄と化していく。


(ど、どうしてこうなった……)


 ただ薬草採集をしていただけなのに。


(もう帰りたい……薬草換金したい……)


 と、ローナが遠い目をしながら考えていたところで。



「――落ち着きなさい!」



 エルナの一声で、エルフたちのざわめきが収まった。


 さすがは、姫と呼ばれているだけのことはあるのだろう。

 その立ち姿はまだあどけなさが残るものの、どこか王族としての威厳を感じさせるものだった。


「……まずは落ち着いて、救世主様が手にしている杖を見てください」


 そうしてエルナが指さしたのは、ローナの持っている杖。

 エルフたちの視線も、杖に集まる。


「あ、あれは、伝説の世界樹の杖……?」

「ということは、まさか神話に伝えられる救世主……?」

「それなら、あのマナの量も納得が……」


「そうです! 里の危機に、救世主様が駆けつけてくれたのです!」


「な、なんと……っ!」

「助かるのか、我らの里は……?」

「だとすると、我らはなんて無礼な態度を……!」


 エルフたちが戸惑いと畏怖が入り混じったような目を、ローナに向け――。




「「「――も、申し訳ございません、救世主様!!」」」




 ローナに対して、ばっと一斉にひざまずいた。

 そんなエルフたちを見ながら、ローナは――。



(……早く帰りたい)



 と、切実に思うのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] >地図にあった『サブクエスト開始場所』の真上を通過したら、なにか事件に巻きこまれて、救世主と崇められた件。 よくあることですねww
[一言] かなりレベルアップしたし、いい加減、プチじゃない魔法も覚えないのかな。
[気になる点] エルナ?エルマ?
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