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世界最強の魔女、始めました 〜私だけ『攻略サイト』を見れる世界で自由に生きます〜(Web版)  作者: 坂木持丸
第13章 異世界に行ってみた

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137話 元の世界に帰ってみた


 そんなこんなで。

 ローナは、マザーやピコと一緒に、異世界観光をすることになったわけだが。

 異世界にいられる残り時間は、あと40分ほどしかなく――。



「――というわけで、観光効率を上げるために、ちょっと3人に増えますね! 水分身の舞い!」



【ぴっ!?】〘――!?〙


 と、さっそくローナは自重を捨てることにした。

 そう、先ほどの異世界観光では、まだローナは本気を出していなかったのだ。


 しかし、今はこの都市の管理者であるマザーの協力も得られたため、もう自重をする必要はなくなり……。


【こ、こいつ、ついに増殖までしだしたのデス!? 人間やめてるのデス!?】

〘――ひ、非科学的すぎると推測されます――こ、これが、ローナの本気の〈観光〉――!?〙


 

「「「――いえ、まだです! フルスロットル! からのぉ――猪突猛進っ!!」」」



 と、ローナは、さらにスキルを重ねがけする。


 【水分身の舞い】によって3人になったことで、観光効率は3倍。

 半自動式散弾銃セミオート・ショットガンの装備スキルにより、速度はいつもの1.4倍。

 猪突のブーツの装備スキルにより、移動速度はさらに2倍。

 そう、つまり――。



「――今の私の観光スピードは、いつもの8.4倍ですっ!」



 こうして、しゅばばばば――っ!! と。

 ローナ×3は、目にもとまらぬスピードで、一斉に観光を始め――。




 ――「こんにちはーっ!」――「いぇ~い♪」――「あっ、ここの橋は、手すりの上を歩くと、“ちゅーとりある”をスキップできるんですよね!」――「わぁっ、“映え”スポット発見です!」――「わーいわーい!」――「待て待て~!」――「えへへ! 異世界観光って、最高ぅ~♪」――――。




【ぴっ!? お、恐ろしく速い観光なのデス!? ピコの高性能アイカメラでなきゃ見逃しちゃうのデス!?】

〘――っ!? ローナの〈観光〉が音を置き去りに――!?〙


 そんなこんなで、ローナ×3が超高速で観光をしていると。


 やがて、ウーウーと警報が鳴り響きだし、わらわらと警備ロボットが集まってきて、じゃきじゃきじゃき……と、ローナ×3に銃口を突きつけた。




『――午後5時29分。〈銃刀法違反〉オヨビ〈クローン人間作成容疑〉オヨビ〈不審者通報多数〉ニヨリ、アナタヲ拘束シマス』




「「「…………はい」」」


 こうして、ローナの本気の観光開始から5分後……。

 ローナ×3は手錠をかけられ、警察車両で連行されていくのだった。



      ◇



【……いや、まあ、そりゃそうなるのデスよ✜】


「……ご、ごめんなさい」


 それから、マザーのとりなしのおかげで、ローナは数分で釈放され――。


 留置所でたっぷり反省したローナは、気を取り直し……今度はスピードを抑えて、マザーやピコたちと一緒に、異世界を見てまわりだした。


 ちなみに、マザーは地上を歩くことに慣れていないため、車椅子での移動となったが……それでも、初めての現実世界の観光を楽しんでくれたようで。

 目をキラキラさせながら、この都市の穴場スポットなどを教えてくれた。



〘――次は、あっちに行ってみるべきと推測されますっ――〙


【――ぴぃぃっ!? やべぇのデス!? 封印されたはずの暴走マシンが、こっちに向かってくるのデスっ!?】


「あっ、この裏ボスなら、“プリズマコンボ”で一撃です」(ヂィィィィッ!! ボンボンボンッ!!)


〘――!? ――!?〙



【お、おい、異世界人✜ あと20分しか時間がないのデス✜】


「大丈夫です! この『なにも選択されていません』を素材分解して出てくるダミーデータを、任意の“わーぷえれべーたー”に投げこむと、“わーぷ”先を変えられて時短できるので!」


【おい、この世界を壊すのはやめるのデス✜】



〘――ふふ――ふふふっ――〙


 と、ローナのめちゃくちゃっぷりに、マザーが思わず笑いだす。


 マザーにとっても、現実世界は新しい刺激の連続であり……また、市民とも生身で交流できたのがうれしかったのか、マザーはいつもより笑顔がふえていた。


 こうして、楽しい時間はあっという間に過ぎていき……。



 そして、夕方――。

 ついに、ローナが元の世界に帰るときがやって来た。


「よし、これで……異世界でやりたいことは、みんなできたね」


 夕焼け色に染まりつつある都市の中。

 見晴らしのいい塔の屋上――マザーがおすすめした最後の観光スポットにて。


 ローナは『異世界に行ったらやりたいことリスト』の最後の項目『観光スポットを制覇する』にチェックを入れると……最後に、ピコとマザーのほうに向き直った。


「それじゃあ、いろいろとありがとうございました! ピコちゃんとマザーさんのおかげで、すごく楽しい異世界旅行になりました!」


【お、おい……おまえ、本当にもう帰るのデスか✜】


「はい。できれば、私ももっとこの世界にいたかったんですが……時間制限がありますので」


 そう言って、ローナが視界の隅を見ると。

 そこに表示された自爆タイマーの表示は……。



 ――0:05:29。



 この世界にいられるのも、残り5分となっていた。


〘――そう、ですか。では、最後に――改めて感謝します、ローナ――あなたのおかげで、この世界は今後――より幸福にアップデートされていくと推測されます――〙


【まあ……人間のわりには、よくやったと褒めてやるのデス✜】


「えへへ! とりあえず、力になれたのならよかったです!」


〘――それで――最後に、あなたに〈提案〉があるのですが――〙


 と、マザーが真面目な表情になって告げてきた。



〘――いつか、あなたも、この世界で生きませんか?〙



「え?」


 それは、ローナにとって思いがけない提案だった。


【ま、マザー様、それは……✜】


〘――わかっています、ピコ――しかし、ローナの話を聞いてみれば――ローナの世界は、非常に危険が多いと推測されます――月1ペースで世界が滅びかけるなど、人間が住んでよい環境ではありません――とても心配です〙


「それは、まあ……たしかに」


 言われてみれば、そんな気がしてきた。


〘――〈結論〉:ですから、安全なこちらの世界に移住するほうが――幸福になれる確率が高いのでは――と、推測したのですが〙


 たしかに、マザーの言うことにも一理ある。


 ローナの世界は、危険に満ちあふれている一方で。

 この世界はこれから、どんどん安全に、快適に――そして、楽しくなっていくだろう。

 それでも――。


「うーん、申し出はうれしいんですが……でも、やっぱり、私は自由な旅が好きなので!」


 ローナの心が傾くことはなかった。

 そうでなければ、エルフの女王から同じ申し出をされたときに、ローナはすでに旅を終えていただろう。


〘――し、しかし――本当に、大丈夫なのですか?〙


 と、マザーが我が子を心配するように、おろおろしだす。


〘――〈旅〉というのは〈子供には危険〉だと推測されます――痛い思いをしたりしませんか? ――〈失敗〉や〈後悔〉や〈不安〉や〈失望〉や〈涙〉を取得することには、なりませんか――?〙


「うーん、まあ……大丈夫、ではないかもしれませんが」


〘――えっ〙


「たぶん、私はこの先も、たくさんころんで、たくさん失敗して、たくさん後悔して、たくさんがっかりして、たくさん不安になると思いますが……」


 しかし、そんな言葉とは裏腹に、ローナの顔はわくわくに満ちていて。



「――でも、私は……そんな私の旅が大好きですから!」



〘それは――〙


 きっとその答えは、マザーの望んでいたものではなかっただろう。

 しかし、彼女はやがて、口元をふっとほころばせて。



〘――とても、〈人間〉らしいですね〙



 と、どこかうれしそうに、そう言うのだった。


 そして、その話の終わりとともに。

 ローナの視界の隅に表示されていたタイマーが……。



 ――0:00:00。



 と、なった。


「あ……時間、みたいですね」


【お、おい……おまえ、体が透けて……✜】


 ローナの体が夕焼け空に溶けるように、光の粒子となって消えていく。

 おそらく、元の世界へのワープが始まったのだろう。

 ここまで来たら、もう止めることはできないが……。


【お、おい、異世界人っ✜】


「えっ、ピコちゃん?」


 と、そこで、ピコが声を上げた。


【ま、またいつか、ピコがおまえの世界に行くのデス✜ それで、今度はピコがおまえの世界を観光するのデス✜ だから、そのときは――】


 ピコが少しだけ言葉をつまらせて、それから少し顔を赤くして――。



【――おまえがピコを案内するのデスよ、ローナっ✜】



「っ! はい、約束です――」


 そして、そんな言葉とともに。

 夕日がひときわ強く、ローナを包みこむような光を放ち――。



【……………………】



 ピコが、ふたたび目を開けたとき。

 少女の姿は、もう……この世界から消えていた。


 つい先ほどまで、あれだけの存在感を放っていたというのに。

 あれだけ、この世界を振り回していたというのに。

 ……消えるときは、あまりにもあっけなくて。


【まったく、あいつは……最後まで……自由すぎるのデス……✜】


〘――ピコ〙


 そこで――ぽんっ、と。

 ピコの頭に、マザーの手が置かれた。


〘――大丈夫――きっと、また彼女とは会えますよ――〙


【………………】


〘――ですから、それまでに、この世界をよりよくアップデートして――次に、彼女がこの世界に来たとき、たくさん驚かせてあげましょう――〙


【……はい、なのデス✜】


〘――さあ、そうと決まれば――やることは山積みですよ――〙


 マザーがそう言って、ふり返ると……。

 こちらに近づいてくる人間たちの姿があった。

 反機械勢力〈イカロスの翼〉の5人の少女たちだ。


〘――アリア、ハーノィ、エネミ、ミサ、ユウ――〙


 マザーが少女たちの顔を見て、その名を愛おしげに呼ぶ。



〘――大きくなりましたね――〈わたし〉の愛しい子供たち――〙



 そして、マザーと少女たちは、どちらからともなくハグをかわした。


 ……これは、間違いなく、この都市の運命の転換点だろう。


 しかし、肝心なのはここからだ。

 あの異世界の少女が作ってくれた、この光景を、この瞬間を――。

 ここから、自分たちで守っていかなければならない。


 ただ、必要なものは、もう充分すぎるほどにもらっている。

 だから、あとのことは――この世界の者たちの責任だ。


【……まったく、おまえのせいで、いっぱい働かなきゃいけなくなったのデス✜】


 ピコは、そう思わず苦笑してから。

 人間たちのほうへと、一歩、足を踏みだし――。



【…………ぴ?】


 と、そこで。

 突然――足元に、魔法陣の光が現れた。

 その輝きに、ピコは思わず目を閉じ……。



「――あっ、問題なく召喚できましたね」



【………………】


 そんなめちゃくちゃ聞き覚えのある声に、おそるおそる目を開けると。


 そこにいたのは、予想通りというか、なんというか……。

 ついさっき、元の世界に帰ったはずのローナだった。



【…………いや、おまえ……えぇぇ……✜】



「?」


 なんか、いろいろ台無しだった。


【と、というか……なんで、おまえがここにいるのデス? 異世界に帰ったはずでは?】


「……? はい、帰りましたよ? ただ、ピコちゃんに、こっちの世界を案内するって約束したので、さっそく召喚してみたんですが……」


【……こっちの世界? 召喚?】


 と、ピコはそこで、ようやく気づく。


 今、自分がいる場所は……先ほどまでいた空園都市ソラリスではなく。

 今朝までピコがいた異世界(テラ)の地下要塞――いわゆる、“こらぼダンジョン”だということに。


【な、なぜ……どうして、ピコがここに?】


「えっと、説明するのは、ちょっと難しいんですが……」


 と、ローナはおもむろに、ドヤ顔のピコの絵が描かれた宝石のかけらを取り出した。


【ぴ? それは?】


「あっ、これは、ピコちゃんの魂のかけらです」


【どういうことデス!?】


「えっと、この世界では今、『ピコちゃんの魂のかけらを100個集めると、ピコちゃんが無料でもらえるイベント』というのをやってまして」


【この世界の倫理観どうなってるのデス!?】


 と、小動物のようにガタガタと震えだすピコ。


 まあ、『ピコが無料でもらえる』と言っても……よくよく調べてみたら、『魂のかけら×100を錬金術で合成すると、ピコの召喚石が手に入る』という感じではあったが。


 なにはともあれ、ローナはすでにピコの魂のかけら×100を持っていたこともあり、ぱぱっとピコの召喚石を作り……今に至るというわけだ。


「あっ、そうだ……あまった魂のかけら食べます?」


【食べるわけないのデスよ!?】


 なにはともあれ……。

 こうして、ピコの召喚石も手に入ったことだし。



「えへへ! これで、ピコちゃんはいつでも、こっちの世界に来れますね!」



 と、ローナはなにも考えてなさそうな笑みを浮かべる。

 一方、ピコは黙ったまま、ぷるぷると震えだし――。


【…………】


「あ、あれ、ピコちゃん? どうしたんですか? もしかして、今からなにか予定とかあったり……」


【ん~っ……あぁ~っ、もぉ~っ✜ ほんっと、おまえ、そういうとこデスよっ✜】


「え? え?」


【はぁ……もういいのデス✜ 今日はもう、働く気分じゃなくなったのデス✜】


 そう言って、困惑しているローナを放置して、ピコはさっさと歩きだし……。

 それから、くるりとふり返って。



【――おい、ローナ✜ ピコも観光をするのデス✜ さっさと、この世界を案内するのデス✜】



 と、にやりと笑うのだった――――。





というわけで、次回軽めの後日談をやって13章終了です

(次話は、今日の18時ぐらいに投稿します)

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【朗報】ピコたん、やっぱり捕まってしまう 二体に分身とかしてないし、まだましな方なんじゃないかナー。ていうか、科学の世界からやってきたこの子がドールランド商会やエリミナ=サンガチ勢と結びついてしまった…
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