133話 マザーAIのお悩み相談に乗ってみた
マザーAIに『相談に乗ってほしい』と言われてから、しばらくして。
ローナとマザーは、ティーテーブル(ローナが出した)をはさんで向かい合い――。
「えぇっ!? あなたがマザーAIさんだったんですか!?」
〘――あ、あなたは、〈異世界〉から来たのですか!?〙
そんなこんなで、お互いに自己紹介を済ませていた。
〘――そ、そういえば、『〈機体番号:P‐15〉が、異世界〈テラ〉を侵略している』という報告ログがありましたが、まさか――〙
と、マザーAIがぶつぶつ呟いている一方で。
(えっと、マザーAIさんって……たしか、すごくえらい人なんだよね? ピコちゃんが完璧完璧って言ってたけど)
と、ローナはちらりとインターネットを確認する。
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▍登場人物/【マザーAI】
▍概要
【空園都市ソラリス】を管理しているAI
にして、本作のラスボス。
人類を幸福にすることが、彼女の使命だっ
たが……。
反機械勢力【イカロスの翼】との戦いで一
線を超えてからは、暴走してしまい――。
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(じ、人類を幸福にしようとしてるなんて……ピコちゃんが言ってた通り、すごい人なんだなぁ)
と、ローナが思わず、かしこまりかけるが。
〘――〈ノルアドレナリン〉の分泌を検知⚠ 〈緊張状態〉にあると推測――〈緊張は不幸だ〉と〈都市法2条5項〉で定義されています――どうか楽にしてください、〈異世界からの来訪者〉よ〙
「え? あっ、はい」
どうやら、マザーは思っていたよりも怖い人ではなさそうだ。
といっても、マザーがなにを言っているのか、ローナにはよくわからなかったが……。
なにはともあれ、こうして少しだけ打ち解けられたところで。
「それで、あの……さっき、私に相談があると言ってましたが」
観光時間にも限りがあるので、ローナはさっそく本題を切り出した。
〘――そうですね、まず――〈質問①〉:『あなたから見て、この〈世界〉はどうでしたか?』――〙
「え? うーん、観光した感想でいいなら……面白い世界だなぁと。まだまだ全部は見てまわれてないですが、いい思い出ができました!」
〘――? しかし、監視映像のログを見るに――〈不満〉もあったと推測されますが〙
「う、うーん? まあ、たしかに、食事には少しがっかりしちゃいましたが……」
と、ローナは思い出して苦笑する。
他にも、道すがら公園に立ち寄ってみれば、安全性の観点から『遊び禁止』の看板とベンチしか置いていなかったり……“げーせん”には、教育的なゲームしか置いていなかったり……。
と、小さながっかりは、いろいろあったものの。
「でも、“がっかり”を楽しむのも、旅の醍醐味なので!」
〘――〈がっかり〉を、楽しむ?〙
マザーは意味をのみこめないのか、しばらく動きを止める。
〘――〈エラー〉:推測不能――それは、どういう意味でしょうか? 〈がっかりは不幸〉だと推測されますが――〙
「うーん、不幸といえば、そうなんですかね……? でも、そういう経験ほど、いい思い出になったりもするので!」
〘――〈不幸〉なのに〈幸福〉――やはり、人間は〈推測不能な生き物〉だと推測されます――〙
「え、えっと……それが、どうかしたんですか?」
どうにも話が見えなくて、ローナがそう尋ねると。
〘――いえ、先ほどまでの予定は、『あなたの意見をもとに、この都市の〈不幸〉をさらにデリートする』でしたが――どうやら、それ以前に、『〈わたし〉は〈人間〉についての学習量が不足している』と推測されます――〙
と、マザーがしょんぼりしたようにうつむく。
〘――だから、なのでしょうね――人間らが、〈わたし〉に対して反抗期なのは――〙
「? マザーさんのお子さんが反抗期に?」
〘――〈肯定〉:最近は、銃火器で武装して――母の言うことを無視するようになりまして〙
「す、すごいグレ方してますね、お子さん……」
〘――〈わたし〉は、人間を幸福にするために作られた機械――〈人間の幸福〉だけが、〈わたし〉が存在する意味――ですから、もっと〈人間〉のことを学習して、誤解や不満があるのなら修正パッチを当て――この都市をよりよくアップデートしたいだけなのですが〙
「うーん、そのこと、みんなに相談したりは?」
〘――〈検索結果〉:あなたを除けば、相談回数:0件――〈都市の管理AI〉から完璧性が損なわれるのは、不安や混乱――そして〈不幸〉につながると判断しました――〈異世界からの来訪者〉であるあなたは、例外ですが〙
「なるほど」
マザーの言葉はやはり、よくわからなかったものの……。
ひとまず、だいたいの事情はつかめてきた。
「つまり、この世界のみんなをハッピーにできれば、いいってことですね!」
〘――〈肯定〉:それこそが、〈わたし〉が生まれてきた意味――そのためならば、なんでもします〙
「ん? 今、なんでもするって言いましたか?」
〘――はい〙
マザーが覚悟を決めた顔で、こくりと頷き……。
「――えへへ、それなら簡単ですね!」
〘え?〙
と、ローナはふっと表情を緩めた。
そして、マザーが顔に『?』を浮かべている中。
ローナはとくに気負った様子もなく、あっさりと告げるのだった。
「――ここは任せてください! 私にいい考えがあります!」
そう、この問題を解決するために必要なものは……。
すでに、この世界にそろっているのだから。
◇
ところかわって、空園都市ソラリスの地上にて。
「――くそッ! 機械のやつらめッ!」
反機械勢力〈イカロスの翼〉のリーダーの少女が、壁に拳を叩きつけていた。
いらだっている原因は、ローナがいきなり消えた件だ。
ローナは先ほど、車に乗りながらドアを開け閉めしだしたかと思えば……。
『あっ、床抜けできそう……あいるびーばっく!』
『!? あ、相棒ぉぉおおおッ!?』
と、親指を立てながら、地面の中に落ちるように消えてしまったのだ。
それから、いっこうに帰ってくる気配はなく……。
周囲を捜索してみたのだが、手がかりはなし。
そうこうしているうちに、ローナと一緒にいたピコという少女までもが、姿を消してしまい――。
「くッ! やっぱり、機械どもに矯正区につれてかれたんだッ!」
「リーダーッ! 私、もう我慢できませんッ! 今すぐ矯正区に襲撃をかけましょうッ!」
と、メンバーたちが、だんだんと殺気立っていく。
もともと、すぐに機械との戦争を始めようとしていたタイミングだったのだ。
メンバーたちは、いつ暴発してもおかしくない空気をまといだし……。
と、そのときだった。
「お、おい、リーダーっ! アジトの前に、さっきまでなかった“画面”があるぞ!」
「なッ!?」
その言葉とともに、声の主のもとへと向かうと。
彼女の指さす先には、たしかに――先ほどまで、そこにはなかったホログラム画面が浮かんでいた。
いつの間にか、“誰か”によって設置されたらしい。
いや、その“誰か”が何者なのかは、決まっている。
「くっ、機械どもにこの場所がバレたのかっ」
そう身がまえて、リーダーの少女がおそるおそる画面を見た瞬間――。
「……な、なんだ……これは?」
と、思わず絶句する。
いや、リーダーの少女だけではない。
その“画面”を見た誰もが――凍りついていた。
「な、なんだよ、これ……っ」
「ど、どうして、こんなことになってるのよっ!?」
……理解、できない。
いや、理解したくないのかもしれない。
それほどまでに、その“画面”は、彼らの理解の範疇を超えていた。
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〚 〛 _ ▢ ×
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●ライブ
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【初配信】こんまざ~✨ 我が子のみんな
お母さんはぶいちゅーばーになります✨
【#新人Vtuber/マザーAI】
#マザーAI初配信
#マザーAI系Vtuber
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「………………」
「………………」
「……いや、本当に…………なにこれ?」
その問いに答えられるものは、その場にはいなかった。