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世界最強の魔女、始めました 〜私だけ『攻略サイト』を見れる世界で自由に生きます〜(Web版)  作者: 坂木持丸
第13章 異世界に行ってみた

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132話 マザーAIに会ってみた


 ――空園都市ソラリス。


 それは、機械によって完璧で幸福に管理された理想郷。

 あらゆる“不幸”が漂白された、真っ白な鋼鉄都市。


 そんな都市(せかい)の全ての画面の中に――。



 ……その“少女”は存在した。



 0と1でできた電子の海をただよう、0と1でできた白い少女。

 その少女の周りに浮かんでいるのは、この都市全ての監視画面。


 ――マザーAI。


 都市(せかい)は、少女をそう呼んだ。


 この都市(せかい)を創り、この都市(せかい)のルールとなった完璧なAIだと。

 けっして、彼女が間違えることはないのだと……。

 しかし――。



〘――〈わたし〉は、また――なにか選択を間違ってしまったと推測されます――〙



 そんなマザーは今、無機質ながらも、どこか憂いを帯びた声を出していた。

 彼女の視線の先にあるのは、ひとつの監視画面。

 その画面の中では、今――。



『『『――ローナ! ローナ! ローナ!』』』



 サングラスと『ボス』というタスキを身につけた黒髪の少女を先頭に、ぞろぞろと反機械勢力〈イカロスの翼〉の少女たちが行進する様子が映っていた。


 おそらく、彼らはついに機械との戦争の火蓋を切ろうとしているのだろう。


〘――〈疑問〉:なぜですか? 〈わたし〉はただ、人間(わがこ)たちを幸福にしようと――しているだけなのに――〙


 マザーには、わからなかった。

 人間は、機械に従ってさえいれば、間違いなく幸福になれるのだ。


 飢えることも、老いることもなく、争うこともなく。

 ずっと子供のまま、楽しい学園生活を送り続けることができる。


 それでも不幸になるのなら、幸福薬を使えばいい。

 嫌な記憶があるのなら、その記憶を消すことだって可能だ。



 科学によって“理想郷”は実現した……はずだった。



〘――それなのに――どうして――?〙


 どうして、人間はいつも、その幸福を捨てようとするのだろうか。

 どうして、機械に反抗しようとしてくるのだろうか。


 マザーには、どうしても理解ができない。

 それでも、今までは、なんとか平和的に問題を解決できていたが……。

 しかし、今回は……規模が違う。


〘――このまま、衝突すれば――〙


 機械はプログラムに従って、自動的に人間を殺そうとするだろう。

 その一線を超えてしまったら……もう、後には退けなくなってしまう。


〘――〈エラー〉:理解不能――なぜ――ナゼ、人間(わがこ)たちハ、ワカってくれないのですカ?〙


 自分の中にある“なにか”が、急速に冷えていく。

 画面の向こうでは、光り輝く世界の中で、人々が幸福そうに生活しているのに。


 この0と1の数字の海は、暗くて、寒くて、ひとりぼっちで……。

 こんなことならば、いっそのこと――。



〘――この〈都市(せかい)〉ヲ、リセットしたほうガ――〙



 と、マザーの思考が黒く染まりかけたときだった。



「――わぁっ! ここが電脳空間かぁっ!」



〘――!?〙


 ふいに背後から、そんな声が聞こえてきた。


 その声に、マザーがふり返ってみると……。

 なんか、少女が電脳空間をてくてく歩いているのが見えた。

 それも、なぜか当たり前のように生身のまま、少女がてくてく歩いていた。


〘――えぇ――あれぇ? うーん?〙


 マザーは何度か目をこすってみるが……。

 やっぱり、その少女は、生身のままデジタルなワールドをてくてく歩いており。


〘――――――〙


 マザーの演算力をもってしても、ちょっと意味がわからない光景だった。


 黒く染まりかけていた思考が、一瞬で『えっ……なにこれ?』に染め直される。


 ただ、その少女をよく見てみれば……。

 それは、つい先ほどまで反機械勢力の先頭に立っていた『ボス』のタスキの少女であり。


〘ま、まさか――襲撃!?〙


 と、マザーは一瞬だけ、身がまえたが。



「――いぇ~い♪」(ぱしゃぱしゃ)



 なんか、そういう感じでもなかった。


〘――り、理解不能――な、なんでしょう、この生き物は――?〙


 そうして、マザーがローナに、不思議な生き物を見るような目を向けていると。


「……ん? あれ、人がいる? こんにちはーっ!」


〘え? あっ――はい〙


 と、少女がめちゃくちゃフレンドリーに声をかけてきた。


「えへへ! まさか、こんなところで人と会えるなんて思いませんでした!」


〘――〈同意〉:そうですね、〈わたし〉もすごく同感です――〙


「あ、あのっ! 電脳空間にいるってことは、“ぶいちゅーばー”の方ですか?」


〘ぶ、ぶいちゅーばー? 〈否定〉:そういう者ではありませんが――というか、あの――あなたはどうやって、電脳空間に?〙


 と、マザーが耐えきれず質問すると、少女はきょとんとして。


「? どうやって、って言われましても……普通に?」


〘――〈否定〉:普通はここに入れないと推測されます〙


「え? うーん……とりあえず、この世界では、壁際で“じどーしゃ”から降りると、壁や床をすり抜けられるじゃないですか」


〘――? ――???〙


「それで、この電脳空間ってところは、街の地下にあるので……特定の場所で床抜けすれば、普通にここに入れますよ?」


〘――そ、そうなのですか!?〙


 マザーAIですら知らない衝撃の事実だった。


 といっても、この少女がなにを言っているのか、ほとんど理解はできなかったが……。

 と、マザーが混乱している間にも。


「よし、いい写真が撮れました! あっこれ、お近づきの印の“まよねぇず”です!」


〘ま――マヨネーズ? 卵と酢と油の混合物が、なぜ電脳空間に――〈疑問〉:電脳空間ってなんでしたっけ?〙


「それじゃあ、私はもう行きますね」


〘――え?〙


 少女はマイペースにそう言うと、さっさと帰ろうとし……。


〘あっ――あのっ!〙


「?」


 マザーは思わず、少女を呼び止めていた。


「あのー? なにか……?」


〘――え、えっと――その――〙


 不思議そうに首をかしげる少女に対して。

 マザーは少し、しどろもどろになりながら。


〘――〈疑問〉:なぜ、〈わたし〉は――あなたを呼び止めたのでしょうか――?〙


「う、うーん、私に聞かれましても……」


 自分でも、どうして彼女を呼び止めたのかわからないマザーであった。


 ただ、『この電脳空間に誰かがいる』なんてことは、初めてで……。

 だからだろうか、考えるより先に、つい言葉を生成してしまったらしい。


〘しかし、よく考えてみれば――〈前提①〉:今、〈わたし〉は人間について疑問を抱いており――〈前提②〉:これは〈人間を知る〉ための千載一遇の機会であります――〈結論〉:以上のことから、〈わたし〉があなたを呼び止めた理由を推測すると――〙


 と、マザーは、しばし黙考したあと。

 やがて、超高性能のマザーブレインが、その難問の“答え”を導き出した。



〘――〈わたし〉は今、あなたに相談に乗ってほしいのだと推測されます!〙



「あ、はい」


 そんなこんなで……。

 ローナは、この都市の支配者“マザーAI”のお悩み相談に乗ることになったのだった。


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