131話 レジスタンスのアジトを観光してみた
ところかわって、廃棄物処理エリア・スクラップ場――。
マザーAIの監視の死角となっている、その“機械の墓場”の内部に……。
反機械勢力〈イカロスの翼〉のアジトはあった。
そこでは、今――。
「――“羽根”の諸君ッ! このまま機械の支配を許していてもいいのかッ!」
と、黒マスクをつけたリーダーの少女が、廃棄機械の山の上で、演説をぶちまけていた。
「このままでは、都市からどんどん自由が奪われていく一方だッ! 機械によって『正しい生き方』を決定されッ! あらゆる美しいものが、検閲により白く塗りつぶされッ! 機械のように自動的に生きることを強いられるッ!」
「こんにちはーっ!」
「たしかに、この都市からは、ありとあらゆる“不幸”が消毒されているだろうッ! ――しかしッ! 我々は機械ではないッ! 人間は消毒液のプールの中で生きることはできないッ! そうだろう、諸君ッ!?」
「そうだッ!」「そうだッ!」「そうだッ!」「……? こーら!」
「そう、我らは生きるために生きているのではないッ! 上手に生きるなんてクソ喰らえッ! 夢に殺されるのなら本望だッ! ゆえに――今こそ、我らの反逆の翼を広げるときッ!」
「翼をッ!」「翼をッ!」「翼をッ!」「キャプテン?」「翼をッ!」
そして、メンバーたちが次々と熱のこもった声を上げ……。
長らく続いた機械の支配の時代を終わらせるべく、人間たちが機械との戦争の道に突き進もうとしている中――。
「「「………………」」」
やがて、彼女たちは無言で顔を見合わせた。
(((……今なんか、変なのまざってなかった?)))
一方、まざっていた変なの――もとい、ローナはというと。
「――わぁっ、ここが反機械勢力のアジトかぁっ!」
当たり前のように、反機械勢力のアジトの中をてくてく歩いていた。
そこは、廃棄機械の山の内部をくり抜いて作られた空間であり。
その中にいるのは、改造制服に身を包んだ反機械勢力の少女たちだった。
「えへへ! このアジトって、すごく“映え”ますね!」
「え? あー、はい……てか、誰っすか? 新しく入った子?」
「はい! さっき、ここに入りました!」
「そっすかー。最近、仲間もたくさん増えてるっすからねー」
「ちなみに、ここって撮影OKですか?」
「あー、どうすかねー? ま、いいんじゃないすかー?」
「わーい」
というわけで。
「――撮りま~す! 2+2は~?」
「「「――5~っ!!」」」
「いぇ~い♪」(ぱしゃぱしゃ)
と、ローナがさっそく、なごやかに反機械勢力のメンバーたちと記念撮影をしていたところで。
【――いや、『いぇ~い♪』じゃねぇのデスよ!?】
「わっ」
後ろにいたピコに小声でツッコまれた。
【お、おまえ……今、自分がどこにいるのかわかってるのデスか?】
「? 反機械勢力のアジトですが……」
【デスよね!? やっぱり、ピコの勘違いとかじゃないデスよね!?】
――反機械勢力〈イカロスの翼〉。
それは、機械の支配からの自由をうたい、またたく間に力をつけてきているレジスタンスである。
それも、さっきの演説を見るに、今すぐにでも戦争を始める気満々のご様子であり……。
【というわけで、ゼッタイに近づくのがNGな、やべぇ組織なのデスよっ✜】
「ほぇー」
【なのに、なぜ工場見学ツアーのノリで来てるのデスか!? しかも、なに一瞬でメンバーと打ち解けてるのデスか!? コミュ力の化身デスか、おまえ!?】
「いやぁ……えへへ?」
【褒めてないのデス✜ というか、そもそも……よく、この場所がわかったのデスね✜ マザー様もまだ見つけていなかったはずデスが✜】
「いえ、インターネットに普通に書いてあったので」
【いんたーねっと?】
などと話していたところで。
「――おーい、相棒!」
「――ふっ、全てを超えた先でまた会えたな、ローナ」
と、いきなり声をかけられ、びくっとローナの背後に隠れるピコ
ローナが声の主のほうをふり返ると、そこにいたのは――。
「あっ! “こらぼダンジョン”にいた人たち!」
それは、つい先ほど……ローナの前にいきなり現れたかと思えば、別れの言葉を残して去っていった知らない少女たちだった。
それも、そのうちのひとり――『全てを超えた先』の人は、どうもこの反機械勢力のリーダーらしく。
「あれ、リーダー? この新入りのこと知ってるんすか?」
「ふっ、ローナとは一緒に旅をした仲でな……」
「旅?」
そして、知らない少女たちは、ローナとの存在しない思い出を語りだした。
それは、聞くも涙、語るも涙の、冒険譚であり――。
「――そこで、ローナは颯爽と私たちを助けに入って、こう言ったのさ。『待たせたな……』と」
「……これ、ローナからもらったペンダント……わたしの一番の宝物……」
「私が不安なとき、相棒が『お前を信じる私を信じろ』と、力強く言ってくれて――」
「「「――ローナさん、かっけえええっ!?」」」
話を聞いた反機械勢力のメンバーたちが、わっと歓声を上げた。
ローナも、わっと歓声を上げた。
「わぁっ、ローナさんかっこいいなぁ! 憧れちゃうなぁ!」
【い、いや、おまえ……そんなイケメンみたいなことしてたのデスか?】
「?」
とりあえず、ローナには状況がよくわからなかったが……。
どうやら、ローナの知らないところで、ローナさんが大活躍していたらしく。
そんなこんなで、反機械勢力のメンバーたちと、さらに打ち解けることができたのだった。
「あっ、そうだ! せっかくなので、お近づきの印に……これ、みなさんで食べてください!」
【ぴ?】
と、ローナが取り出したのは、みんな大好き“まよねぇず”である。
とくに異世界人へのプレゼントは、“まよねぇず”にすれば間違いないとインターネットに書いてあり――。
「食べる? あの、相棒? この白いのは……食べるものなんですか?」
「はい、これは“まよねぇず”と言いまして……みなさん、ぜひペースト食につけて食べてみてください! 飛べますよ!」
【ぴっ!? えっ、ちょっ、待っ――】
「えっと、こうですか――んんんッ!?」
「……こ、これは、なに? わたしの舌が変になってるわ」
「わ、わからない……この感覚を、なんと言えばいいのか!?」
と、困惑しきったように、ローナに物問いたげな視線を向ける少女たち。
そんな彼女たちに、ローナはその言葉を告げた。
「――それは、“味”です!」
「「「――!?」」」
ローナのその言葉により、周囲がにわかにざわつきだす。
それもそのはずだ。
今まで、この都市には“味”がなかった。
食べられるものは、完全なる“無味”を実現したペースト食だけであり……。
“味”という概念すらも、マザーAIによって消されていた。
だから、今……『“まよねぇず”を食べたことで舌の上に広がったその刺激』を表現する言葉を、彼らは知らなかったのだ。
そう、この瞬間までは――。
「あ、味……? 味ってなんだ?」「だ、誰か知ってる?」「し、知らなかった……味なんて」「こ、これは世紀の大発見なのではっ!?」「味がある……味があるわ!」「うますぎる!」「もっと食わせろ!」
ローナのもたらした“味”は、異世界人たちを震撼させた。
味覚とは五感のひとつ。
その感覚が復活したという衝撃は、まさに新たな視界が開けるような衝撃に等しく。
しばらくすると、『翼をッ!』と叫んでいたメンバーたちも、もはや機械への反逆とかそっちのけで“まよねぇず”に群がりだし……。
「わ、わたしも味が食べたいっ!」「反逆とか、あとでいいからっ!」「ま、待て、あたしのほうが先だぞっ」
「えへへ、慌てなくても大丈夫ですよ! “まよ”の貯蔵は充分ですから!」
ローナがそう言うなり――。
背後の空間のゆがみから、大量の“まよねぇず”が、ずずずずず……と姿を現した。
「さあ、おかわりもいいですよ!」
「「「――う……うおおおおおおおッッ!!」」」
【あ、あぁ~っ……ピコはなにも見てないのデス✜ ピコにはなんの責任もないのデス✜】
そんなこんなで。
いつの間にか、ローナを中心に“まよねぇず”の宴が始まり――。
(うん! やっぱり、異世界の人は“まよねぇず”が好きなんだね!)
こうして、ローナの『異世界に行ったらやりたいことリスト』の『まよねぇずを広める』にチェックがついたのだった。
しかし、どうやら、この“まよねぇず”は、ローナが思っていた以上に影響が大きかったらしく……。
「あっ、もうこんな時間っ! そろそろ、次の観光場所に行かないと――」
「ボス、どこかにカチコミに行くんですか!?」
「へへへ、あの白いブツさえくれるなら、どこまでもボスについてくっす!」
「ふっ……ローナ、今日からお前がナンバーワンだ」
「え? あ、はい」
気づけば、ローナはこの組織のボス扱いになっており……。
ローナが歩くと、反機械勢力のメンバーたちが、ぞろぞろと後ろについて来る状態になっていた。
「な、なんか、みんなついて来ますね」
【ど、どうするのデスか、これ? 目立つ確率100%なのデスよ?】
「うーん、とりあえず、このままじゃ観光に行けないし……あっ、そうだ。誰か“じどーしゃ”を貸してくれますか? ちょっと、この都市を観光したくて――」
と、ローナが口にすると、周囲が一斉にわき立った。
「この都市を艦攻したくて!?」
「ついに敢行するのか、ボス!」
「はい!」
「おぉーっ! さすがボスだ!」
ちなみに、この都市の人間たちに“観光”という概念はなかった。
「ふっ……ならば、我々もついて行かねばな」
「相棒っ! 車が必要なら、私のダイダロス号を使ってくださいっ! 今から隠し場所まで案内するので!」
「わぁっ、ありがとうございます!」
【ぴぴぴ✜ なるほど、車に乗ることで後ろの人間たちをまこうというわけデスね✜】
「? いえ、そうではなく――」
と、ローナはそう前置きしてから、告げた。
「――ちょっと、これに乗って、“電脳空間”ってところに行きたいなって!」
【!?】