128話 異世界に行ってみた
『機動天使ガンネルを倒した! EXPを19794獲得!』
『アイテムボックス枠が50拡張されました』
『称号:【イカロスの羽根】を獲得しました!】
『コラボイベント:【メタルノア~侵略!メカ娘~】をクリアしました!』
「わーい」
というわけで、とくに何事もなく“こらぼダンジョン”をクリアしたあと。
「うん、今回も全部、インターネットに書いてある通りだったね♪」
と、ローナは満足げにインターネット画面を眺めていた。
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▍マップ/【侵略基地バックノア】
▍概要
コラボクエスト【メタルノア~侵略!メカ
娘~】で登場するダンジョン。
巡回しているロボット兵はかなり強力なた
め、監視の目をくぐり抜けながら探索しよ
う。
(※追記:現環境では、普通に敵を倒したほ
うが早い)
敵が落とす【ピコの魂のかけら】は、召喚
獣【ピコ】の錬成・強化に使用できる。
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今回のダンジョンでは、いつもに増して、やっかいな罠や待ち伏せなどが多かったが……。
いつものごとく、インターネットで(以下略)。
「えへへ! いつもありがとう、インターネット!」
と、インターネットの素晴らしさを再確認するローナ。
とはいえ、ローナがここに来た目的は、『ダンジョンクリア』ではない。
あくまで、異世界旅行をするために必要な『異世界の入り口』が目的であり……。
「えっと、『ダンジョンボスを倒すと、異世界への入り口が開く』って話だったけど……」
と、ローナが辺りをきょろきょろしていると。
「わっ」
突然、ぐにゃり……と。
部屋の中の空間がゆがんで、光の穴のようなものが現れた。
「えっと、もしかして……これが、異世界の入り口ってやつなのかな?」
そう考えつつ、ローナが光の穴へおそるおそる近づこうとしたところで。
ローナの肩に、ぽんっと誰かの手が置かれた。
「――相棒。やりとげましたね、私たち」
「え?」
その親しげな声に、ローナがふり返ると。
そこにいたのは、思いもがけない人物だった。
「………………」
「………………」
「「…………………………」」
……なんか、普通に知らない人だった。
知らない少女が、なぜかフレンドリーに、ローナの肩をぽんぽん叩いてきていた。
つまり、めちゃくちゃ不審者だった。
(……えっ、誰? 怖い……)
なにが起きているのかわからず、ひたすら困惑するローナ。
さらに、不審者はひとりだけではなく――。
「やーれやれ、やっと帰れるのか……ま、ローナのおかげで、異世界もけっこう楽しめたけどね」
「え? え?」
「……ローナ、あなたとの旅は……けっして忘れない……」
「私との、旅?」
「ふっ――全てを超えた先でまた会おう、ローナ」
「……え? あっ、はい」
なぜか、次々と現れては、光の穴へと消えていく知らない少女たち。
さらには、どこからか感動的な音楽とスタッフロールが流れだし、そして――。
『――――この空は、きっとつながっている』
というシステムメッセージが、どこか誇らしげに表示された。
(…………なにこれ?)
なんか、世界樹の杖を手に入れたときのような、『いろいろショートカットしちゃった感』がすごかった。
そういえば、攻略サイトに、
『異世界から迷いこんだ【イカロスの翼】の少女たちと一緒に、コラボダンジョンを攻略しよう!』
と、書いてあった気もするが……。
今の人たちは、その『異世界から迷いこんだ』という少女たちなのだろうか。
(うーん……まあいっか。よくわからないのは、いつものことだしね)
というわけで、ローナは考えるのをやめた。
なにはともあれ、さっきの人たちのおかげで、光の穴の安全確認も済み――。
(とりあえず、この穴に入れば異世界に行けるみたいだね。それじゃあ、さっそく――って、ん?)
と、そこで。
ローナが、ふと部屋の中央に目を向けると……。
【……ぴぅぅ~✜】
先ほどまでダンジョンボスがいた辺りに、ひとりの少女が倒れているのが見えた。
目をぐるぐると回して気絶している、小動物のような少女。
この世界では見慣れない格好を見るに、おそらく彼女も異世界人なのだろう。
(あの子は……さっきのよくわからない人たちの仲間? 置いてかれちゃったのかな? 一応、怪我をしてる様子はないけど……)
しかし、なにか強い精神的ショックでも受けたのだろうか。
【……モンスターが……モンスターが……✜】
と、悪い夢でも見ているように、うわ言を呟いている。
(きっと、よっぽど怖いモンスターに襲われたんだね、かわいそうに……って、あれ?)
そこで、ローナが倒れている少女に近づいて、その顔をよく見てみると。
その顔には見覚えがあった。
(もしかして……この子って、ピコちゃんって子なんじゃ?)
このダンジョンに入る前から、なにかと名前を見かけた少女だ。
さらには、このダンジョンに入ってからも、なぜかピコの顔が描かれた宝石のかけら――インターネットいわく『ピコの魂のかけら』で、何度もその顔を見ており……。
そこで、ローナは改めて、インターネットで『ピコ』について調べてみた。
『コラボダンジョンでは、モンスターのドロップアイテムや宝箱から【ピコの魂のかけら】を入手できます♪』
『【ピコの魂のかけら】を100個集めると、メカ娘【ピコ】が無料で手に入るピコ♪』
「………………」
なんか、ピコを景品にした闇のゲームみたいなものが開催されていた。
ちなみに、これも“運営”による組織的犯行らしい。
「う、うん……とりあえず、ピコちゃんを、ここに置いてくわけにはいかないね。異世界の入り口もだんだん小さくなってきてるし……」
というわけで、ローナはピコをおぶりつつ。
「あっ、そうだ。これを忘れちゃいけないよね」
と、近くにあった自爆スイッチを、ぽちーっと押した。
『――警告⚠ 警告⚠ 自爆コードが実行されました。ただちに施設から退避してください。爆発まで残り9時間59分49秒……』
「わっ!? び、びっくりしたぁ……でも、これで異世界に行く準備は整った、よね?」
そう言って、ローナが視界の右上を見ると。
そこには、インターネットに書いてあった通り――。
――9:59:30。
と、タイマーが表示されていた。
そう、この自爆タイマーこそが、異世界旅行をするための最後のピースであり。
異世界から『帰ってくる』ために必要なものだった。
(えっと、タイマーは10時間にセットしたから……ちょうど夕方ぐらいまで、異世界を観光できるね!)
というわけで、異世界旅行の準備も整ったところで。
「それじゃあ、いざ――異世界へ!」
ローナはピコをおぶりなおすと、さっそく異世界につながる光の穴へと足を踏み入れた。
ふわ――――っ、と。
前方へと落ちていくような浮遊感。
それから一瞬、この世界から全ての音が消え、そして――。
――――光が、弾けた。
目を開けていられないほどの光量に、ローナは思わず目を閉じてから。
やがて、ゆっくりと目を開き……。
「ふ……ふわぁ……っ」
と、小さな歓声のような吐息を漏らす。
そんなローナの目の前に広がっていたのは――。
――純白の都市だった。
見上げんばかりに高い、つるりとした白い塔の群れ。
透明なガラスの街路上を行き交う、さまざまな白くて丸い機械たち。
そして、都市の宙空に浮かんでいるのは――。
『幸福は義務です』
『不幸かなと思ったら、早めの幸福薬』
『偉大なるマザー様があなたを見守っています』
などと書かれた無数の立体映像の画面。
そんな元の世界ではありえない光景を見れば、もう間違えようもない。
「――わぁっ! ここが、異世界かぁっ!」
――空園都市ソラリス。
それは、機械によって完璧で幸福に管理された空中都市であり……。
ローナが行きたいと考えていた、“異世界”そのものだった。