121話 あにめを公開してみた
中の人担当のエリミナと、マスコット担当の溶岩魔人が加入したあと。
“あにめ”作りは、手探りながらも急ピッチで進められていった。
「――やっぱり、主人公は『世界のため』に自己犠牲で戦うんじゃなくて、あくまで『自分の大切なものを守るため』に戦うような等身大の女の子にしたいですね! なので、戦いを生活の中心にはしないで、日常的なシーンにも焦点を当てて、8話あたりで喧嘩回を……」
「……つけパン、じわパン、パンアップ、キャベツ検定……お、覚えることが多いわね」
「ちなみに、“おーぷにんぐ”では、『カメラを下からグイッとパンしてタイトルロゴをどーん』するといいみたいで――」
「そういや、“PV”の反響すっごいねー。観客動員数がえぐいことになりそうだし、幻術使いをもっと増やして上映数を――」
「そうね。あたしがベースを作って、あとはシーンごとに分担させれば、そんなに幻術の腕がなくてもいけると思うし」
「……ひとまず、幻術スタッフがたくさんいる劇場と提携しておいたわ✧」
やはり、“あにめ”は、この世界では初の試みであるため、ゼロから学ばないといけないことも多かったが……。
インターネットに“お手本”があるのは、かなり心理的にも大きく。
そんなこんなで、時間はあっという間に過ぎていき……。
ついに王都劇場で、『魔法少女エリミナ』の第1話が無料公開されたのだった。
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○第1話 「魔法少女エリミナ~始まりの物語~」
『『『――イーッ! イーッ!』』』(役:黒ローブ集団)
『エリミナちゃん、大変ぐごーっ!』
『どうしたの、グゴップル?』
『王都の旧市壁通りに雰囲気のいい老舗商店をかまえる創業100年のテラクーン商会(※大口スポンサー)が、マモノンに襲われてるぐごっ!』
『そ、そんなっ!? 『お歳暮にうれしいギフトランキング』1位常連の『元祖・金塊カステラ』を売っている、あのテラクーン商会がっ!? 街のみんなの“願いの力”を奪うなんてっ……そんなの、私が許さないっ! 決めたわ、グゴップル――私、魔法少女になるっ!』
『わかったぐごっ! それじゃあ、この“マジカル☆労働契約書”に署名と捺印をして変身ぐごっ!』
『――きゃるる~ん♪ りゅんりゅん♪ エリエリりん♪ きらめけマジカル☆ 爆ぜろミラクル☆ 愛と正義のエリート美少女戦士! 魔法少女エリミナ――爆☆誕っ!』
⇐To Be Continued…
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「――ねぇ、『魔法少女エリミナ』っていうの見た!?」
「見た見たっ! たぶんもう、親の顔より見てるっ!」
「は? 待って、無理……想像の5億倍はよかったんだが?」
……結論から言うと、『魔法少女エリミナ』は大ヒットした。
それはもう、想定をはるかに超える大ヒットだった。
まだまだ神々の“あにめ”と比べてクオリティーは格段に低いが……やはり、『“あにめ”という新しい表現』のインパクトはすさまじく。
第1話無料公開につられて、多くの人が劇場へと足を運んだこともあり……“あにめ”はまたたく間に、王都民たちの話の種となった。
「……尊い」「今週の『エリミナ様』がよすぎて泣いちゃった……」「語彙力ないなった……」「しんどい……」「ちょっと追いチケしてくる……」「エリミナ様しか勝たん!」「エンディングのエリミナ様ダンスを踊ってみた!」「ねぇ、待って!? エリミナ様の変身シーンって、毎週録り直してるんだって!」「うおおおおおッ!! エリミナ様ッ!! うおおおおお――ッ!!」
口コミが口コミを呼び、日に日に倍増していく『魔法少女エリミナ』ファン。
さらには、熱烈なファンが、『追いチケ』『全通』と言って、何度も同じ話を見るような現象も起きるようになった。
また、『毎週1話ずつ公開されていく』というスタイルも、この世界では新鮮だったらしく、王都は『次の話がどうなるか』という話題で、常にもちきりとなり……。
ついには、国王までもがどっぷりとハマって、『魔法少女エリミナ』の宣伝に協力的となった結果――。
「「「――エリミナ! エリミナ! エリミナ!」」」
王都のいたるところに『魔法少女エリミナ』のポスターやインターネット広告が貼られるなど、『魔法少女エリミナ』はすぐに社会現象となった。
一方、“あにめ”の制作のほうも順調に進んでいき――。
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○第7話 「夏だ! 海だ! ライバルだ!」
『――悪夢より生まれしマモノンよ、とっとと無に帰りなさい! マジカル☆獄炎魔法――エリミネイト☆フレイム!』
『『『――イィィィ――ッ!?』』』(役:黒ローブ集団)
『ふぅ、マモノンの浄化完了っと……あなた、怪我はないかしら?』
『っ! あ、あなたは、もしかして同じクラスのエリミナさ――』
『しーっ。クラスのみんなには、内緒だよ☆』
『……トゥンク……っ』(赤面)
『ぐごご☆ それよりエリミナちゃん、3つ目のマジカルジュエルをゲットぐごっ♪ さっそく、ジュエルディスクにセットを――』
『――あ~っはははっ! 残念っ! そのマジカルジュエルはいただいていくわ!』
『え? ――きゃあああっ!?』
『だ、誰ぐごっ!?』
『ふふふ……わたし? わたしは――港町アクアスに受け継がれし、愛と覚悟のセーラー服! 美少女戦士ブルームーン!』(役:アリエス)
『……っ! あなたもジュエリストなのね! でも、いい大人なのに、そんなことして恥ずかしくないの!? 私たちのマジカルジュエルを返しなさーいっ!』
『――――残像よ』
『!?』
『ファーーーッ!! 甘い甘い! “闘気”だけでわたしを倒すことはできないわ! あなたのようなキッズとは、くぐってきた修羅場が違うのよ! やはり、7つのマジカルジュエルを集めて願いを叶えるのは、このわたしね!』
『あなたの願い……?』
『そう、わたしの願いは、ただひとつ。ギャルのパ――』
⇐To Be Continued…
『――次回予告っ! 私たちの前にいきなり現れた強力なライバル……自称・美少女戦士ブルームーン(24歳・独身)! その圧倒的な人生経験を前に、私たちのマジカルジュエルが奪われちゃった!? でも、“闘気”で倒せない大人相手に、いったいどうやって戦えばいいの!? えぇ~いっ! こうなったら、マジカル☆顧問弁護士に相談よっ!』
『――次回、アリエス死す! ジュエルスタンバイ!』
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「――はい、OKでーす。おつかれさまでーす」
みんな、“あにめ”制作にも慣れてきたのか、初期の頃のようなドタバタもなくなり……。
そんなこんなで、今日の“あにめ”の撮影(?)も順調に終えたあと。
今回はロケ地が港町アクアスだったこともあり。
「そうだ! せっかく海に来たので、海に行きましょう!」
というローナの一声で、いろいろな打ち上げもかね、砂浜で“ばーべきゅぅ”をすることになった。
「それでは、『魔法少女エリミナ』の人気を祝して……かんぱーいっ!」
「「「――かんぱ~い!」」」
魚や貝がぱちぱちと焼けるにおいの中――。
ローナの乾杯の音頭とともに、“こーら”の入ったグラスが、からんっと涼しげに打ち鳴らされる。
それから、制作スタッフたちが、思い思いに焼き網を囲みだし……。
「あぁ……仕事終わりの“こーら”がしみる……」
「あんたも大変ね、エリミナ……ほら、この完璧な焼き具合のハイパーサザエを特別にくれてやるわ……い、言っとくけど、べつに、あんたのために焼いたんじゃないんだからねっ。勘違いしないでよねっ」
『……おい、我で〝ばーべきゅぅ〟しながら、友情をはぐくむな』
と、マリリーン&エリミナが、いつの間にか仲良くなって、“こーら”をくみかわしている一方で。
ローナは、コノハ&メルチェとともに、なごやかに焼き網を囲んでいた。
「い、いやー、にしても……“あにめ”は思ってた10倍ぐらい流行ったねー」
「あ、あはは。なんか、すごいことになっちゃいましたね」
と、コノハの言葉に、ローナも苦笑を返す。
最初に『“あにめ”を作ろう』と言ったのは、ローナだったが……そのローナ自身も、まさかここまで大人気になるとは思っておらず。
「……さすが神々の文化といったところね✧ 食べ物もそうだけど、文化がここまで発展してるなんて✧」
「まあ、神様たちは、すごく文化にこだわりがあるみたいでして……料理や芸術の目利きに失敗するだけでも、『価値なし』と格づけされて、存在を消されてしまうそうなので」
「過酷すぎない?」
「……なにはともあれ、“あにめ”は大成功ね✧」
と、ほくほく顔をするメルチェ。
「……海外商会ともライセンス契約を結んだし、ここから正式に海外展開もしていくわ✧」
「わぁっ、ついにエリミナさんが世界に羽ばたくんですね!」
「まー、海外のほうは、今まで海賊たちが勝手に“海賊版”を作ってる状態だったしねー」
「……それから、エリミナグッズの売れゆきも絶好調よ✧」
「グッズというと、メルチェちゃんのご両親が作ってるっていう?」
「……うん✧」
と、メルチェがどこか誇らしげに、こくんと頷く。
そう、グッズといえば、ぬいぐるみやおもちゃがメインとなるが……。
もともとドールランド商会は、そういったものを専門に扱っている小さな商店だったのだ。
つまり、その店を経営していたメルチェの両親にとって、グッズ制作は専門分野みたいなものであり。
最近はメルチェの両親が張り切って、かつてのドールランド商店を『エリミナセンター』(公式エリミナグッズ専門店)に一瞬で改装し、次々とエリミナグッズを世に出していた。
『チャクラ宙返りするエリミナ人形』『アッパーカットするエリミナ人形』『エリミナお菓子粉砕機』『エリミナ生首ヘアゴム』『魔法少女エリミナ☆DX日輪ロッド』『エリミナ等身大抱き枕カバー』『日めくりカレンダー「まいにち、エリミナ」』『魔法少女エリミナ・トレーディングカード(全20種類中ランダム)』……などなど。
さらに、『エリミナコラボカフェ』をやったり、人気作家ラブカ・ライトによる『魔法少女エリミナ/Zero』というスピンオフ小説の雑誌連載を始めたりもしてみたが……。
「「「――うおおおおおッ!! エリミナ様の新作グッズッ!! うおおおおおお――ッ!!」」」
……こちらも大ヒット。
もはや、『魔法少女エリミナ』の経済規模拡大は、とどまるところを知らなかった。
「……ここまで盛り上がると……なにか、ファン同士で集まれるような、公式イベントをやりたくなるわね✧ 『エリミナ感謝祭』みたいな……」
「たしかに、なにかやれたら楽しそうですね! エリミナさんにも日頃の感謝を伝えたいですし!」
「イベント……イベントかぁ……あっ、そういえば」
と、コノハが、ふと思い出したように言う。
「最近は、貸し会議室とかで、『魔法少女エリミナ』のファン小説やファンイラストの見せ合いイベントをやってるって言うよね。それを大規模化してみるのも、面白いかも」
「あっ、なんだか、“こみけ”みたいですね!」
「……こみけ?」
「はい! 神様たちも、エリミナさんの“同人誌”をたくさん作って、“こみけ”っていう大きなイベントで見せ合いをしてるみたいでして」
と、ローナが“こみけ”について説明をすると。
「……それは楽しそうね✧」
メルチェが目をキラキラさせながら、すかさず食いついてきた。
どうやら、“こみけ”は、メルチェの琴線に触れるものがあったらしい。
「えへへ、私もずっと楽しそうだなって思ってまして――あっ、そうだ! なにかイベントをやろうって話でしたが……」
そこで、ローナは提案する。
「――この世界でも“こみけ”をやってみませんか!」
「……やりましょう✧」
「は、判断が早い」
そんなこんなで、メルチェが即決し――。
こうして、今回の“あにめ”作りの総決算として、この世界で“こみけ”を開催することが決まったのだった。
……エリミナが大観衆の前でアイドルライブをするまで、あと3話。










