117話 あにめを見てみた
エリミナが王宮騎士に追われて、戦場へと向かっている一方。
話は、ローナハウスの庭へと戻り――。
「あっ、それから、“無”のPRキャラ“むなっしー”を、さらにPRするための“4コマまんが”を作ってきました!」
「えっ、まだ続けるの、この話?」
「はい!」
ローナは、近くにエリミナがいたことなど、つゆ知らず。
コノハとメルチェに、そんな話を切り出した。
「……ちなみに、“4コマまんが”というのは?」
「あっ、それはですね」
と、ローナは簡単に説明をする。
――“4コマまんが”。
それは、“そしゃげ”のSNSなどで、よくキャラクターのPRに使われている絵物語である。
そう、キャラクターも『ただ考えれば終わり』というわけではないのだ。
そのことを、以前に港町アクアスのご当地クリーチャー“ふかきモン”を作ったときのローナは、まだ知らなかったが……。
ローナもそのときから、さらに成長しており。
「というわけで、これが“4コマまんが”です!」
そう言って、ローナがスケッチブックの次のページを見せる。
そこに書かれていたのは――。
『タイトル:100日後に死ぬむなっしー』
「「………………」」
いろいろな意味で不穏すぎるタイトルだった。
「……し、死ぬの? “むなっしー”?」
「はい」
「……そ、そう」
「ち、ちなみにさ、この……ページの右下で、“むなっしー”の生首がのたうち回っているのはなに?」
「あっ、それは、“ぱらぱらまんが”です! 神様たちの間では、生首にゆっくりしゃべらせるのが流行ってまして……えへへ! こうやってページをめくると、“むなっしー”の生首がダンスするんですよーっ!」
「怖い怖い怖い」
「……でも、これは面白い表現ね……絵を動かして物語を表現するなんて」
「はい! 神様たちの世界には、こんなふうに絵を動かす“あにめ”という作品が、たくさんあるんですよ!」
「「……あにめ?」」
きょとんとするコノハとメルチェ。
情報通の彼女たちでも知らないということは、やはり“あにめ”もこの世界にはないものらしい。
「えっと、“あにめ”というのはですね……」
と、ローナはコノハたちに簡単に説明をする。
――“あにめ”。
それは、神々の最重要文化のひとつである(※ローナ調べ)。
インターネットを見れば、どこもかしこも“あにめ”の絵だらけであり……。
神々は“あにめ”の絵を自らの象徴とし、“あにめ”の絵だけで会話をし、さらには“あにめ”の絵と結婚したりもするのだとか。
「……へぇ? それは、お金のにおいがするわね」
と、商人の血が騒いだのか、真っ先に話に食いついたのはメルチェだった。
それもそのはずだ。
神々の娯楽というのは、だいたいどれも、この世界のものより圧倒的に洗練されており……。
以前にこの世界に取り入れてみた『神々のパーティー』も、一大ムーブメントを作り出すほどの影響力があったのだ。
そんな神々の娯楽の中でも、『最重要文化』と呼ばれるほどの娯楽ならば、その影響力はどれほどのものか。
「……商人として、ぜひ見ておきたいわ」
「まあ、たしかに、説明するより実際に見たほうが早いですね。えっと……“あにめ”はこういうのです!」
というわけで、メルチェたちに“あにめ”(公式無料公開)を見せた結果――。
「やー、すっごいね、これ……絵画をこんなに生き生き動かすなんて……こんな芸術、あたしのデータにはなかったよ! さすが神々の娯楽だね、商会長……商会長?」
꙳✧˖°⌖꙳――わぁぁっ✧ ぷいき○あ、がんばえーっ!꙳✧˖°⌖꙳
「このキラキラした女児、誰っ!?」
「うわっ、まぶしっ」
……メルチェが予想以上にドハマリした。
最初は『お金のにおい』『商人として』などと言っていたのに……。
数分後には、キラキラ女児オーラを全開にしながら。
꙳✧˖°⌖꙳……ふぉぉおおおおっ!!꙳✧˖°⌖꙳
と、画面にかじりついていた。
꙳✧˖°⌖꙳――今よっ……そこっ✧ 腎臓っ✧ ぷ○きゅあ、腎臓を狙ってっ!꙳✧˖°⌖꙳
「こんな女児は嫌だ……」
「人体の急所を知り尽くしてますね……」
꙳✧˖°⌖꙳――ん゙ッッ!!꙳✧˖°⌖꙳
「うわぁっ、商会長がいきなり死んだ!?」
「いえ、これは……“尊死”です! “尊さ”の過剰摂取によって、メルチェちゃんの心臓が一時的に止まっちゃったみたいです!」
「そんなことある!?」
こうして、“あにめ”開始から24分後――。
「……もう終わり? まだ始まったばかりでしょ? なに勝手に終わってるの?」(半ギレ)
「え、えっと、聞くまでもないと思いますが、“あにめ”はどうでしたか?」
「……すごかった」
メルチェがぬいぐるみに顔をうずめながら、興奮気味に頬を上気させる。
꙳✧˖°⌖꙳……絵を自然に動かすために、あえて絵を崩すという超絶技巧……グッズ展開を見すえての設定や画作り……中毒性の高いエンディングのダンス……『女児』という新たな層に完璧にリーチしたキャラクターや設定も見事というほかない……“あにめ”はまさに、物語表現における到達点ね……商人として、とても参考になったわ……そう、商人として……꙳✧˖°⌖꙳
「あ、はい」
「めちゃくちゃ早口で語るな、この女児」
「……それより、ね? ローナ……早く、続きが見たいわっ」
「え?」
期待に目をキラキラさせながら、おねだりしてくるメルチェ。
そのあまりの女児力に、ローナもすぐに首を縦に振りたくなるが……。
しかし、ローナは目を泳がせて――。
「え、えっと、続き……ですか? それは、ですね……えっと」
「……? どうしたの?」
と、ローナはしばらく言いよどんでから。
やがて、おずおずとメルチェに告げた。
「あ、あの……私は無課金なので、“あにめ”は基本的に1話しか見れないんです」
「…………え?」
そう、これほどまでに労力がかかっている“あにめ”が、そうそう無料で見れるわけがなく……もちろん、お金が必要だった。
それも、神々のお金が。
ローナとしても自らお金を払いたいぐらいだったのだが、神々のお金を持っていないため、どうすることもできず。
たまに“一挙放送”というものもやっているらしいが、いつもローナが知らないうちに終了しており――。
「……ぅ、嘘よ……わ、わたしは……信じない」
「ああっ、メルチェちゃんの瞳から希望の光が失われちゃったっ」
「……あ、“あにめ”……“あにめ”が欲しい」
「き、禁断症状みたいになってる……」
「え、えっと、“あにめ”が欲しいんですか? とりあえず、“あにめ”は他にもありますよ! 一緒に見ましょう!」
そんなこんなで。
メルチェを元気づけるために、他の“あにめ”の1話(公式無料公開)をいろいろ見せることになり――。
「こちらは、最近始まった変身ヒロイン“あにめ”の新作です!」
꙳✧˖°⌖꙳わぁぁっ✧ ぷいき○あがアイドルにっ!꙳✧˖°⌖꙳
「こちらは、神様たちに大人気の巨人“あにめ”です!」
꙳✧˖°⌖꙳わぁぁっ✧ 真っ赤な巨人さんだぁっ!꙳✧˖°⌖꙳
“あにめ”が始まるとともに、ふたたびキャッキャと目を輝かせるメルチェ。
しかし、“あにめ”が終わると同時に――。
「…………はぁぁ……」(クソデカため息)
ふっと虚無顔に戻ってしまう。
そう、“あにめ”の1話というのは、どれもこれも、すごくいいところで終わってしまうものであり……。
その続きを永遠に見ることができないというのは、女児にとっては耐えがたい苦痛であった。
「……ゥ、ァァ……続き……続きが、ない……」(※メルチェ)
「や、やばいっ! 商会長の顔が、どんどん女児がしていい顔じゃなくなってくっ! ど、どうしよう、ローナ……ローナ?」
「……ゥ、ァァ……続き……続きが、ない……」(※ローナ)
「ミイラ取りがミイラに!?」
より事態が悪化していた。
そう、ローナはこれまで、長女だから我慢できていたが……。
もともと、『“あにめ”の続きが見たい』という渇望は、メルチェと同じぐらいにあり。
「こ、こうなったら……」
と、ローナはメルチェと顔を見合わせて、こくりと頷き合う。
そう、神々の“あにめ”の続きが見られないなら――。
やるべきことは、ひとつだけだ。
「コノハちゃん、メルチェちゃん……」
そして、ローナは決意に瞳を燃やしながら、宣言する。
「――私たちの手で、“あにめ”を創りましょう!」
……エリミナが大観衆の前でアイドルライブをするまで、あと7話。










