11話 掲示板
「……ここが、最深部かぁ」
冒険者試験でダンジョンを進むこと、20分ほど。
ローナはすでに最深部の9層まで到達していた。
(な、なんか、あっさり着きすぎて実感がない……)
もともと広さや深さよりもギミック重視のダンジョンだったのだろう。
ただ、そのギミックの答えが最初からわかっていたため、ちょっと歩いただけで最深部まで着いちゃったという感覚しかなかった。
「でも、次はボス戦かぁ……大丈夫かな?」
ローナの目の前にそびえるのは、仰々しい扉。
この先でボスを倒して迷宮核を回収すれば、冒険者試験合格となるのだが。
「とりあえず――インターネット!」
攻略サイトのボス情報のページを開く。
そこには、おすすめスキルや立ち回りなどが詳細に書かれているが……。
(うーん、いまいち情報だけだと強さがわかりにくいな。誰かの生の意見を聞きたいところだけど……)
と、ローナが思っていたところで。
「ん……掲示板?」
ふと、気づく。
今まで見ていなかったページの下のほうに、誰かのコメントが書かれていることに。
(こんなとこに、誰が書きこんでるんだろ……?)
ローナはそう思ってから、はっとする。
インターネットは神々の書架のようなものだ。
ここに書きこみができる存在なんて、決まっている。
「これって、もしかして……神々の会話?」
ローナが思わず、ごくっと唾を飲んだ。
きっと、ここに書かれているのは、自分には想像もつかないほど高次元なやり取りなのだろう。
(わ、私なんかが、そんな神聖なものを見ちゃってもいいのかな? でも、今さらだし……ええい、見ちゃえっ!)
ローナが意を決して、その掲示板に目を通す。
そこに書かれていたのは――。
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▍掲示板(84件)
[79@名無しの忍者]
は?wwなに勝ったと思ってるの?www
てかどう見ても頭おかしいのお前だろww
必死すぎwwキモwwww
[80@名無しのナイト]
煽り耐性ゼロで草
もう勝負ついてるから
[81@名無しのNight]
顔真っ赤にして書いてそうw
[82@名無しの忍者]
はああ~wwマジ付き合ってらんねwww
こっちはお前らニートと違って暇じゃないん
だが?ww
もう仕事だから出かけるけどww
てかこれ以上喧嘩売るならマジ晒すぞ?ww
[83@名無しのワッショイ]
おいパンツの色教えろよ
[84@名無しの大剣使い]
やめなよ
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「……………………」
ローナはしばし、ぽかんと口を開けてから。
「か……神々が争いを……?」
やがて、ふるふると震えだした。
神々の俗語はよくわからないが……。
きっと、人間には想像もつかない高次元な争いをくり広げているのだろう。
(この『www』っていうのも、よくわからないけど……きっと、なにか呪文でも詠唱してるんだろうな……)
いろいろと、わからないことが多かったけれど。
「う、うん……見なかったことにしよう」
ローナは先ほどの書きこみを、そっとスクロールして視界から消した。
ちなみに、他の神々コメントを見ると。
『ここのダンジョンボス弱すぎだろ』
『レベル1縛りノーダメ余裕でした』
『こんなんでSランク装備手に入っていいのw』
『安全地帯の修正まだー?』
『それよりSランク以上のインフレ具合のが問題』
『お前らまだエタリアにゲームバランス求めてる段階なのかよ』
一部よくわからない書きこみもあるが、ボスが弱いという意見が目立つ。
(ここまで書かれてるってことは……すごい弱いんだろうな、ここのボス)
レベル1でも勝てたって人がいるみたいだし。
「うん、インターネットに書いてあることに間違いはないもんね。なんか、安心してきたかも……」
これまでもインターネットに嘘はなかったし、今回もきっと本当に楽なのだろう。
なにせ、冒険者試験の課題として使われているぐらいなのだ。
「よし! それじゃあ、さっさと終わらせよっと!」
そう言って、ローナが扉の前に立った。
「たしか、この扉はキーワードを言えば開くんだよね? えっと……“我は獣の数字を刻みし者なり”、と」
その言葉とともに。
ごごごごごごご……と、扉がひとりでに開きだした。
扉の先にあるのは、薄暗い広間だった。
「うーん、暗くてよく見えない……」
ローナがそう呟きながら、広間の中へと入ったところで――。
…………ぽたり、と。
すぐ目の前に、水がしたたり落ちてきた。
ローナは顔を上げて――気づく。
「………………へ?」
自分の頭上に、牙がびっしり生えた巨大な口があることに。
前方の壁だと思っていたものが、巨大な黒竜の体だったということに。
「……………………」
口をぽっかりと開いたまま固まるローナ。
その背後で、がたんっ! と扉が閉じられた。
「えっ……えっと? 閉じこめられ……た?」
これは、ボスを倒すまでは出られないということだろうか。
おそるおそる目線を前に戻すと、黒竜と完全に目が合った。
黄金の鎖に全身をつながれた邪神のような黒竜。
番犬ならぬ番竜といったところだろうか。
「グオォオオォオオォ――――ッ!!」
黒竜が咆哮を上げ、広場全体がびりびりびりッと震える。
あきらかに、戦っちゃダメなやつだった。
「………………」
ローナは無言のまま回れ右をし――。
「待って待って待って! 無理無理無理無理ぃぃっ! 弱いって言ったじゃん……弱いって言ったじゃん!? あ、開けてぇぇッ!」
どんどんどんっ! と、涙目になりながら扉を叩く。
しかし、もちろん扉が開くはずもない。
ボス戦からは逃げられないのだ。
(い、インターネットにだまされた!? でも、インターネットが嘘をつくはずはないし……もしかして、神基準で弱いってこと!?)
そんなことを考えているうちにも、黒竜はぶちぶちと鎖を引き抜きながら近づいてくる。
すでにボス戦は始まっているのだ。
ローナがパニックになりながら、黒竜に杖を向けた。
「う、うわぁあっ!? プチアイス! プチアイス! プチアイス!」
氷が凄まじい波となって、黒竜を襲う。
初級魔法をめちゃくちゃに撃っているだけとはいえ、SSSランクの杖から放たれる魔法だ。
それなりにダメージが入ったのか、黒竜がグォオッと悲鳴を上げて、氷から逃れようともがきだす。
その隙に――。
「と、とりあえず、インターネット!」
ローナは慌てて走りながら、インターネットの画面を操作する。
「死ぬ! 死ぬ! 死ぬぅ!? 早くこのドラゴンについて調べないと――って、うわぁあっ!? 変なとこ押しちゃった!? ど、どうやって戻れば……ああぁっ!?」
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「ひゃあぁああああっ!?」
ローナは顔を真っ赤にしながら、慌てて【こちら】を連打し――。
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「なんでぇぇええぇえっ!?」
「グオォオオォオオォッ!!」
「うわああああぁあぁっ!? プチアイス! プチアイス! プチアイスぅぅ――ッ!!」
そんなこんなで、パニックになりつつも。
ローナはなんとか目当ての情報を発見した。
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▍ボス/【終末竜ラグナドレク】
▍出現場所:【黄昏の地下神殿】
▍レベル :83
▍弱点 :火・氷・光
▍耐性 :闇・毒・弱化
▍討伐報酬:【終末竜衣ラグナローブ】
アイテムボックス拡張+50
▍概要
1部クリア後に戦えるようになる高難易度
ボス。
初実装の高難易度ボスだったが、弱点が多
いうえに【閃光ハメ】ができ、さらには安
全地帯まで存在するという不遇っぷり。
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「……はぁ……はぁ……『安全地帯』?」










