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世界最強の魔女、始めました 〜私だけ『攻略サイト』を見れる世界で自由に生きます〜(Web版)  作者: 坂木持丸
第11章 地底王国に行ってみた

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107話 再会させてみた


 ドワーゴを地底王国ドンゴワまで爆速で空輸してから、しばらくして。

 ローナのプチヒール連発のかいもあり、透明感あふれるもちぷる肌に生まれ変わったドワーゴは無事に目を覚ました。


 しかし、記憶が混濁しているのか、ずいぶんと混乱しているようで――。


「――はっ! こ、ここは……? オレはいったい……?」



「……いいですか、落ち着いて聞いてください。ここはドワーゴさんの故郷の地底王国ドンゴワです。あなたは謎の空間で神と出会ったあとに昏睡し、ここにつれて来られました。そして、あなたの目の前にいるのはドワーフ王です」



「……は? ……え? は……はぁあああッ!?」


「大丈夫です。落ち着いて。そう、大丈夫です――」


 こうして、ひとまず混乱しているドワーゴ(もちぷる肌)を落ち着かせたあと。


 ドワーフ王とドワーゴ(もちぷる肌)は、改めて対面した。

 とはいえ、お互いに心の準備などをする時間もなかったうえに、もともと会話をするような間柄でもなかったわけで――。


「「……あっ」」


「……あ……さ、先に……」


「……あ、そなたこそ、先に……」


「…………あっ……」


「…………あー……」




「「……………………………………」」




 ……めちゃくちゃ気まずかった。

 ドワーゴ(もちぷる肌)が助けを求めるように、ローナのほうをちらちらと見てくる。


「お、おい、嬢ちゃん? まだよくわからねぇんだが……こりゃ、いったいどういう状況だ?」


「えっと、それは――」



「――おーい、クソ親父ーっ! ドス磨いてきやがったぞーっ! ……って、わふ? 幻覚か? なんかドワーゴのおっさんが見える気がしやがるけど……」



「よし、いいところに来たな、ワッフルよ! ドワーゴ、今からわしが指をつめるところを、よく見ていてくれ!」


「本当にどういう状況だ!?」


 それから、ドワーゴが必死に王を制止したあと。

 今度こそ、落ち着いてしっかりと話し合うことになり……。


「――というわけだ。本当にすまなかったな、ドワーゴよ」


「そ、そんな、べつにいいっすよ……いや、べつにいいさ。あんときゃ、オレも自分の剣を信じられてなかったんだし、それに……まあ、あれだ……悪いことばっかじゃなかったからよ」


 そんなこんなで、ドワーゴがドワーフ王の謝罪を受け入れ、あっさりと話はついたのだった。


 それから、ドワーゴは辺りを見回して、少しバツの悪そうな顔をする。


「あー、つーか……もしかして宴会の最中だったか? なんだか、湿っぽい空気にしちまって悪かったな。そうだ、その詫びってわけでもねぇが……ローナの嬢ちゃん、オレの“土産”をこいつらに配ってくれねぇか」


「あっ、はい! わかりました!」


 地底王国ドンゴワに入ってから慌ただしかったこともあり、すっかりわたしそびれていたが。

 そういえば、この国に来る前にドワーゴからわたされていたものがあったのだった。


 というわけで、ローナがさっそくアイテムボックスから“それ”を取り出すと。


「ローナの姐御……こ、これは?」


 ドワーフたちの視線が、“それ”に釘づけになる。

 ひんやりとした冷気を放っている氷入りのバケツ。

 そして、その氷に突き刺さっているのは――。



「――キンキンに冷えたビールです!」



「「「……ざわ……ざわ……!?」」」


 ――キンキンに冷えたビール。

 それは、地上ではありふれている一方で。

 ドワーフたちにとっては、いまだかつて経験したことのない未知の酒だった。


 種族的に魔法を使える者がほとんどいないドワーフは、人間のように初級魔法プチアイスで簡単に氷を作ることができず……。


 さらに、地底王国ドンゴワは火山の内部にあり、マグマが街中を水路のように流れているような場所だ。

 鍛冶場も多く、あちこちの建物から炉の熱気があふれ出しており……。


 ……つまり、暑いのだ。ものすごく暑いのだ。


 外から氷を運んできても、すぐに溶けてしまうため、氷室を作ることもできない。


 そんな国に、砂漠の水のようにキンキンに冷えたビールがもたらされれば……。

 ただでさえ酒好きのドワーフたちが、ざわ……ざわ……と、どよめくのも無理はなかった。


「こいつぁ、オレが今いる町で作ってる酒でな。冷蔵設備で低温熟成して作る“ラガー”ってビールなんだが……冷やすとめちゃくちゃうまくなんだよなぁ、これが」


 ドワーゴがそう言いながら、ぐびぐびと一気に瓶を空にし、ぷはぁ~っと思いっきり息を吐くと――。

 もう、ドワーフたちに我慢できるはずもなく。



「あ……ありがてぇっ……!」「かぁ~~~っ!」「涙が出るっ……!」「犯罪的だ……うますぎる……」「染みこんできやがる……体に……」「ぐっ……溶けそうだ……」



 次々と冷たいビールを飲んで、涙を流すドワーフたち。

 それは、ドワーフにとっては初めての感覚であり――あまりにも感動的な酒だったのだ。


(そ、そんなにおいしいんだ……私もキンキンに冷えたビールが飲みたいなぁ!)


 その飲みっぷりは、ビールの味を知らないローナも、思わずごくりと喉を鳴らすほどであり。


 こうして、ドワーフたちは、キンキンに冷えた酒のおいしさに気づいたのだった。

 いや……気づいてしまったのだった。


 ……それが、ドワーゴのしかけた“毒”だとも知らずに。



「「「…………ぁ……」」」



 あまりのうまさに、一気に飲み干されてしまったビール。

 もちろん大酒飲みのドワーフが大人数で飲めば、すぐになくなってしまうのも当然だったが、しかし――。


「う……ぁ……ぁあ……っ」


 代わりにぬるい酒を飲んでも――。

 もうさっきのように、おいしく感じられない。


 せっかくの祝いの席だというのに。ドワーフにとっては酒を飲むことがなによりの楽しみだというのに……。


「な、なんちゅうもんを、飲ませてくれたんだ……」

「これと比べると、いつも飲んでるビールなんてカスだ……」


 たしかに、ドワーフの国で飲まれているエールビールならば、少しぬるいほうがおいしいと言われてはいるが……それでも、適温は10度前後。


 そして、この暑い国では、労働後の火照った体には――。



 ――キンキンに冷えたビールのほうが、おいしいに決まっている。



「どわっははは! いい酒だろう? オレぁ、毎日こいつを仕事のあとに、ぐびっとやるのが日課でな。ああ、毎日毎日、楽しくて仕方ねぇや――どうだ、うらやましいか?」


「ドワーゴ、そなた……まさかっ!?」


 そこで、ドワーフたちはようやく気づいた。

 これは、ドワーゴのちょっとした意趣返しなのだと。

 いや、しかし、それにしても――。


「これはないだろ……ドワーゴよ……」


「どわっはっは! ざまぁみやがれ!」


 そんなこんなで、ドワーゴの意趣返しは見事に成功し――。


「く、くく……どわっははは! こいつは文字通り、一杯飲まされたというわけだな!」


 と、やがてドワーフ王が腹を抱えて笑いだした。

 どうやら、このやり取りのおかげで、ドワーゴとのわだかまりも完全にとけたらしい。


 とはいえ、わだかまりがとけたといっても、冷たい酒が飲みたい欲がおさまるわけでもなく。


「あ~くそっ! 冷たい酒が飲みてぇ!」

「もう水でもなんでもいい! なんとかして、冷やせねぇか!?」

「だが、そんなの魔法が使えねぇと――」


 と、ドワーフたちが話し合っていたところで。

 今まで少し蚊帳の外だったローナが、きょとんとしたように挙手をした。



「え? あの……その冷凍マグロを使えばいいじゃないですか?」



「「「――そうだった!」」」


 そういえば、『なぜかずっと凍り続けて冷気を放っているマグロ』がいくつもあるのだった。


 いや、『国宝級のAランク魔剣を、食べ物を冷やす道具として使う』なんて発想は、常人にはなかなか出ないかもしれないが。


「あとは、この冷凍マグロでどう酒を冷やすかだが――」


「あっ、そうだ! ちょうど、“冷蔵庫”という“神器”を作りたいと思ってたんですが……お酒を冷やしたいのなら、この“冷蔵庫”が使えるかもしれません!」


「れーぞーこ? 神器?」


「えっと、この画像みたいな感じなんですが」


「「「――ッ!?」」」


 ローナが見せたインターネットの画像に、ドワーフたちが戦慄する。


 それは、何百年も未来の技術――もしくは、神々の技術とすら思えるものだった。

 材質も構造も不明。これを作れと言われても無理だろというのが、ほとんどのドワーフたちの感想だったが……。


「――ん、なるほどな。つまりは『断熱性がある箱の中で冷気を発生させる家庭用の氷室』ってわけか。この冷凍マグロがありゃ、冷気についてはクリアしてっから……あと必要なもんは断熱材だな」


 ローナ慣れしていたドワーゴは、いち早く画像にある“冷蔵庫”について考察し始める。


「んで、これに使われてる断熱材は……“真空断熱材”? なんだそりゃ」


「えっと……“真空”というのは、『空気などの物質がなにもない』ということらしいですね。“真空”は最高の断熱材になるので、コップやお風呂などにも使えるそうです」


「い、いやいや、『なにもない』なんてどうやって用意しろと――」



「あっ、“(なにもない)”なら、ちょうど持ってますよ!」



「……持ってるのかよ」


 というわけで、ローナがぽいっと“無”を取り出した。

 これは“すいか”を2つ合成すると作ることができるバグの塊のような存在だ。


 それを、ローナが斬一文字で薄くカットしていき――。

 ――斬ッ! 斬ッ! と、ついでに後ろにあった“試しの岩”もスライスされていく。


「「「……………………」」」


 ドワーフたちはもう考えるのをやめて、その作業を見守ることにした。


「わふーっ! ローナの姐御ーっ! 言われた通り、大きさの違う箱を2つ持ってきやがりましたーっ!」


「ありがとうございます、ワッフルちゃん! じゃあ、その2つの容器の間に、ちょうどいい大きさにカットした“無”をつめこんで……」


「む……ローナ殿、このような感じでよいか?」


「はい、そんな感じです! あっ、そうだ……熱が内側に反射されるように、断熱層に金属メッキを――」


「それなら、オレが鍛治スキルでやっておいたぞ。銀メッキでよかったよな?」


「はい! では、最後に冷凍マグロを入れれば――“冷蔵庫”の完成です!」



「「「――どぅぉおおおおッ!!」」」



 さっそく完成した“冷蔵庫”に、ドワーフたちが感動の声を上げる。

 もちろん、まだまだ試作品の段階ではあるものの。


「す、すげーです、姐御っ! こんなに薄いのに、なんも冷気が漏れてきやがりませんっ!」

「これで、いつでも冷たい酒が飲めるどん!」

「それどころか、食べ物の保存もできるんじゃねぇか!?」

「これが、“無”の力……っ!」


 そう、インターネットに書いてあった通り、“無”には圧倒的な断熱効果があったのだ。

 それは、これまでの断熱材――藁・土・おが屑・羊毛などとは、一線を画するほどのものであり。


「お、おい……この“無”って断熱材がありゃあ――」


 ドワーゴがごくりと唾をのむ。

 そう、断熱材の使いどころは、もちろん“冷蔵庫”だけではない。


 建材として使えば、ドンゴワのような暑い地域でも冷蔵施設を作れるようになるし……逆に、寒い地域でも家の中を暖かく保つことができる。


 鍛冶場に使えば、もっと温度の高い炉を作ることもできるし、煙突内の空気が冷えて排気がうまくできなくなるという問題もクリアできる。


 ほかにも、飲み物の温度を保てるコップ、沸かした湯が冷めない風呂やポット、炎熱耐性が付与された防具……などなど。


 その使い道は――その需要は、はかり知れない。

 あまりに革命的な断熱材だ。


 もちろん、それに気づいたのはドワーゴだけではなく。


「お、おい、ローナの嬢ちゃん。この“無”ってやつぁ、まだまだあるか!?」


「我が国に、ぜひとも欲しい! 無論、対価はいくらでも払う!」


 と、ドワーゴとドワーフ王が、さっそくローナへとつめ寄った。



「え? ああ、いいですよ! うちの畑で作ってる“無”なので!」



「「「――ッ!?」」」



「――私が作りました」



「せ……生産者だ! “無”を育ててる農家の方だ!」

「て、てゆーか、畑で作りやがれるんですか、これ……?」

「まあ、なんでもよい! これからは冷たい酒が飲めるぞ、皆の者!」



「「「――どわっほい!」」」



 こうして、“無”と引き換えに、ドワーフたちにいろいろ作ってもらうという約束をかわし――。

 今夜の宴はさらに盛り上がるのだった。

8/6発売の書籍4巻カバーイラストが公開されましたので、ページ下部に貼っておきます!(地味に貴重なロゴなしバージョン)

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― 新着の感想 ―
[一言] スイカゲームならいきなりスイカ用意してんじゃねー また何か「これが一番早いと思います」使ったな?
[良い点] 感想欄に飛んできたら 案の定、無祭りになってたw これは新しいwww
[一言] 無を食べたらどうなっちゃうか考えると夜しか眠れません
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