渡さない——ゆいこのトライアングルレッスンJ——
『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』のコーナー『ゆいこのトライアングルレッスンJ』(ジェラシー・嫉妬がテーマ)に応募した作品です。
ゆいこ・たくみ・ひろしの原案者は巽悠衣子さんです。
いつかこんな日が来ると思っていた。
放課後、たくみとゆいこが人目を憚るように屋上に向かったのを俺は見逃さなかった。影に潜みながら二人の会話を聞く。神経を集中させているからか、気持ちの昂りからか、俺の耳に血液が流れる音が律動的に響く。
「久しぶりだな」
「うん、いつも三人でいたのにね。ひろしと私が付き合ってから、少し避けてた?」
「そりゃーラブラブな二人の邪魔はできませんから?」
「ははっ、たくみだって、見かけるといっつも違う女の子連れてるじゃない」
「まあな」
たくみは、気まずそうにそっぽを向いて答えたようだった。
「ふーー」
たくみがフェンスにもたれかかったんだろうか。あいつの深く吐いた息の重さに耐えるように、ギシッと金網の軋む音がした。
「なんかあった? 元気ないじゃん」
たくみがゆいこに向けて発した、甘さを含んだ真剣な声色に俺の胸はドキリと跳ねた。
「ごめんね、変なこと言うけど聞いてくれる?」
「ん」
「あのね、ひろしと付き合ってもう一年になるのに、キスもしたことないの。手を繋ぐだけ。すごく大切にしてくれるんだけどね、抱きしめてもくれないんだ」
ゆいこがフェンスを握ったのだろうか、ほんのわずかに金網のズレる音がした。
「ひろしったら意気地なしだよね。それとも男子ってみんなこんな感じなのかな? こんなことたくみにしか相談できなくて。……私、私ね、恥ずかしいかもしれないんだけど、好きだから触りたいって、思っ——」
ガシャンとフェンスが鳴る。ゆいこの涙声はたくみによって遮られた。
「恥ずかしくなんかない。好きだったら触りたいよ。俺がどんなに——」
思わず俺は陰から飛び出す。たくみはゆいこを後ろから強く抱きしめて彼女の首元に顔を埋めていた。その光景を目に焼き付ける。
「ゆいこ?」
二人に近づき声をかける。俺の声は自然と震えていた。
「ひろし!?」
ゆいこが驚いてこちらを振り向くと同時に、二人の体が離れる。
「ち、ちがうのこれは」
「わかってるよ」
俺はゆいこに一瞥もくれず、たくみと向き合う。
「お前にゆいこは渡さない」
「……っ!」
たくみは唇を噛み下を向き、拳を握りながら耐え、俺の横を過ぎ去るときにやっと一言絞り出した。
「わるかった」
パタンと屋上の扉が物悲しそうに閉まる。
「さて」
びくっと肩を震わすゆいこ。
「心配させるなんて、悪い子だな」
ゆいこは涙目で俺を見上げる。
「はい、そっち向いて」
「え?」
「たくみに何された? 今から俺が全部上書きするから、正直に言って」
「そ、相談事してて」
「うん」
「そしたら、励ましてくれようとして」
「うん」
「私に覆い被さるようにフェンスを掴んで」
「ん」
ギシッと金網を掴んで俺の体でゆいこを閉じ込める。
「そ、それで後ろからギュって」
「こう?」
「……もっと、強く」
俺はたまらず力一杯ゆいこを抱きしめる。
「ごめんな、ゆいこ。俺、これからも大事にするから」
「ううん、私こそ勝手に不安になっちゃってごめんね」
いつかこんな日が来ると思っていた。
たくみと同じようにゆいこの首元に顔を埋め髪の毛にキスをして、爽やかなシトラスの香りを思い切り吸い込む。
ああ、たくみの香りだ。
ずっとこうしたかった。
俺は目を閉じながらゆいこを抱きしめたたくみの熱を味わう。この熱が俺に向けられたものならどれだけよかっただろう。
たくみ、お前がどれだけ女子と遊ぼうと一向に構わない。お前の本命はゆいこだから。ゆいこだけは一生お前に渡さない。苦しいよな、たくみ。だからこれからもゆいこに手を出すことは怒らないよ。俺に向けられることのない熱を、こうやって上書きしながら味わうから。
お読みいただきありがとうございました。
嫉妬、挑戦できて楽しいテーマでした!ありがとうございました!!
「トライアングルレッスン交流会」楽しませていただきます!
(2021年2月26日放送の『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』にて、ご自由にとのことでしたので投稿しました。
もしも投稿の仕方に問題がありましたら、すぐにお知らせください。よろしくお願いします。)




