スポーツ大会 三
〈四宮 葵(男)目線〉
「四宮さん!」
そう呼びかけると彼女は少し驚いたような顔をしてすぐに柔らかい笑みに表情を変えた。
「四宮くん、何が必要?」
お題を思い出し動揺してしまった。
「えっと、後で説明するから一緒に走ってくれる?」
「私で良いの?」
「うん、四宮さんが良い」
立ち上がった四宮さんに一言声をかけて横抱き、いわゆるお姫様抱っこと呼ばれる形が抱き抱える。
「四宮くん!?」
「これもお題の一つだから、ごめんね」
お題だから仕方がないのだ。いい香りがする、とか照れて視点が定まらないのが可愛いとか思っている訳では無い……そう、決して。
他人に横抱きにされることが慣れていないからか、そっと服を掴んで来ているのが可愛いとか思っている間にもうゴールまで来ていた。
四宮さんをそっと下ろし、担当の教員にお題の書かせた紙を見せた。
「お題は……へぇ」
へぇとは流石に失礼な気がする。
結果は二位と一位ではなかったものの好成績た。
少しして一人、二人と順にゴールして行き結果発表となった。
「一位は青。お題は担任の先生!」
お題の発表後ちょっとした解説や雑談があり、二位への発表へと移った。
「四宮さん、予め謝っておく。ごめん」
「しの──」
「二位、白」
声を遮って放送が続く。みんなの耳でも塞いで回りたいくらいだ。
「お題は好きな人」
そう言った瞬間悲鳴が響き渡った。
正しいお題は『好きな人、又は担任と副担任』だった。どう考えても四宮さんを連れてきた方が早い。
「しの、みやくん……?」
公表しないという話は?とでも言いたそうな顔だった。
「ごめんね。さっきので心配させてしまったかたと思って」
「そこまで気にしてなかったけど」
そう言われてしまっては少し凹んでしまう。
「少し気にして欲しかったな、なんて」
自分だけが嫉妬して、モヤつくのは嫌だ。四宮さんにも同じ思いをして欲しいという訳では無いが、少しくらいは気にして欲しかった。
「んー、なんかごめんね」
申し訳なさそうに笑った。そんな顔をさせたかったのではない。
「でもしてないからね。触れてもないから安心して」
「分かってるから大丈夫」
いつも見ている自分でないと気が付けなかったかもしれない。ほんの少しだけ、ほっとしたような笑みを見せた。
また勝手に思い込んで嫉妬していた。四宮さんも気にしてくれていたのに。
「四宮くん、もう結果発表終わったみたいだから戻ってリレーの用意しよう?」
「そうだね」
周りが各々の席へ戻るのと同時に移動するも、すぐに囲まれてしまった。
多少は予想していた。
自分の容姿が人よりも良いのは理解している。あまり顔立ちが整っていなくても清潔感や言葉遣い、普段の立ち振る舞いを意識すればそれなりに見えるようにすることは出来る。
そう見えるように印象操作をしているから『様』付けで呼ばれ、慕われているのも承知の上だ。
そして四宮さんも印象操作をしているのだろう。
普段はあまり存在感が無く、クールに見える。しかしそれは仕事に忠実なだけであり、実際はもっと穏やかで可愛らしい一面があることをもう十分に知っている。
自分の印象操作と四宮さんの特別整った顔立ちと言葉遣いや立ち振る舞いの美しさが相まって予想の倍以上の人に囲まれてしまった。
「四宮様、冗談ですよね?」
「四宮、流石に嘘だよな……よりによって葵ちゃんに片想いだなんて……」
自ら囲んできて好き勝手言われては堪らない。そもそも片想いではないが否定しては四宮さんに迷惑がかかる。どうしようかと悩んでいると四宮さんが突如行動に移した。
「私も葵くんのことが好きでお付き合いをさせて貰ってます……ということでもう解散で」
最後の方は声が小さくなっていた。
普段『好き』だと伝えてくれることは中々無いので素直に嬉しい。
四宮さんの方を確認すると顔を紅く染め手を口元に添えていた。
それを見て咄嗟に四宮さんの肩を抱き寄せ、顔をみんなから見せないようにしてしまった。
「「し、四宮!?」」
何か言っている気がするが気にしない。
「見世物じゃないからね……それに、先生方が困ってるよ」
視線を離れたところに移すとタイムスケジュールがズレ、慌てた先生方が目に入った。
みんな根は優しい人ばかりだからかその様子を見て一人二人と移動して行った。
人が居なくなり、四宮さんに声をかけようとしたところで胸の辺りを押された。
「急がないと。四宮くんはハチマキも付けてないよね」
陽夜が持ってるかな、と呟き何事もなかったかのように振舞っていた。
「そうだね……四宮さんはなかったことにしちゃうの?」
「しないけど……」
ほんのりと顔を赤らめ、そっぽを向いてしまった。その様子が新鮮で普段はしないけれど、少しの意地悪のつもりで詳しく尋ねてみた。
「けど?」
「な、なんでもないです!……陽夜!」
先行くね、と声をかけて村雨さんの所へ行ってしまった。この状況でも一言言ってくれ、村雨さんの心配をしているのが流石だとしか言いようがない。
「四宮、これ」
「井上か、ありがとう」
突然背後から話しかけてきた人物からハチマキを受け取る。井上は偶に気配を感じさせないことがある。普段から何をしているのだろうか。
「そういえば井上もさっきのに出てたよな?お題は何だった?」
「あー、まあ似たようなやつ」
「じゃあ村雨さんに協力してもらったのか?」
「そんな感じ」
これ以上踏み込まれたくないというのがひしひしと伝わってきた。
「そう」
会話が途切れそろそろ移動しようかと思ったところで明るい声が聞こえてきた。
「井上くん、四宮くん、一緒に行こう」
「村雨さんに四宮さん!」
井上の態度の変わり様には笑いそうになる。
「でも人のことは言えないか」
四宮さんの姿を捉えそう呟き、ハチマキを取れないようキツく結んだ。
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次回は金曜日の投稿となります。
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