スポーツ大会 一
空を見上げると雲がほとんど無い快晴で風も少し有り、気持ちいい天気だった。
ふと横に目をやると隣の少女髪が透き通ってキラキラと輝いている。
その少女は軽やかに振り向き首を傾げた。
「葵、またぼーっとしてるけど、熱中症?」
「大丈夫。陽夜こそ暑くない?」
「暑いけど、まだ九月だから仕方ないよね」
夏休みが終わって数週間経った九月下旬、スポーツ大会が行われることになった。
「葵は何の種目に出るんだっけ?」
「私は二人三脚とリレーかな」
この学校のスポーツ大会は全て合わせて五種目行われる。順に百メートル走、二人三脚、球技、借り物競争、男女混合リレー。その中から一人二、三種目程選んで出場する。
ちなみに球技は男子がハンドボール、女子がドッヂボールだ。
「そうだったね。リレーは一緒に出れるから楽しみ」
確か陽夜はドッヂボールとリレーに出る。怪我をしないかだけが心配だが、まだ始まったばかりの今でさえ楽しそうなので止めることは流石に出来ない。
「葵、そろそろ出番みたいだよ!」
一種目目の百メートル走が終わったようだ。
「ありがとう!行ってくるね」
「頑張って!」
陽夜に応援してくれるなら一位を取れる気がする。
収集場所に着くと既にペアの女の子が居た。
「葵さん!頑張ろうね」
「うん、よろしくね」
メンバーの確認をしてからスタート位置に着き、足をひもで結ぶ。
このひもが解けてしまったら失格なので出来るだけキツく走りやすいように結んだ。
「あー、緊張する!内側の足から出すので良いんだよね?」
「それで良いと思う。合わせるから好きにして大丈夫」
陽夜ほどでは無いが、緊張しながらもにこにこしている女の子は可愛い。
身長が近い人というだけで選ばれてしまったが、自分で大丈夫だっただろうか。
「ありがとー。ペアが葵さんで良かった」
陽夜をはじめとしてなぜ周りの人達はこんなにも優しい言葉をかけてくれるのだろう。
自分なんかに媚びを売っても何も良いことはないはずだ。
お礼を言おうとすると担当の教員から合図があり、空砲が鳴った。
始めは順調だった。
良くも悪くもないという微妙な順位。中学の頃と違って練習はしていないのでこんなものだろうというのが正直な感想だ。
ペースが少し上がったところでペアの子の体が傾いた。二人三脚で足を結んでいるため二人とも倒れ込みそうになった。
顔から倒れ込むのは流石に避けたい、と思った時には体が動いていた。
背中から地面に落ち、ペアの子が体の上に来るよう受身をとった。
ふと見上げると転んだところを避けて通って行くペアが見えた。
「葵さん!ごめんね、大丈夫?」
「大丈夫」
結ばれている足が引っ張られて痛いが、緩く結んでいたお陰で足が折れたりはしていない。
「とりあえず起き上がってゴールまで行こう?」
全く動く気配のないペアの子にそう声をかけると、勢いよく立ち上がろうとして再び倒れ込んで来た。
「……っ、せめてゆっくり立ち上がろう?」
はい、という小さい返事が聞こえた。言い過ぎてしまっただろうか。
結ばれている足から立ち上がりゴールを目指すも失格を除いて最下位だった。
「葵さん、本当にごめんなさい」
「大丈夫、気にしないで」
「でも、背中もよ──」
「葵!」
転んだところを見て急いで駆け付けてくれたようだった。
「田崎ちゃんも大丈夫?」
「私は大丈夫だよ、陽夜ちゃん」
可愛らしい女の子二人のやり取りを見ながら体についた汚れを落としていると陽夜が急に抱き着いてきた。
「葵、大丈夫?どこか痛いところとかは無い?」
心配そうな目で見られると怪我をしていないことが申し訳なくなってくる。
「大丈夫。田崎さんの方こそ大丈夫だったかな?」
「田崎ちゃんなら大丈夫そうだったよ!ごめんねって言って次の種目のところに行ってたかな」
何事もなかったなら良かった。きっと後ろの人に押されて転んでしまったのだろう。
こういう行事では良くあることだ。
「陽夜って次の種目に出るんじゃなかったっけ?」
「次ってもうドッヂボールだっけ?」
「そうだったと思う」
「ごめん、行ってくるね。さっきの葵はかっこよかったから私も良いところを見せられるように頑張るね!」
そう言い走ってその場から立ち去ってしまった。
陽夜がかっこいい。普段はふわふわしていて可愛いのにふとした瞬間にとてもかっこよく見える。言動がイケメンと言うのが正しいだろうか。
陽夜の応援をするため場所を移動しようとして思い出した。
四宮くんもハンドボールに出ると言っていた気がする。タイムスケジュールを見ると女子の試合の後、男子の試合だった。
まず陽夜の見やすいところに行き応援する。
結果は陽夜の活躍で勝利を収めた。
陽夜は強そうに見えないからだろうか。強い人から狙うという暗黙のルールで陽夜は最後まで残った。
残り二人となったところから快進撃が始まった。来るボールは全て取り、投げれば必ず当たる。ついには敵チームが居なくなり、ゲームは終了した。
「葵、どうだった?」
「凄かったよ!」
「やった!頑張った甲斐があったよ」
ピョンピョンと喜んで跳ねている陽夜にタオルを渡して四宮くんの試合が見られる位置へ移動する。
四宮くんはどこか探そうとしたが、見つける前に隣りから話し声が聞こえた。
「王子が青の三番のベストを着てる!」
「かっこいいです、四宮様」
「コートの中央で何を話しているのですか、王子は」
コートの中央にいる青の三番のベスト。隣りの子たちのおかげで大して探すまでもなく見つかった。
「四宮くん、居たね」
「そうだね」
「葵、四宮くんに手でも振ってみたら?」
考えてもいなかったの言葉に一瞬思考が停止する。聞き間違えだろうか。
「ほら、彼氏なら振ってくれると思うよ……葵になら恋人で無くても振って貰えると思うけど」
最後の言葉は声が小さすぎてよく聞こえなかったが、流石に手を振ることは出来ない。
邪魔は出来ないのからという理由は勿論のこと、今の段階で自分から付き合っていることがバレるような行動を起こすのは得策ではない。
それにバレる時はファンクラブの子とこんなにも近くに居られない。
どうするのが正しいか悩んでいると四宮くんがこちらに近付いてきた。
「応援に来てくれたの?」
「そう!期待してるよ」
「ありがとう。それなら頑張らないとね」
陽夜と四宮くんが何か話しているが、上手く会話に混ざれない。
付き合う前はどうやって四宮くんと話していただろうか。中々思い出せず戸惑っているとそれに気が付いた四宮くんはこちらを見て笑った。
「四宮さんも応援してくれると心強いな」
「言わなくても四宮くんなら頑張るとは思うけど、応援してるよ」
ふと視線を上げるとこちらに走ってくる井上くんの姿が見えた。
「四宮、もう試合始まる」
少し離れたところから声をかけると、四宮くんは軽く手を挙げて応えた。
「ごめん」
「じゃあね、葵さん、村雨さん」
「井上くんも応援してるよ!」
陽夜が手を振り少し離れたところにいる井上くんに声をかけると、嬉しそうに笑った。
「ありがとう……ほら、四宮行くぞ」
「ごめんって」
笑いながら背中を叩いたりしているところを見ると男の子同士は良いなと思ってしまう。
ふと視線を感じ陽夜の方を見ると、こちらを見てにこにこしていた。いや、にやにやの方が正しいかもしれない。
何かを企んでいる楽しそうな笑みだった。
「何かあった?」
「ん?いや……名前呼びか、仲良いなと思って」
最近は『葵さん』と名前で呼ばれることが多かったからか違和感を感じず、陽夜に指摘されて初めて気が付いた。
「ちょっ……陽夜!!」
「ごめんね。ほら、もう始まるから応援しよう?」
ね!と可愛く念を押す陽夜には適わない。
そして頷いた時には試合が始まっていた。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
今回から『スポーツ大会編』が始まりました。
全部で五話となっており、『スポーツ大会編』が終わるまでは週に二回投稿となります。
それ以降はキリが良いところまで書け次第、順次投稿していきたいと思っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




