プール編 ビーチバレー
三人について行き到着した場所は想像以上に広かった。
「名前を書けば借りられるみたいだね」
井上くんが代表として名前を書いてくれている間に荷物を柵の中に移動させた。
ビーチバレー専用のスペースが確保されており、その場所だけ砂が敷かれていた。周りにはフェンスもあり安全に遊べそうだ。
「チーム分けはどうする?対決でないにしても分かれないとだよね」
「運動能力の高い順とかかな」
「確かに男女だとバランスが悪くなりそうだね」
四宮くんと陽夜が色々と考えてくれているにもかかわらずぼーっとしてしまっていた。
「葵、大丈夫?熱中症とか?」
「大丈夫!チーム分けだったっけ?」
陽夜に心配をかけてしまった。心配しなくてはいけないのはこちらなのに。
「そう!運動能力が高い順だと……流石に体格もあるから男子の方が良いよね。となると……井上くん、四宮くん、葵、私かな」
「そんな感じかな。井上にはどうやっても運動能力では勝てないんだよね」
「俺がどうした?」
井上くんも戻ってきたようだ。他人の体をよく見ることはあまり無いが、確かに井上くんは体格が良い気がする。
体のバランス的にもきちんと鍛えられていそうだ。
「井上は運動出来るよね、っていう話」
「そのくらいしか取り柄がないから」
井上くんがそう言うとすぐに陽夜が否定した。
「そんなことは無いと思うよ。井上くんは顔立ちも綺麗だし体格も良い。頭も良いし、あとよく人のことを見ているんだろうなって思う!それに何だかんだで人のことを放っておかないし、優しい……それにこういう人はきちんと努力しているんだろうなって思う。あと一番は優しいことかな……とくに——」
「ありがとう。もう大丈夫」
珍しく顔が真っ赤になり目線を合わせなかった。
「井上は村雨さんに弱い、と」
「とりあえず四宮は黙って」
「もう良いの?まだまだ言えるよ!」
陽夜の天然が故の言葉。四宮くんの言うように陽夜はとても強いのかもしれない。
「村雨さん、ありがとう。気を遣わなくて大丈夫。それよりチーム分けは?」
「井上くんと陽夜。四宮くんと私が自然かな」
陽夜の運動神経が悪いというわけでは無いにもかかわらず、何故か悪いように扱われているのが納得いかない。
井上くんと四宮くんの二人が良すぎるだけだが……
陽夜からサーブを始めラリーを続ける。陽夜から四宮くん井上くん私と順に続けていく。
しばらく続けたが、誰もミスをしないので終わる気配が無い。
「終わらないね」
思わずそう言うとみんなから共感が返ってきた。
「楽しいけど……終わらないね」
「チーム変えて対決にする?」
「そうしようか」
ちょうどボールが来たタイミングだったので返すことなくボールを止めた。
「じゃあ俺と四宮が交換すれば良いかな?」
「そうだね」
向かいのコートに陽夜と四宮くんがいる。
「これって対決だよね」
そう聞くと井上くんが頷いてくれた。それならばもう少し本気を出して大丈夫かもしれない。陽夜は狙えないので、そうなると四宮くんを狙うしかない。
一言、声をかけてから始める。
始めは先程と変わらない強さで陽夜の近くに落とす。
しかしまるで何ともないかのように返されてしまった。
大体の立ち位置でどちらがボールを取るのかを変えていく。タイミングよくボールが回ってきたところで、少し強めに、四宮くんがギリギリ取れなさそうなところに落とした。
しかしボールは砂に触れることなく陽夜にパスされ戻ってきた。
「四宮さん、さっきまで抑えてた?」
井上くんの問いに曖昧な答えを返す。
「んー、どうだろうね」
能ある鷹は爪を隠す、というくらいだ。普段から全力を見せてはいけない。確かに物事に全力を尽くすことは大切だが、相手を油断させるため、本気を出さず手加減した状態が全力かのように振る舞う。
ビーチバレーに関して言えば油断させる必要は無かったかもしれないが、日常的に出来ていないことが、いざという時に発揮できるとは思わない。
私には隠すほどの実力は無いが、気をつけるに越したことはない。
次はどこにボールが落ちるのかを予想していると、四宮くんが届くか届かないかのギリギリあたりを狙ってきた。
勿論届かないということはなく、危なげなくボールを拾う。
先程の全く緊張感がない状況よりもこちらの方が楽しい。しかし四宮くんもこちらを油断させようとしていたようだ。
自分もしていた手前、強くは言えないが、もう少し強めに打っても良さそうだ。
次にボールが来た時には先程よりも威力を強めて返す。
それを何度も何度も続けるうちにボールに触れているのがほとんど私と四宮くんになってしまった。
そろそろ一度切り上げなくてはいけない。そう思った瞬間、ボールが的外れな方向に飛んでいってしまった。
そして偶然近くにいた人たちに当たった。一人目は少しかがんでいた男性に、二人目はコート側を向いていた男性だ。
ドッチボールならば二人まとめて外野行きだろうか。どうでもいいことを考えてしまっていたが、今はそれよりも謝ることの方が大切だ。
慌ててその人に近づき謝る。
「すみません、お怪我はありませんか?」
「ま、まあ……」
反応は曖昧だが怪我はなさそうだ。
男の人たちの反応はさておき、ボールを回収した。フェンスのおかげで外にボールが出てしまうことなく拾うことが出来た。
このコートはフェンスによって一つのコートずつに分けられていてとても安全だ。他のコートの利用者にも迷惑はかけていない。
コートのことは一度置いておきボールをぶつけてしまった男たちの方に向き直す。
「コート内に居たってことはもう時間、過ぎてました?気がつきませんでした。ごめんなさい。すぐに代わります」
「いや、そんなことは……」
分かりやすく視線を泳がせる。もう一押しで何とかなりそうだ。
「それなら良かったです……お兄さん方、他の人が遊んでいる時に中に入って来ては危ないですよ」
そう言いながら入り口の方へと軽く背中を押し、歩かせる。
フェンスを越えるギリギリのところで三人には聞こえない声の大きさで言った。
「他人の荷物を漁らない。常識ですから。それにあの子は可愛いからって声をかけて良い相手ではないです」
男たちの背中を軽く叩き、声を低くして言う。
そしてフェンスで出来た扉を閉め、もう一度謝る。
「ボールを当ててしまいすみませんでした」
男たちは二度見をして去った。
去ってくれたのはありがたいが、二度見をしてくるのは失礼な気がする。
「あと十分くらいだから早く再開しようか」
みんなに声をかけてまた始めた。
今度はギリギリを攻めたラリーにしたからか先程よりもみんな楽しそうだった。
「さっきはわざと男たちに当てたの?」
陽夜と四宮くんには内容は聞こえない程度の大きさで井上くんが話しかけてきた。
陽夜たちとは普通に会話をしながらこちらにも話題を振っているのは凄いと思う。
「少しコントロールを間違えただけだよ」
聖徳太子ほどは出来ないが二人程度は出来るので何事もないかのように返した。
「でも明らかに当てる角度を変えてたよね」
「世の中知らない方が幸せなことは多いから、そんなに何でも聞くのは良くないよ」
そう言うと少し考え込んでしまった。
何か言ってはいけないことを言ってしまっただろうか。しかし今の会話に思い当たるところはない。
「四宮さんって俺に当たりが強いよね」
「そのつもりは無かったかも」
「じゃあ、無意識か……」
「無意識だったとしても傷つけたならごめんね」
無意識だから、知らなかったから、ということは通用しない。
「傷付くほどではないから気にしないで……そろそろ時間だね、片付けようか」
後半は明らかに声が大きかったので陽夜たちに向けて言ったのだろう。
確かに井上くんの言うように時間も迫っていた。
慌てて片付けをしコートを出た。まだ次の人は来ておらず、迷惑をかけることも無かったようだ。
「次はどうする?」
「少し早いけどお昼にしようか」
四宮くんの提案にみんなが頷く。
集合が遅めだったからか既に昼食を食べてもおかしくない時間になっていた。
きちんとしたプールだからか食事場所も綺麗だった。
しかし少し早めのお昼と考える人は多かったようで混んでおり、席取りが大変そうだった。
「席取りはお願いする形になるけど、何食べたいか教えてくれれば注文取ってくるよ」
これが考えた中で一番効率的だった。
陽夜が取りに行くことは無いとして、女子二人や男女一人ずつよりも男子二人で陽夜と居てもらうのが安全だろう。
陽夜の可愛さは他人の使用中のコートに入ってまでも話しかけたくなってしまうほどなのだから。
「ありがたいけど、ここって注文したらそのまま商品と引き換えだよね。四人分は大変だと思うよ」
「お気遣いありがとう。でも私の本職はメイドだから」
四人分程度なら朝飯前だ。
「じゃあお願いしようかな」
若干不安そうだが注文は伝えてくれた。そんな心配されるようなことは無いはずだが、何がそこまで心配なのだろう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
また少し遅れてしまいすみません。
次回も一週間後くらいの予定です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




