再び
「葵さん」
そう何度か呼びかけられて気がついた。
「四宮くん……色々とごめんなさい。それとありがとう、助かりました」
四宮くんが助けに来てくれていなかったらまだ抜け出せずにいただろう。
男たちのことを思い出して気がついたが、四宮くんが飲み物をかけられそうになっていたところを庇ってくれたのだった。
「濡れたよね……ごめんね、わたしのせいだよね……」
そう言いハンカチを渡そうとするも断られてしまった。
「葵さんのせいではないから。それに、今日は暑いからすぐ乾くよ」
それでも風邪をひいてしまったらと考えると心配になる。
「ここだと人の邪魔になってしまうから、そろそろ歩こうか」
四宮くんの提案でしばらく歩いていたが終始無言だった。周りに目を向けると四宮くんの顔立ちの良さからかこちらに熱い視線を送っている人がとても多くいた。
男女関わらず通りすがりの誰もが振り向く。そんな四宮くんの後ろを自分が歩いていて良かったのかと不安に思うが今更引き返すこともできなかった。
少し歩くと中心部から離れたからか段々と人が減ってきた。どこに行くのか分からずとりあえず付いていくと神社の境内に入ったところで止まった。
「ここって結構穴場なんだ」
「そうなんだね」
「……そういえばむらさ——」
「陽夜!」
普段ならばなるべく人が話しているのを遮ることはしないがそんなことも考えていられなかった。
なぜ忘れてしまっていたのだろうか。どうして四宮くんが助けに来てくれた直後に思い出せなかったのだろうか。
幼い頃から陽夜だけのことを思って訓練し、一番に考えていたのに。
何にも変えられない存在として大切にしてきたのに。
今はショックを受けている時間はない。
「四宮くん、ごめん」
この際下駄だからと言ってられない。別に裸足だろうが怪我をしようが関係ない。
急いで来た道を引き返そうとしたが、手を後ろから引っ張られた。
「葵さん、待って」
慌てた声に少しだけ冷静になる。しかしゆっくりしている時間もない。振り返ることもせず淡々と言いたいことだけを言う。
「分かりました。要件は五秒以内で」
こういうところが落ち着いている、無表情、怖いなどと言われるのだろうと思ってしまった。
「四宮さんが行ったあと村雨さんの体調が悪化してしまって、四宮さんに連絡しようかと思ったんだけど直接家の人に連絡した方が早いかな、ってなって連絡をしたんだ。そしたら水谷さんが来てそのまま帰っていったよ。村雨さんには一応井上が付いて行って、自分は葵さんを呼びに来たのがちょうど今」
言いたいことを全て五秒ピッタリに言い終えた四宮くんは少し息切れていた。
「それは事実?」
「嘘は言わないよ」
その言葉を聞いて一気に肩の力が抜けた。
「そっか……じゃあ早めに帰ろうかな」
水谷さんがいるのならば平気だろうが早く帰るに越したことはない。
「葵さん、少しだけ時間ある?」
別に無いという訳ではないのでとりあえず頷いておく。
「聞きたいことがあって」
伝わったようで良かったが聞きたいこととは何だろうか、そう思っているとまだ掴まれたままの手が目に入った。
「わざとなのかどうか分からないけど……告白したのって無かったことにされてたりする?」
そんなことはない、そう否定したかったが、まるで告白が無かったかのように振る舞っていたのも事実だった。
「……ごめんね」
そう伝えるのが精一杯だった。
「やっぱりか……」
ショックを受けた声に申し訳なくなってきた。しかし私ではどうしようもない。これ以上何か言っても更に傷つけてしまう気がする。
「じゃあもう一度言わせて」
いきなり変わった声色に驚いて顔を上げると四宮くんと目が合った。
いつもの優しい目も好きだが、真っ直ぐこちらを向く目はとてもかっこよく何故か目を離せなかった。
「葵さん、好きです。あなたの笑ったところ、一生懸命なところ、人のことをよく見て気を遣えるところ、その声も優しさも好きです。付き合って貰えますか」
嘘だと思った。先日も冷たくされ、散々迷惑をかけたのだからもう諦められていると思っていた。だからこそ四宮くんの言葉に頰が緩みそうだった。
しかし現実はそう上手くいかない。
「ごめんなさい」
そう言い頭を下げる。
今四宮くんの顔を見たら決心が鈍ってしまう気がした。
「どこか、ダメなところがあるならば直すよ」
ダメなところなんて少しもない。
ただ今四宮くんと付き合ってしまうと離れられなくなってしまう気がした。それに柳田さんのところに嫁ぐと決めたのだから、ここで四宮くんと付き合うのは申し訳ない。
四宮くんも期限が決まっている人となんて付き合いたいと思わないだろう。
私が初めて好きになった人だから……良い人と結ばれて欲しい。
「ごめんね……」
最後まで目を見て言えないのもごめんなさい。難しいかもしれないけど、これからも学校で話してくれると嬉しいです。ありがとう。そしてごめんなさい。
そこで終わるはずだった。
「葵さん、少しでも良いから」
「……少し、なら」
何も考えずに答えてしまった。
自分の言った言葉に驚いて顔を上げると、四宮くんはとても良い笑顔でこちらを見ていた。
今更嘘とか言わないよね、と言われている気がした。
「葵さん、これからもよろしく」
少しだけなら許されるだろうか。
許されなくても四宮くんと一緒にいられるならばそれで良い気がする。それ以外は些細なことに思えてくる。
「よろしくお願いします」
きっと長くは続かない。隠し通せない。
せめて少しだけでも夢を見たい。
掴まれていた手がいつのまにか恋人繋ぎと言われる方法に繋ぎ直されていた。
しばらく繋いだ手を見ていたが段々と恥ずかしくなってきてしまい、顔を背けると今日最後の花火が上がった。
その花火は最後を飾るに相応しい華やかさだった。けれどなぜか花火が消える瞬間の儚さの方が印象に残っていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回で夏祭りも終わり、ひと段落となります。
次回も二週間後くらいの更新となると思います。(多少の前後はします)
最後まで読んでいただきありがとうございました。




