修学旅行 帰宅とそれから
クラスの人たちと合流をし、チェックアウトをする頃には四宮さんも村雨さんも不穏な空気は無くなっており、いつも通りのように見えた。
やはりあの場でのことは見間違えだったのだろうか。
村雨さんが四宮さんの手を払ったことで流れた気まずい雰囲気は何だったのだろうか。
村雨さんは知っているかもしれないが、四宮さんには同僚ということを伝えていないので聴くことも出来ない。
同僚として聞けるほど仲も良くはない。
事情を聞けないまま井上の作戦通り四宮さんを必要最低限以外は避けることを始めた。
一度避けただけでも心が苦しくなる。
本当にテスト後まで続けられるだろうか……
〈四宮 葵(女)目線〉
ホテルをチェックアウトする頃にはいつものように話すことができた。
しかしいつものような雰囲気は取り戻せても陽夜の心からの笑顔は見ることが出来なかった。
表面上だけとは思わせないような可憐な笑みで、本心では一切笑わっていない『村雨』の令嬢としての笑顔と同じだった。
それでも何も無かったかのように振る舞うことで何とか空気を保っているというのが伝わってきた。
陽夜のその笑顔を見ていると改めて自分がしてしまったことの重さが分かる。いくらキリがなかったとはいえするべきでは無かった。
麻痺毒に頼らなくても大丈夫になるよう訓練をしよう。そう心に決めて帰宅した。
◆◇◆◇
修学旅行から戻り一週間が過ぎた頃には『村雨』の令嬢としての笑顔ではなく、多少の違和感は感じるものの普段のような笑顔に戻っていた。
態度や空気も元に戻っており、定期テスト恒例になっている放課後の教室で勉強をしていた。
普段は陽夜と二人で二時間程して帰るが、今回は四宮くんと井上くんも一緒だった。
「葵、ここはどうしてアになるの?」
「えっと、部分否定と全部否定の違いは分かる?」
「部分否定は知っている部分もあるが知らない部分もある。全部否定はまったく知らないということだよね?」
「そう。知らない範囲がそれぞれ違うということ。不は否定語だから、具体的に言うと『不+副詞』が部分否定で、『副詞+不』が全部否定になるの。それで問題に戻ると、この問題では部分否定を聞かれているから陽夜が始めに書いたイではなくて、アになるの」
説明が終わってから陽夜の方を見ると納得をしてくれたようで頷いていた。
その姿を見てほっとする。自分の拙い説明で理解してくれる陽夜は凄いと思う。陽夜は理解力があるため、一度理解をすると間違えることはほぼ無い。
その才能は本当に尊敬する。
陽夜が他の問題を解き始めたので自分の勉強を進めようとすると井上くんに話しかけられた。
「四宮さんの説明は分かりやすいね」
「ありがとう……そういえば二人とも時間は大丈夫?今日は一緒に付き合ってくれているけど」
「まあ」
「大丈夫だよ。家でも大して勉強しないからむしろこっちの方が良いくらい」
「なら良かった」
四宮くんは反応が薄かったが大丈夫だったのだろうか。
もし無理に付き合ってくれていたならば申し訳ない。しかし陽夜と話している様子を見ると井上くんに無理矢理連れて来られたという感じもしない。
気のせいかもしれないが最近四宮くんが冷たい気がする。今のように話しかけても「まあ」「そうだね」「あぁ」のほぼ三通りでしか返ってこない。それに話しかけられることが無くなった。以前は休み時間ごとにと言っても良いくらいの頻度だったがそれがパタリと止んだ。
陽夜には普段通りなので私が何かしてしまったのだろうか。
自分では何故か分からないだけに、知らずに人を傷つけてしまっていたのかと思うと自分が恐ろしく思う。
その日はそれから三十分後にお開きとなった。
◆◇◆◇
テストまであと一週間を切った。
その日も放課後の勉強会は行われていた。勿論四宮くんと井上くんも一緒だ。
「葵、飽きた!」
「唐突だね」
そうは言ったものの、ここ二日くらい陽夜の集中力が続かなくなってきていたことに気がついていた。
「何か集中出来なくて……」
「じゃあ少し休憩でも取ろうか」
そう言い紙コップと紅茶の入ったタンブラーを出す。そして軽く摘めるお菓子を四人分机に並べ、紅茶を紙コップに注ぎ並べる。
「今日はレモンティー、お菓子もどうぞ」
「ありがとう、葵」
そう言って紅茶を一口飲んでから一番にお菓子に手を付けるのが陽夜。
「ありがとう」
そう言いしばらくは紅茶を飲むのが四宮くん。
「ありがとう。毎度思うけど、用意が良いよね……そう、今日はお菓子を持ってきた」
お礼だけでなくその後も会話を続けるのが井上くんだ。そして井上くんはたまにお菓子を持って来てくれる。
うちの学校は校則はあまり厳しくなく、お菓子の持ち込みも携帯の持ち込みも授業中に出さなければ大丈夫と緩めだ。だからこそ堂々とお菓子を食べることが出来る。
井上くんが持って来てくれたお菓子をいただきつつ、陽夜が何か気分転換に出来ることはないかと考えてみる。
「何が気分転換になるかな……」
口に出してみるも答えは出ない。
「葵のそうやってきちんと考えてくれるところが好き」
少しはにかみながらそう言う陽夜がとても可愛い。
「ありがとう」
なるべく何も無かったかのようにお礼を伝えたが、陽夜にバレていないだろうか。とてもハラハラする。
「でも村雨さんの気持ちも分かる。テストが終わったら夏休みだしね」
「そう、来年は受験だから遊べるのは今年しか無いのに」
「そっか、来年は卒業か」
「なんかあっという間だよね。だから夏休みにどこか行きたいな、って思って…………葵、花火大会は?」
ぼーっと井上くんと陽夜の会話を聞いていたが、いつのまにか話しかけられていたらしい。
「花火大会ね……旦那様に聞かないと分からないけど、多分厳しいかな」
そう言うと珍しく話の途中に携帯をいじり出した。
この前誘拐されかけたばかりなのに旦那様が許してくれるとは思えない。
どう陽夜を説得しようかと悩んでいると旦那様とのやりとりを見せられた。
人のメールの内容を見るのは気が引けるが、見せられている状態なら仕方がないだろう。
陽夜が指す場所を読んでいく。
旦那様らしいしっかりとした言い回しがされているが、内容は簡単なものだった。
「要約すると、『花火大会に行って来て大丈夫』ということ?」
「そう!お父様の許可も取れてるから一緒に行こう!」
先程はまさに今思いついたかのように話していたが、計画的なものだったらしい。
「演技派か……」
「ごめん、聞こえなかった」
「何でもない、じゃあ行こうか」
「ありがとう、葵」
「これで陽夜の集中力も保つでしょう?」
そう言うと小さく笑った。
「バレてた?」
まさに可愛いを体現したようだった。
「うん、じゃあ花火大会のことはテスト後に決めるとしてそろそろ勉強を再開しようか」
「そうだね」
勉強を再開しようと紙コップを片付けていると今まで黙っていた井上くんが話しかけてきた。
「それって俺らも行って良い?」
「それって、花火大会?」
「そう」
「陽夜、どうす……陽夜は大丈夫そうだから一緒に行こうか」
陽夜に尋ねるまでも無かったようで、とてもニコニコして頷いていた。
「ありがとう、じゃあ四人で良いかな?」
「うん、大丈夫だよ」
「四宮も良いよな?」
「あぁ」
こうして四人で花火大会に行くことが決まった。相変わらず四宮くんの反応が薄いのが気になる。
最近では以前と比べて更に私に対して冷たく当たっている気がする。
気のせいだと思い込むには少し厳しいくらいに。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
修学旅行編は今回で最後です。
(最後の方は修学旅行に全く関係ない内容でしたが……)
また次回も読んでいただけると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




