修学旅行 ガラス
〈陽夜目線〉
和菓子屋を出ると京都タワーに向かった―。
京都タワーに着き、入場料を払って展望室へと向かうと多くの観光客が見られた。
「すごい、思っていたよりも広いし綺麗」
外観の白とシンプルなデザインに相応しいといえるような清潔さだった。
「そうだね、時間帯もちょうど良かったのかな。夕日がとても綺麗」
「葵、せっかくだからもう少し窓の近くで見てみない?ここは高いけど大丈夫?」
清水寺では少し意地悪なことを言ってしまったので今回はきちんと確認をとる。
人が近づいていたことにも気がつかず、下に落ちそうになってしまったとは情けない。それに、私だけではなく葵にまで怪我をさせそうになってしまったなんて。
もし私が怪我をしたら葵のせいにもなってしまう。それは風邪をひいても同じだ。
前に文化祭の準備期間中に自分の不注意で風邪をひいてしまった。相変わらず葵はタオルやジャージなどを用意してくれていたが、気をつければ風邪をひかないでいれた時にひいてしまったので申し訳なかった。
もしかしたら水谷さんに何か言われてしまっただろうか。言われなくても葵が一番気にしてしまう。私が何を言っても逆効果になってしまうので言えないが、自分の不注意だから気にしないでと言いたい。
優しくて自然と他人を気遣える葵は頑張りすぎだ。休みもほとんど取らない。側にいないで欲しいという訳ではないが、もっと休んで欲しい。
きっと今も自分の気持ちよりも私のことを優先させようとしているのだろう。
「葵、無理はしなくて大丈夫だよ」
「大丈夫。私がもう少し窓の近くで見たいと思ったの」
「だったら良いけど……無理そうだったら言ってね」
「ありがとう」
井上くんと四宮くんは?と思い振り返ると既に居なくなっており、いつのまにか窓ガラスの少し手前にある手すりまで移動していた。
「村雨さん、四宮さん、こっちに来ない?二人が入るスペースくらいはあるよ」
二人がいるところは何故か人がおらず、ちょっとしたスペースが出来ていた。
きっと二人が整った顔立ちがそうさせたのだろうと思い周りを軽く見渡すと、主に女性が二人のいるところを見つめていた。
二人のところへ行きづらさを感じつつ呼ばれたからには歩き出す。
葵も大丈夫だったようですぐに真隣に来た。
「綺麗だね、陽夜」
「夕焼けがすごい綺麗」
写真に収めようと思い携帯のカメラ機能を開く。
携帯を顔の前に持っていったところで葵の方を向くと、遠くを見つめているのかぼーっとしていてどこか儚げだった。耳にかけた髪がふわっと広がり夕日で髪が透けて見え、とても綺麗だった。
周りの賑やかな音もあまり聞こえなくなり、静かな空間に『カシャ』と機械音が響いた。
「陽夜、写真を撮ったの?」
さっきまでの儚げな様子は無くなり、いつもの優しげな笑顔を向けてきた。
「そうだよ」
「見て良い?」
「もちろん」
そう言い葵の写真を見せる。
葵に見せる前にちらっと確認したが、珍しく良い出来だった。写真を撮るのがあまり上手ではないので、ここ最近の中でも上位に入るほどだった。
「綺麗に撮れているけど……私のことを撮っていたんだね」
「ごめん、嫌だった?」
「陽夜が撮ったのだったら大丈夫」
「ありがとう」
そう言い夕焼けが綺麗な景色も撮る。
ガラス越しだからかあまり上手には映らなかったが、それでも十分に綺麗だった。
何枚か写真を撮り終え、携帯をしまったところで井上くんが唐突に口を開いた。
「四宮さん。床がガラスで透けているのは大丈夫なの?」
見える範囲はガラスで広がっていた。ガイドブックにも書いてあったなと思いつつ下を見ると、透けていて下の様子がよく見えた。
葵は大丈夫かなと思い顔を上げると、混乱し少し足が震えていた。
「あお――」
葵、大丈夫?そう言おうとしたところで井上くんに止められてしまった。
どうしたのだろうと思い井上くんの顔を見ると『ふ・た・り・を・み・て』と声には出していないが口の動きで読み取れた。
言われた通りに二人を見るとちょうど四宮くんが葵に話しかけているところだった。
「四宮さん、大丈夫?」
「あまり良くないです」
相手を気遣いハッキリとだめと言わないあたりは葵らしいなと思いつつ顔を見ると、良さそうには見えない顔色をしていた。
「ごめんなさい、やっぱり無理」
四宮くんは、そう言いしゃがみこみそうになった葵の手をとり言った。
「俺だけを見て」
「えっと……」
「間違えた訳ではないけど、そういうことでは無くて。目を見てってこと」
公衆の場でイチャイチャするのかと思ったがそうではなかったらしい。
下ばかり見てしまっていた葵に的確なアドバイスだなと尊敬しつつ二人の様子を見守る。
「少しはマシになったかな。目をつぶっていて良いよ。でも手は握っててね」
葵は言われた通りに目をつぶり「ありがとう」と小さい声で言った。
ガラス張りになっていないところまで連れて行くのか人混みに紛れてだんだん見えなくなっていった。
手を繋いでいた二人の様子を思いだすとズキッと胸が痛む。
それが葵になのか四宮くんになのか分からない。
葵に対して胸が痛む理由は無い。それは四宮くんに対しても同じだ。
私が好きなのは四宮くんではなく、私の家で働いてくれている蒼井 駿くん。間違えるはずがない。
理由も分からず痛む胸に、ただ戸惑っていた。
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