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水族館編 電車

 

「お待たせしました」

「そんなに待っていないから大丈夫」

「四宮さんは優しいね」

 陽夜と切符を買い、戻ると口々にそう言われた。

 急に言われたが何のことだろうか。

「お年寄りの方を進んで助けられて本当に凄いと思う」

「そうなの、葵は優しいの」

「流石だね、葵さんは」

 本人の目の前でその話をするのはやめて欲しい。

「ありがとう、電車の時間があるからそろそろ並ばないとね」

「そうだけど……葵は話をそらすのが上手いよね」

「そうかな」

 別にそうは思わない。

 ただ、今の返事で話をそらしたことを認めたことになってしまったが。

 陽夜は誘導尋問のようなことが上手だと思う。仕返しでそう思ったのではなく心から思ったことだ。

 それはそれで問題がある気がするが……

 ちょうど電車が来たので乗り込む。

 最近、時差通勤をする人が増えてきたが今の時間でも人は十分に多いと言える。

 陽夜の隣には乗れなかったが、井上くんが近くにいるようだし大丈夫だろう。この位置からは陽夜のことを見ることが出来るのでひとまず安心だ。

 ちなみに四宮くんは私の近く()にいる。

 壁際に四宮くんがいて、ちょうど向かいに私がいる位置になっている。

 四宮くんがこちらを見てニコニコしているのは気のせいだろうか。

 微笑まれたからには返した方が良いのだろうか、そう思い四宮くんの方を見たところで身体に何かが触れた気がした。

 満員電車と言っても差し支えがない程混んでいるので、たまたま手があたってしまっただけだろう。

 そう思いたかったがそうもいかなかった。

 明らかにわざと触れてきている。

 段々触り方が大袈裟になってきた。隠すつもりもないということだろうか。

 叫ぶなり、手を掴むなり出来ないことではない。しかし、いざ声を出そうとしても出なかった。

 痴漢で泣き寝入りしてしまう人が多いのはこういうことだろうか。

 一度落ちついて考えてみる。

 手を掴むか声を出すか。手を掴み警察に受け渡す方が、他の人への二次被害が起きないだろう。

 しかし、手を掴み陽夜から意識がそれてしまった時に陽夜の身に何か起こってはどうしようもなくなってしまう。

 声を出すのも同じ理由でしない方が良いのだろうか。

 少し手を摘んであげれば陽夜から意識をそらさず対応出来るかもしれない。

 手を摘むと言ってもするなら思いきり力を入れるつもりだ。それこそ声をあげてしまうくらいには。

 コレが一番良いのかもしれないが、間違えて他の人の手を摘んでしまっては申し訳ない。しかしコレが一番確実かもしれない。

 案の一つとして四宮くんに助けを求めるというのもあったが、却下だ。迷惑をかけられない。

 盗撮はされていなければ良いなと思いつつ、痴漢をしてきている人の手を掴もうと手を伸ばした時、前から声が聞こえた。



「お兄さん、何してんの」

 いつもの爽やかな笑顔と声とは違い、低く威圧感のある声だった。

「無視すんなよ、この子を触ってたあなたのことですよ」

 そう言い私を四宮くんの身体に引き寄せた。

 片方の手は私の腰に回され、もう片方は痴漢をしてきたであろう真後ろにいた男の人の肩を掴んでいた。

「次の駅で降りてくれるかな」

「…………」

 あくまで男の人は無言を貫いていた。

 私はというと、四宮くんと身体が触れ合っているという事実を無視出来ずにいた。

 顔が赤くなっていなければ良いが。

「お兄さん、黙ってちゃ分からないよ」

「…………」

「お兄さん」

 その声を聞いてハッとした。

 四宮くんから少し離れ、後ろの人を見る。

 明らかに初犯ではなさそうだった。足下に鞄を置き、チャック少し開けていた。盗撮でもしていたのだろうか。

 たいして撮られていないだろうが、それでも嫌だなと思い男の人の方へ振り向く。

 そして男の人にだけ聞こえる声の大きさで言う。

 言い終わると男の人はコクコク頷いた。

 鞄から盗撮していたであろうカメラを取り出させ、SDカードを受け取る。

 軽く握ると壊れた。

 それを見て青い顔をしていたが、それくらいは許されるだろう。

 いくつかのパーツに分かれたSDカードを渡すと目に見えたようにガッカリしていた。軽く横目で見てあげると姿勢を正していた。

 その人が降りる駅に着いたようで焦って降りようとしたので最後に一言、声をかける。

「次に見かけたら、遠慮なく警察に突き出しますからね。示談なんかで済ませませんからね」

 少しドスの効いた声で言ってあげると急いで降りていった。

 名刺と電話番号も教えてもらったので次は逃げさせない。

「葵さん、良かったの?」

「次は無いけどね」

 他の被害者を出さないためにも本来なら警察に言うべきだろうが、私の中では陽夜の護衛の方が優先順位が高く感じた。

 あそこまで警告すれ(脅せ)ば、しばらくはやらないだろう。

 何と警告したのかは誰にも聞かせられなちが。

「葵さん、少し触れるね」

 四宮くんはそう言うと腰に触れ、身体を近づけ位置を入れ替えた。

 身体を近づけられたことで、顔が赤くなっていく。

「ごめん、壁側の方が良いかなって思って」

 こちらのことを考えてしてくれた行動らしい。せっかくの好意なので受け取っておく。

「ありがとう」

 そう伝えたところで、乗客の多い駅に止まり先程に比べて人口密度が高くなった。

「ごめん」

 人に押され、密着しそうになっている。

 しかし、四宮くんはわざわざ空間を取ってくれているようだった。

 四宮くんの手が私の顔の近くに当てられて……壁ドンと言われるような状態になっていた。

 身体付きが良く、男の人の身体だなと思い見ていると視線があってしまった。

 慌てて目をそらし、もう一度ちらっと四宮くんの方を見ると顔が赤くなっていた。

 自ら壁ドンするのは良いが、偶然してしまう状況になるのは照れるらしい。

 何が違うのだろうと思いつつ、その後は四宮くんのことをまともに見ることは出来なかった。



 駅に止まるごとに人が増え、距離が近くなっていく。

 吐いた息が当たるほど近くなったところで降りる駅に着いた。

 正直、助かった、と思いながら電車を降りた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

朝に投稿出来なかったのでこの時間になってしまいました。


今回は、電車内での回でした。

次回には水族館内での回に出来ると思います。

また次回も読んでいただけると光栄です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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