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視線

 

 同じ日の放課後、昨日は慌ただしくて出来なかった劇の練習をすることになった。

 四宮くんのいない一週間で四宮くんの関わらないところはある程度出来ていたので、今日は舞踏会のシーンの練習だ。

 ダンスは陽夜の練習相手などで男性パートも女性パートも踊れる。きっと四宮くんも運動神経が良いのですぐに踊れるようになるだろう。

 しかし問題はその他大勢の人たちだ。

 先週から練習をしているとはいえ動きがぎこちない人が多い。本番までには何とかスムーズに踊れるようになって欲しいものだ。

  「私と踊っていただけますでしょうか」

 いつのまにか劇の練習が始まっていた。私は記憶力の良い方なので他の人のセリフも含めて大体覚えたが四宮くんも覚えたのだろうか。

 今はそれよりも返事をして練習を始めなければならない。

「私で良ければ」



 結果から言えば四宮くんにダンスの心配は必要ないと言っても差し支えないほど完璧だった。

 私は普通とかけ離れた生活をしている自負があるが、普通の家庭では舞踏会で踊るダンスは踊れないと思うのだが……

 四宮くんはもしかするとどこかのご子息だったのだろうか。そうでもないと完璧にエスコートが出来ているという事実はとても信じられない。

 しかし、()()()()()()()という言葉で納得してしまう自分もいる。

 本当に四宮くんは、普段から王子と呼ばれるに相応しい人だと思う。イケメンで運動神経が良くて頭も良い。それに完璧に踊ることが出来る。天は二物を与えずという言葉を疑いたくなるような人だ。

 こんな人だからこそ、隣に立つ人も美女がお似合いだ。

 私が男性パートのダンスも完璧に踊れるようになるまで練習したので、陽夜も踊ることが出来る。

 だからこそ、私がシンデレラ役ではなく陽夜にやって欲しかった。魔女役では、王子と踊ることが出来ない。私は四宮くんと陽夜という美男美女が踊っているところを見たかった。

 今更何を言っても変わらないので、劇の練習を一生懸命にするだけだ。

「四宮さん、慣れも含めて実際のドレスを着て踊ってみない?」

 私は慣れているので必要ないが衣装の出来の確認も出来ると考えれば良いのかもしれない。本番や前日のリハーサルで動きづらいとなっても困るだけだ。

「そうだね、慣れは必要かもしれないね」

 動きのぎこちないその他大勢の役の人たちも一生懸命やろうと見て思ってくれれば更に良いのだが……



 あまり四宮くんや今回の監督役の人たちを待たせる訳にはいかないので少し急ぎめで着替える。勿論自分で作ったのでサイズはピッタリだ。

 自画自賛はあまりしないがこの衣装は割と良く出来たと思う。強いて言えば、本番までに時間があればもう少し刺繍が欲しい。衣装を見て考えるのはまた今度にして更衣室を出る。

 いくら劇の衣装だと言っても廊下を歩く時に大勢の人に見られるのは流石に恥ずかしい。通りすがりの人がみんなこっちを見ている気がしてならない。

 廊下で衣装の裾が汚れないよう気をつけて、出来るだけ急いで教室に戻る。



 教室のドアを開けると一斉に視線がこちらを向いた。

「「「………………」」」

 視線が集まり、その場にいられなくなってしまったため一度ドアを閉めた。

 きっとさっきのは気のせいだ。そう自分に言い聞かせてもう一度ドアを開ける。すると再び視線が集まった。

「「「………………」」」

 そんなに似合わないのかな。普段、必要なこと以外を話さない陰キャが着飾るなと、主役なんて似合わないということだろうか。

「そ、そんなに似合わないなら言ってくださいよ ……」

 そう言い教室に入り奥の方へと行く。

 その間もこちらに視線が多く向いていて、ぼーっとしている人が多かった。

 きっと内心「似合わない」とでも思われているのだろう。やっぱり美男の隣は美女でないといけないということだよね、そう思い少し落ち込んでいると教室のドアが開いた。

「四宮さんは……もう居るね」

 そこに現れたのは王子様だった。自画自賛はあまりしないというのはやっぱり嘘かもしれない。衣装を着たことによってより四宮くんの良さがより一層引き立てていて王子様としか言いようがない。

 しばらくは見ていたかった。みんなもそう思ったのだろう。誰一人としてピクリとも動かずじっと見つめていた。

 その空気を変えたのは四宮くんだった。

「四宮さん。とても似合っていて……綺麗だね」

「お世辞をありがとうございます」

 そう言い軽く裾をあげ礼をする。

 この方にはこうしなくてはいけない、そう本能的に感じた。

 四宮くんに集まっていた視線は私に話かけたことによってこちらに向いた。

「そろそろ、練習を始めようか」

「そう、ですね」

 クラスの人(ファンクラブの人)たちが四宮くんを見て直視出来ない、話しかけられても緊張すると言っていた意味がようやく分かった。

「あれ?四宮さんは上履きのまま?」

 言われて気がついたが上履きのままだった。

 四宮くんが小物班に確かめるとガラスの靴を持って私の近く来て跪いた。

 そして履かせようと差し出してきた。

 心臓に悪いので今は気軽に近づいて欲しくない。

「ありがとうございます」

 そう言って受け取る。するとあることに気がついた。

「これ……ヒールが高すぎませんか」

 ガラスの靴と言っても本当にガラスにしなくても良いのに本物のガラスだ。それにヒールがとても高いこの靴では歩くことも怖い。

「今回は多少のアレンジも有りなので深夜テンションで書いた脚本担当の指示です」

 小物班には責任はないと言う。それに小物班は予備を取り出してこちらを笑顔で見てきた。予備も全く同じものでヒールがとても高い。ここに予算をかけすぎではないだろうか。今から変更することも出来ないので履くしかない。

 幸い私はバランス感覚の良い方で訓練と称したもう少し高いヒールを水谷さんに履かせられたことがあるので何とかなるだろう。今更だが、何の訓練だったのだろう。それは今は置いておくとしよう。

 脚本に関しては魔女のセリフが思ったよりも短かったのでシンデレラ役が陽夜でも良かったのではと思ったのは秘密だ。脚本担当の人も頑張ってくれているのはわかるので、深夜テンションと言われては「遅くまでお疲れ様」としか言いようがない。

 上履きから履き変え立ってみる。慣れないので少しふらつくが歩くことは出来た。踊るも何とかなるだろう。

 すると小物班から声が聞こえてきた。

「あれってあんなすぐ履けるものなの?」

「無理だね、立ち上がるのも普通は時間がかかると思うけど」

 聞かなかったことにして一回、回ってみた。思っていたよりも踊れそうだ。

「四宮さん、本番も髪は下ろすの?似合っているから良いと思うけど」

 そういえばと思い髪を手で触る。

 シンデレラといえば髪はあげているイメージの方が強いので本番はあげるつもりだ。ガラスの靴も履いて練習するならいっそのこと髪もあげた方が良いだろう。

「本番はあげるつもりだけど、しばると時間がかかってしまうと思うから今日はこのままでいいかな」

 普段おろしているので慣れない作業は少し時間がかかるだろう。

 陽夜の髪を直せるよう練習はしたので、人にするのは自信があるが、自分のは人並みにしか出来ない。

「せっかくなら結んだら?待ってるから」

「そう言ってくれるなら」

 鞄から鏡とくし、ゴムを出す。お団子にし、三つ編みをしたりとアレンジを少しする。

 これでも一応主役なのでシンプル過ぎない髪型にして鏡とくしを鞄にしまう。

「すみません、お待たせしました」

「大丈夫だよ、おろしているのも可愛いと思うけどしばるのも可愛いね」

 四宮くんはそう言うとティアラを頭に付けてくれた。

「ありがとうございます、お世辞は大丈夫です」

「お世辞じゃないんだけどな」

「本当に口が上手ですね」

 思わずそう言って笑い、顔をあげると四宮くんと目があった。どうしたのだろうと思い首をかしげると今度は目をそらされてしまった。

「じゃあ練習を始めようか」


 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回は四宮 葵 (女)目線からでしたが、次回は四宮 葵(男)目線の予定です。

これからもクラスメイト(もう出てこなかったらすみません。多分出てくるとは思います)との関係や陽夜や葵くんとの関係を見守っていただければ幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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