衣装合わせ
──そのまま一週間が過ぎた
蒼井さんは旦那様との出張から戻ってきた。学校ではメイドカフェの衣装や料理決定、劇の練習などとにかく忙しい一週間だった。
残念ながら四宮くんは一週間学校を休んでいたため劇の練習が思うように進まなかったので本番までに間に合うか少し心配だ。
その日の放課後、劇の衣装を作る為に机を動かしていると、陽夜が話しかけてきた。
「四宮くん、やっと来ることができたみたいだね。体調不良じゃないから大丈夫だと思ってはいたけど……」
「ファンクラブの人達も落ち着いたみたいだしね」
ファンクラブの人達は落ち着いたが、四宮くんへの視線はいつも以上のため四宮くん自身は落ち着かないだろう。
「そういえば四宮くんの衣装のサイズ合わせってしなくて良いの?」
忘れていた。四宮くん以外の名前のある登場人物の人達のサイズ合わせは、四宮くんの居ない間に終わらせてはいたのだが、四宮くんのサイズ合わせはしていなかった。
「陽夜、教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。でも忘れないであげてね、葵の作った衣装ぴったりだったからすぐに終わると思うけど」
陽夜が褒めてくれるのは嬉しい。ただサイズがぴったりなのは寝る間を惜しんで調整をしたからだ。何日か眠らなくても大丈夫なように訓練したとはいえ、流石にこの一週間は忙しかった。
学校に来る前に衣装作り、学校でも衣装作りと劇の練習。帰ってからは仕事と衣装作り。
おかげで最後の方には刺繍の一つや二つを簡単に縫えるようになった。
「ありがとう」
そう言い念のためどのくらいかかるか分からないので机を戻し裁縫道具と荷物を持って四宮くんのところに行く。ファンクラブの人達の視線で話しかけづらい。
「四宮さん、どうしたの?」
話しかける前に先に声をかけてくれた。コミュニケーション能力の高い人はやっぱり違うのかな。
「衣装のサイズ合わせをしたいから着いて来てもらえますか?」
「大丈夫だよ」
相変わらずの爽やかな笑顔。何人の女子生徒を虜にしているんだろう……数えるときりがない気がするのでやめておく。
サイズ合わせは隣の教室の学習室でしている。声は聞こえるがこちらの方が静かなので細かな調整がしやすい。
「体育着の上からで良いので衣装に着替えて下さい?」
そう言い衣装を渡すとまた爽やかな笑顔で頷かれた。
今更だが、この係は私で良かったのかもしれない。とても忙しいが他の人だと四宮くん笑顔に当てられて、仕事にならならないということが起きそうな気がする。
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〈四宮 葵 (男)目線〉
学校を休んで久しぶりに来れたと思ったら四宮さん……葵さんと話すことが出来た。明らかに仕事の内容だが葵さんから話しかけてくれたのは嬉しい。
「四宮くん、入っても良いですか?」
「着替え終わったから大丈夫だよ」
そう言うとドアを開け入ってきた。やっぱりドアを閉めるときや歩いているときなど、どこを取っても動きが綺麗だ。
「サイズの方は大丈夫そうですか?」
「大丈夫そうだよ」
「じゃあ少ししゃがんだり、手を曲げたり伸ばしたりしてみて下さい」
言われた通りに動かすと葵さんは近づき肩や腕に触れた。
少し近い気がするが真剣な姿はカッコよく、とても可愛い。
「そんなに見ないでください、やりづらいです……ボタンが取れそうなところがあったので脱いでもらえますか?」
少し照れている姿もやっぱり可愛い。
今更だが、自分で思っているより葵さんに惚れているみたいだ。さっきから葵さんのことばかり考えている気がする。
「上着だけで大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、刺繍はもう少し増やしておくよ。他にどこか直して欲しいところはある?」
「大丈夫だよ」
そう言い衣装を渡すと、とても手際よく直していった。
「すごい早くて綺麗だね。もしかして衣装全部作ってくれたの?」
「自分でやった方が早いかなって思って……」
「ありがとう、 今更かもしれないけど何か手伝えることとかあったら言ってね」
「手伝うというか相談なんだけど……四宮くん執事じゃなくてメイドで出ませんか?」
メイド?「メイドカフェ」のことだよね。確か女子はメイド、男子は執事に決まっていた気がするけど。
「メイドカフェでってことだよね?」
「身長が高くて顔立ちも綺麗なのでモデルさんみたいになると思うんですけど……」
正直、葵さんのことなら良いと言ってしまいたいが流石に執事の方が良いかな。コスプレイヤーとしての血が騒ぐということかな。
葵さんのコスプレ姿、可愛かったな。
「ごめんね、遠慮しておくよ」
そう言うと明らかに落ち込み、そうだよね、と呟いた。
「もしかしてクラスの人がそう言っていたの?」
そう聞くと頷いた。
クラスの人達の悪ふざけが行きすぎた結果だろう。葵さんが何か言われることはないと思うが。
「でも女装はしてもらわないとなんだよね」
「えっ?」
説明によると実行委員会で美男美女コンテストが行われることになり実行委員は全員参加らしい。
しかもただのコンテストだと面白くないからと女装、男装をして出ることになったという。
更にそれを聞いたクラスの人達が、どうせならメイドカフェでも女装をしたら、という流れで女装が出てきたらしい。
実行委員会の方々、今年の文化祭に力を入れすぎではないでしょうか……
「だから私に四宮くんを女性にさせてください」
女性……あなたを女にします的な流れかな?
「レイヤーとして優勝させます」
「でも葵さんも出るんだよね?」
「誰が聞いてるか分からないので四宮でお願いします。私も陽夜もでますよ」
今から無くすことは出来ないし、葵さんと関わる機会が増えるのは嬉しいからお願いしても良いかもしれない。
「四宮さんが良ければお願いしよかな」
「責任を持って四宮くんを美女にします」
そう言う葵さんは今までになく輝いていて綺麗だった。
ちょうど夕日が当たり綺麗……なのが物語や小説だろうな。残念ながら現実は雨。激しくならないうちに帰らないとかな。
すると窓へ視線を向けているのに気づいたのか葵さんも窓の方を向いた。
「すごい雨だね」
それに答えるためにそうだねと言おうとした瞬間、ドアが開いた。
「四宮さん、タオル持ってない?陽夜ちゃんが」
クラスの女子がそう言うと葵さんはすぐに近寄りタオルを用意し始めた。
「陽夜がどうしたの?怪我?病気?」
「怪我というわけじゃなくて、とりあえず着いてきて」
そう言い、いつのまにか一人になっていた。
少しの間、ボーっとしてしまっていたが、自分も様子を見に行った方が良いのではと思い二人を追いかけた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は久しぶりに四宮 葵(男)目線 入りの回となりました。
次回は二日後くらいになると思われます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。