大阪梅地下編
今の時代なら、極めた武術だって映像で残す事が出来る。
だからって安心してはいないだろうか?
例えばすでに失われたものがある。
「決闘」
剣であれ銃であれ、殺しあうタイマンだ。
どっちが強いかを決める。
ただそれだけのために、
毎回命を懸けるような侍やガンマンが今の時代に居るか?
剣道を残しても、そんな度胸は残らない。
負けたら死ぬ戦いに挑めなくなった人類は退化しているのかも知れない。
大阪梅田の地下街は迷路のように入り組んでいた。
複数人の警備員失踪事件が起きているが、警察は失踪者を発見できていない。
事件は未解決のまま、公表もされないままだった。そんなある夜、、、
犬神真人はやけに時給が高い警備員募集につられて、
地下鉄梅田駅の夜間警備員となった。
実家の剣術道場で修行に明け暮れ、荒事には自信がある。
失踪事件の事を人事担当者から聞いたが、逆に少しワクワクしていた。
ニューヨークにばかり人間離れした人物が多数現れて数年経ち、
自分の剣術も無駄にはならない時代になったかもと思っていたのだ。
今日の夜は警察官が多数うろつく、前回の失踪事件から49日目の夜であった。
49日周期で失踪する警備員たちはどこへ行ったのだろうか。
犬神真人は今日の日に備えて小太刀を懐に忍ばせている。
警察官たちはお互いを確認できる距離で配備されている。
犬神真人はトイレで用を足した後、懐の小太刀を鏡をみながら隠せているか確認した。
日本では銃も刃物も所持規制されている。
相手によっては警棒のみで対処せねばならない、、、
「だあ」
トイレの個室から赤ちゃんの声が聞こえた気がして、犬神は個室を確認した。
赤ちゃん連れの保護者用トイレ、その赤ちゃん席にかわいい赤ちゃんが座っている。
赤ちゃんは白い産着を着ていた。
犬神は異常な事態に少し動揺したが、まずは赤ちゃんを左腕で抱いてトイレを出る事にした。
もう一度小太刀を確認しようと鏡を見ると自分の後ろに、、、河童が居た。
赤ちゃんは左腕で抱いていたので小太刀を右手で持ち、振り返る。