シャンプーに負け続ける話
ちなみに、コスメジプシーでもある。
ああ、また今回もだめだった――
K氏はため息をついて、2本のボトルを洗面台の下に押し込んだ。
その薄暗い収納スペースにところせましと並んでいるのは、シャンプー、シャンプー、シャンプー、トリートメント、トリートメント、シャンプー……。過去に試してはみたものの、なんらかの理由で肌に合わなかったシャンプーたちである。
経済的な理由もあり、K氏が己に購入を許しているのは月に一種類まで。もし新たに買ったそれが合わなかったら、今まで試したなかから比較的ましだったものでとりあえずお茶を濁す――今のところ、ハ○ーチェかミ○ンあたりがそれなりに問題なく使えているが、いつ決定的にだめになるかわからない。
K氏は、いつだったか、K氏のパパンが言っていた言葉を思い出す。
――いわく、二十歳から二十五歳くらいの間、それから十年ごとくらいに、なんとなく体質が変わるんだよ、と。
それはたしか、昔から病気がちで体調を崩すとなにも食べられなくなっていたK氏が、大学生になって近頃は熱を出しても普通の食事が食べられるようになったことを喜んでのことだったか。
二回目にそれを聞いたのは、たしか、大学を卒業したK氏が、なんだか最近シャンプーや化粧水が合わなくてよくかぶれるんだとパパンに話したときだったか。
それまではテレビCMで宣伝されていて、どこのスーパーでも手に入るような大手メーカーのシャンプーで全然平気だったのに、なんだかベタつく、かゆみ、湿疹が出る、かさつく、シャンプー中にピリッとくる、髪の抜けかたが激しい……
とにかく、そこら辺の“普通の”シャンプーは全滅したのだった。
例:
・世界が嫉妬する髪にはなれなかった。
・カワイイは、作れなかった。
・K氏の髪には揺るぎない輝きは訪れなかった。
・K氏の髪は、夏バテした。
・本気にこたえなかった、14日間。
・時代は髪から変わ……れなかった。
・シャンプー革命、起こらず。
・日本の女性は、美しい(ただしK氏を除く)。
次に、K氏はドラッグストアなどで手に入るちょっとお高めの、髪、地肌に優しいと銘打ったシャンプーたちに手を出した。
おりしもその頃、6秒に1本売れているノンシリコンなシャンプー(のちに1.5秒に1本になったとか……)が爆発的なヒットを飛ばし、猫も杓子もノンシリコン時代が訪れようとしていた。
ならば、どれかひとつくらいはきっとK氏にも優しいシャンプーがあるに違いないと、うきうきしながらK氏は風呂にのぞんだのである。
そしてK氏は知ることとなった。アミノ酸だから、植物由来だから、ハーバルなエキスが入っているからといって、全く問題がないというわけではないのだということを。
まず、K氏には柑橘系の成分が刺激になるということを知った。
ティートリー、ラベンダーといった、殺菌、抗菌作用に優れた精油はK氏には強すぎるということが判明した。
キウイ、パパイヤ、イチジクといった酵素がどうのこうのする系も以下略。
あと、よくわからないけど肌に合わない。
こうして、今日もK氏は己にぴったりなシャンプーを求めてドラッグストアをさ迷うのであった。
ちなみに、負けシャンプー(と、K氏は呼んでいる)たちはK氏の家族に使ってもらっているが、増えるスピードに対して消費するスピードが圧倒的に釣り合っていない。
夫は、いい加減にあきらめて牛乳○鹸でも使えよと呆れきった目でK氏を見る。
娘は、はいはい、母さんまたシャンプーに負けたのね、ちゃんとわたしが使ってあげるよといたわってくれる(その憐れみの目が胸に突き刺さる……!)。
K氏は、いつかスカ○プDとコ○ージュフルフルに負けたら、全面的敗北を認めて皮膚科に行こうと考えている――。
本文中のキャッチコピーからシャンプーの銘柄を当ててみよう!