第8話:旅立ちの時
「…さん、朝ですよー、起きてくださーい。」
「んん。」
なんだかこえがきこえるきがする。
「リンタローさん、朝ですよー。」
今度は体を揺らされる。
まだあさならねかしといてくれよ。
そう思いながら嫌々目を開けると、そこには片手で髪を掻き上げ耳へと流しながら、前屈みで僕の顔を覗き込む美少女がいた。
一瞬頭がフリーズし、それから再起動したかのように、異世界に来て泊めてもらったことを思い出す。
そしてこの状況。
起こしに来てくれたデイジーになんと言えばいいのだろうか?
起こしに来てくれてありがとう?
お手数おかけしました?
取り敢えずすいませんとでも言っておくか?
経験がないから分からない。
「もうすぐ朝ごはんなので支度ができたらリビングに来てくださいね。」
そんな下らないことで悩んでいる内に彼女は客間を出ていき、結局僕は何も言えなかった。
ベッドから起き上がり、支度をしていく。
服装は変わっていない。
ジーンズにTシャツといったカジュアルな服装を隠すように脱いでいたローブを纏う。
荷物は財布だけだ。
もう財布の中のお金には価値がないから実質、何も持っていないのと一緒なのだが、それでも元の世界との繋がりを捨てたくなくて、大事にポケットにしまっている。
この世界に飛ばされた時、僕は財布しか持っていなかった。
普段からスマホと財布しか持ち歩いていないのだが、信者と居る時に着信音が鳴ると威厳がないという理由でスマホは御付きに預けてあったのだ。
支度を終え、客間から出ていく。
顔を洗いたいが、洗面所がどこか分からない。
取り敢えず外に出て、水の玉を出して適当に洗顔をして寝癖を整える。
「水の魔法って便利ですね…」
その様子を見ていたデイジー。
呆気に取られた顔でこちらを見ている。
「うん、僕もそう思う。」
どこか遠くを見つめながら、僕はそう呟いた。
リビングに行き朝食を摂った後、カルロさんから大きな蕾の入った桶を渡された。
昨日、精霊が捕らわれていた蕾だ。
「俺は植物には詳しくねぇんだが、あの森に生えてる数が少ないやつは大体貴重だ。そいつは森の境で作業してても見たことがねぇやつだからきっと高く買い取ってもらえると思う。昨日、リンタローが見つけたやつだ。もってけ。」
「なにからなにまで…本当にありがとうございます。」
「あぁ本当はそれ売ってから代金を渡そうと思ったんだが、この村では買い取れないって言われてな。だからカクノ街で売ってくれ。それと馬車の代金1000ゴールドだ。」
カルロさんはそう言って数枚の硬貨を渡してきた。
「いいんですか?」
「いずれ戻ってくるんだろ?貸しといてやるから返しにこい。」
「はい、必ず。必ず返しに来ます!」
また僕に目的が増えた。
それからカルロさんとサラさんに別れを告げて、馬車の待合所までデイジーに案内をしてもらった。
待合所にはすでに馬車が来ていた。
他に乗客はいないようで、僕は桶を他の席に置いてから馬車に乗り込み、桶を手元に引き寄せ抱える。
そして別れを告げようとデイジーの方へと振り向くと、彼女は隣に座ろうとしていた。




