第11話:化粧水だと思う
「ろーしょん、って何なんですか?」
僕は無垢な少女から発せられたその問いに、一瞬硬直してしまった。
きっとこの世界にローションはないのだろう。
僕は必死にローションについての記憶を探った。
「…化粧水のことだったと思うよ。」
確か広義の意味では化粧水を含んでいたはずだ。
それに“成分配合”とやらは化粧水を作れと言っているに違いない!
「化粧…水?」
「僕もあまり分からないんだけどね。」
化粧水もないのか…
なら一稼ぎできるのでは?
そんな考えが頭を過った。
「それは…役に立ちそうなんですか?」
彼女は、僕の行く末を心配してくれているのだろう、そんなことを聞いてきた。
「うん。精霊様を助けたのもこの力みたいだし、きっと役に立つと思うよ。」
欲を言えば一生遊んで暮らせるというポーションの方が良かったのだが。
それでも、おそらく≪意志疎通≫で声を聞き“粘性操作”で精霊を助けて、魔法が使えるという貴重な体験ができている訳だし、女神様には感謝しなければいけないだろう。
たとえ心の底では、異世界に飛ばされさえしなければ、平穏に暮らせていたのに、という不満を持っていたとしてもだ。
あれは人間が相手をできる存在ではないのだから。
そしてふと気付く。
予想していたように、もう一つの≪スキル≫が言葉に関するものであったがために、精霊に会えたのは≪意志疎通≫のおかげであり、精霊から好かれている訳ではないことに…。
「そんなにすごい≪スキル≫だったんですね!」
「…あぁ、そうだね…。」
僕はこの目を輝かせる少女に真実を伝えることはできるのだろうか…。
いや、伝えなければいけないことは分かっている。
だが怖いのだ。
この世界で初めてできた、人との繋がりが失われるかもしれないことが。
「じゃあ次はその植物を売りにいきましょう。案内しますね。」
そして僕は言えなかった。
結局のところ、繋がりだの何だの言っているくせに、彼女のことを信頼できていなかったのかもしれない。
通りを進んでいく彼女の後ろ姿を眺めながら、そんなことを考えている自分に嫌気が差す。
デイジーが帰る馬車は明日だから、まだ時間はある。
それまでにはきちんと話そう。
僕はそう決意してデイジーの方へ一歩を踏み出した。
彼女の姿は既に小さくなっていて、僕が付いてきていないことに気付いたのであろう、こちらを振り返り手を振っていた。
桶を抱えながら小走りで彼女の元へ向かった。
案内されたのは冒険者ギルドと呼ばれる建物だった。
「ここか、もしくは薬師ギルドで買い取ってもらえると思います。」
そう言う彼女の様子は優れない。
どうやら先程から出てくるような体格のいい男に怯えているように見えた。
「じゃあ、ちょっと行ってくるから近くで待っててくれないか?」
「えっ?付いてかなくていいんですか?」
「絡まれるかもしれないからね。待ってていいよ。」
よく異世界転移ものの小説では、子供だと冒険者に絡まれていた。
なので彼女を連れていくと絡まれるかもしれないのだ。
まぁそんな小説のテンプレみたいにはならないだろうが。
そんなことを考えながら僕は冒険者ギルドの扉へと手を掛けた。




