表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/38

腹が減る

翌日、コンビニの床で夜を明かした8人は腰痛にさいなまれた。

「くーっ、俺、こんな固い床で寝たのって初めてだよ。」

8人は初め外で座っていたのだが虫が纏わり付くのに我慢できず中に入ったのだ。

「なんで虫は俺たちを無視しないんだよ?あれ?今俺面白いこと言ったんじゃね?」

「翔ちゃんナイス!朝から全開だね!」

「俺は腹減ったなぁ。なんでここの弁当は俺たちは食べられないんだ?」

実は昨日、空腹に耐えられずコンビニの弁当を食べようとしたのだ。だが弁当は手に取ることも出来たし封を破ることも出来たが口に入れた途端消えてしまった。いや消えたというより元に戻ったと言うべきか。封を破ったはずの弁当が元あった場所に現れていたのだ。

「おトイレの水は流れたのよねぇ。手洗いの水も飲めたのになにが違うのかしら。」

一晩寝て落ち着いたのか何時もの調子で桃子が喋る。

「俺の・・、俺のコンビニ食べ放題計画が!」

ぱこん。

竜馬が優子に突っ込みの拳骨を入れられる。

「ちょっと、ウチのコンビニでそんなことしたら先生に言いつけるわよ!」

そう、優子の父親はこの界隈に数件あるコンビニのオーナーだった。この店も店長は違うが優子の父親が経営している。

「いや、ちょっと言ってみただけじゃん。しないよ、そんなこと。いやでも優子と結婚したらできちゃうか?」

ぱこん。

竜馬のおふざけに優子以外のみんなが笑った。


「さて、ここにいても食べ物は手に入らないと分かった。どうする?やっぱり学校に行くか?」

武士が現実的な問いかけをする。

「学校は多分偽者が行っている。僕はあいつらと顔を合わせるのは嫌だな。」

「そうね、この現象を探るのも大切だけどそれよりも緊急なことが生じちゃったものね。まずは食べ物探しをしないと。」

「いや、だから食べれないんだって。弁当もお菓子もジュースも全部!」

「家のご飯はどうかしら?誰か試した人いる?」

桃子の問いかけに誰も答えない。

「それどころじゃなかったからなぁ。」

「もしかしたらお弁当はお金を払わないから食べれないのかもしれない。」

「え~っ、だって店員が受け取らないんだぜ?というか無視すんじゃん。俺、ちゃんと払ったんだぜ?」

翔太が昨日のことを言う。翔太は一途の望みをかけて店員の前に弁当とお金を出したのだ。しかし、店員はそれを無視する。仕方なく弁当だけ持って外で食べようとしたが、口に入れた途端弁当は掻き消えたのだった。

「うん、だからおウチのご飯なら母さんが私の為に作ってくれたものなんだから食べれる気がするの。」

「成る程、一理あるかもな。まぁ、座して待つより論より証拠だ。試してみよう。」

「タカジー、お前その難しいこと言うの何とかならないの?俺、ついていけないんだけど。」

「そうか?ウチの弟は普通に理解しているぞ?」

「げっ!2年生より馬鹿って言われた気がするよ。」

「大丈夫だよ翔ちゃん!翔ちゃん英語喋れるじゃん!」

「アポ ア ペン?」

「グー!今や世界共通語だからね。」

「んーっ、褒められた気がしない。」

「あなたたち、お腹が空いてるのによく掛け合い漫才ができるわね?」

「いや、お嬢。笑いは世界を平和に出来るんだ。だから腹が減っても誤魔化せるのさ。」

「それって問題のすり替えよ。現実を見なさい。」

「ううっ、お嬢まで難しいことを言い始めたよ。降参です。」

「ここから一番近いのは竜馬の家か・・。どうする?試してみるか?」

竜馬は少し考え始める。

「そうだね、こんな時はなんでも試さなきゃ。でも偽者とは顔を合わせたくないな。」

「よし、なら竜馬の家の近くで偽者が学校に行くのを見計らってからごちそうになりに行こう!竜馬、お前んちって朝はなに?コロッケ?焼肉?いやこの際だからフリカケでもいいや!」

「翔ちゃん食べる気満々だね。まだ食べれると決まったわけじゃないよ?」

「バーロー!こうゆう時は常にプラス思考だ。今日の竜馬んちの朝ごはんはカレーに決定だ!」

翔太のカラ元気に釣られてみんなが笑う。確かにシリアスに悩んでいるよりは笑った方が何万倍も気が晴れるとみんなは思った。


程なく、竜馬の偽者が学校に行った。それを影から見送って竜馬たちは家の前に立つ。

「取り敢えず竜馬、あなたひとりで試してきなさい。」

「えっ、みんな来ないの?」

「やーよ、食べれるかどうかも分からない人んちのご飯にどかどか乗り込むなんて。」

「そう?じゃあ行ってくるね。」

「竜馬!全部食うんじゃないぞ!ちゃんと残しとけよ!」

「翔太、やっぱりあんた馬鹿だわ。竜馬が食べれたのならあんたのウチのご飯だって食べられるはずよ?」

「あっ、そうか。よし竜馬、絶対食って来い!例え食べられなくても根性で食え!」

翔太の激励を背に竜馬は家の中に入っていった。


待つこと十数分。中々竜馬が戻ってこない。

「これってかなり脈ありなんじゃね?」

「そっ、そうね。食べられなければすぐに戻ってくるはずだものね。」

優子の声も期待に膨らんでいる。みんな食べられるかもしれない期待にお腹がグーグー鳴り始める。

その時、二階の竜馬の部屋の窓がいきなり開き竜馬が体を乗り出して叫ぶ。

「翔ちゃん、これ食べれるよ!」

竜馬は手にお菓子の袋を持っている。そして口にはそのお菓子をもぐもぐ頬張っていた。

「竜馬!飯は?飯は食えたのか!?」

「ごっ、ご飯は駄目だった!でもこのお菓子は食べれるよ。後、2つあるからみんなで食べよう!」

竜馬の言葉はみんなを落胆させた。家のご飯は食べることは出来ないのか。だがなんでお菓子は食べられたんだ?みんなの頭には新たな疑問が渦巻く。そんな中、竜馬がお菓子の袋を持って家から出てきた。

「これ、これは食べれるよ。みんなで食べよう!」

竜馬の手にはポテトとチョコスナックの袋が握られている。

「いいのか?お前のだろう?」

「何言ってるのさ。ほらおいしいよ。未来はポテトとチョコどっちがいい?あっ、少しづつ二つ食べるか?」

竜馬は独占欲がないのだろうか。せっかく見つけたお菓子を躊躇なくみんなに差し出した。


はっきり言ってしまえば8人でお菓子の袋3つでは腹の足しにもならなかったが20時間ぶりの食べ物である。みなおいしいと路上で口に頬張った。桃子たち女の子は普段絶対にしない行為だ。だがどうせ誰も見ていない。時折通行人が通るがてんで無視である。気恥ずかしさはあるが向こうが無視するならこちらも無視である。8人はあっという間にお菓子を食べてしまった。

「そう言えばご飯は食べれなかったのよね?」

桃子が竜馬に聞く。

「うん、ぺろ。駄目だった、ぺろぺろ。」

竜馬がボテトの袋に残った油を舐めながら答える。

「このお菓子はどうしたの?」

「俺の隠し食料。お小遣いで買ってストックして置いたやつ。」

竜馬が味のしなくなった袋を恨めしそうに見ながら答える。

「成る程、これは桃子の推理が当たったかもな。竜馬、家にあるお菓子は試したか?」

「うん、居間にあった煎餅は駄目だった。で偽者に食べられるのが癪だったから部屋のお菓子も試したんだ。そしたら食べられるじゃん!やったね!偽者の驚く顔が目に浮かぶぜ!」

「これは少し希望が持てるな。幽霊化以前に自分で買った物は食べれるのかもしれない。といっても僕はジュースが1本冷蔵庫にあるだけだな。これはちょっと失敗か。」

「わっ、わたし、お菓子もってる!部屋にあるの!」

未来が興奮気味に喋った。

「私は無いなぁ。貰い物のクッキーは部屋にあるんだけど。大地は?」

「いや、すまん。この前食べちまった。今はないな。」

「僕の部屋にあるのも母さんが買っておいたやつだから無理かもしれない。」

みなそれぞれに自分の部屋にあるお菓子を思い出そうとしている。結果、未来と桃子が自分で買ったお菓子を持っていた。尊氏は飲み物だ。優子のお菓子は自分で買ったわけではないのでグレーである。

しかし、これでひとつルールが分かった。自分に所有権があるものは食べられるのだ。しかも仲間内なら分けられるのも分かった。これは前進である。8人は取り敢えず全員の家を回り一通り試してみることにした。家のご飯が駄目でも未来と桃子のお菓子はほぼ手に入れられるはずだ。希望を持って8人は歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ