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絶望はみんなで乗り越える

一番最初にコンビニに戻ったのは武士であった。その顔色は沈んでいる。

暫くすると桃子と未来がやってきた。やはり二人とも落ち込んだ様子だ。未来は声を堪えながら泣いている。


「駄目だったかい?」

武士が桃子に聞く。桃子は頷いただけで返事をしない。口に出すのも嫌だったのだろう。声に出すとあの光景が本当のことになりそうで怖かったのかもしれない。

「僕もだ。予想していたこととはいえきついな。」

「・・。」

家族に認識してもらえない。自分を気付いて貰えない。昨日までは考えもしなかったことだ。大人でさえ狼狽するであろう。ましてや桃子たちは小学生である。自分の足で戻ってこれたのが不思議なくらいだ。それだけ仲間が必要だったのだろう。自分は一人ではない、あそこに行けば仲間がいる。その気持ちだけで歩いてきたのだろう。その意味では武士が一番最初に戻っていたのは幸いだった。仲間が誰もいないコンビニを見たら、未来の手前強がっていた桃子も泣き崩れてしまったかもしれない。


暫くすると尊氏と翔太も来た。二人とも顔が真っ青である。

二人とも同じだったらしい。尊氏はショックのあまり家の前で泣いていた所を翔太に声をかけられた。暫くお互いの事を話してから気を取り直して二人で戻って来たとのことだ。


30分後、優子が泣きながら歩いてくるのが見えた。尊氏が駆け寄って慰める。何時もならそんな場面を目にしたら翔太がからかう筈だが、今は下を向いてうな垂れているだけだ。


竜馬も来た。呆然としている。足取りも些か危なっかしい。それでもみんなを見つけると駆け寄ってきた。途中で一回転んだが・・。

戻ってきた者に武士が状況を聞いたが、みな同じだった。偽者がいていつも通りの夜を過ごしていた。そして家族は自分を認識してくれない。

「なんなんだ!あの偽者は!」

尊氏が誰に言うともなく言葉を吐き捨てる。

「偽者なんだろうな。触れないから分からんがよくできている。もしかしたら本物なのかもしれない。」

武士がみなが薄々感じていながら口に出せないでいた思いを代表して言葉にする。

「あいつ、一瞬だけ俺と目が合ったんだ!そして笑いやがった!あいつには俺が見えているんだ!・・ちくしょう!」

「お前もか・・。俺も目が合ったよ。確かに笑っていやがった。一瞬だけどな。」

武士が桃子たちに目をやると、三人もこくんと頷いた。

「まいったな・・。唯でさえ普通じゃないのに偽者まで用意するとは。さすがは悪霊、手抜かりなしと言ったところか。」

いつもはどんと構えて頼もしい武士だったが、今回ばかりはお手上げだった。


その後、暫く待つが大地が戻ってこない。

「そう言えば大地は?」

優子が大地がいない事に気付いた。

「まだだ。」

優子の問い掛けに尊氏が答えた。そして翔太が理由を口にする。

「あいつ、ママっ子だからな。ショックでかかったんだろう。」

「迎えに行くか?」

「そうだな、交通事故には遭わないとはいえ、飛び降りでもされたら死んじまうかもしれないしな。」

翔太の言葉に女の子たちの肩が震えた。

「あっ、うそうそ。冗談だよ。あいつが母ちゃん残して死ぬもんか。多分、ママの布団に潜り込んでベソかいているだけさ。」

不用意な言葉で女の子たちを怖がらせてしまったのに気付いた翔太が躍起になって火消しに走る。

「どうする?すれ違いに備えて一人だけ残るか?」

「集合場所はここって決めてあるんだから誰もいなけりゃ待っているだろう。みんなで行こうぜ。というか一人は嫌だよ。」

竜馬の言葉にみんなが頷いた。こうなっては出来れば一人ではいたくない。満場一致で大地を迎えに行くことになった。


ほどなく大地の家に着く。

「鍵が掛かっているよ。どうすんべ。」

翔太が玄関の扉をガチャガチャしながらみんなに聞いた。

「どこか小窓が開いてないかな?俺ん家は夏だと風を入れるのに高い所は網戸だけにしているんだけど。」

「よし、一回りするか。でも明かりがなぁ~。」

その時、尊氏が携帯を差し出す。

「なんだ、携帯持ってこれたんかい。」

「いや、今日の野外授業はリーダーだけ持っていいことになっていたんだ。」

「ああっ、緊急用ね。うん、まさに今が緊急だ。先生、千年の明があるじゃん!」「翔太、今のは素じゃないわよね?」

「えっ、なに?」

「いえ、なんでもないわ。」

優子が呆れた様子で言葉を濁した。


程なく裏の勝手口の鍵がかかっていない事を発見する。そして武士がみんなに提案した。

「ここは大人数で押しかけてもしょうがないと思うんだ。三人くらいでいった方が大地も出て気やすいんじゃないかな。」

「おっ、さすがは武士、男心が分かっているねぇ。そんじゃ俺と・・、竜馬と優子で行くか。」

優子は一拍置いて翔太の提案に頷く。竜馬は嫌そうだったが優子の一睨みで無理やり頷かされた。

「じゃあ、僕らはここで待っているよ。何かあったら大声で呼んでくれ。」

「ほいほい、そんじゃ行くべぇよ。」

翔太はずかずかと土足で大地の家に入っていこうとする。

「ちょっと、靴ぐらい脱ぎなさいよ。後、大きな音を出したら家の人に見つかるじゃない!」

優子が翔太に注意する。

「ゆうこ~。見つかるわけないじゃん。逆に見つけてほしいくらいなんだぜ?俺たちは。」

「あっ、・・そうね。・・そうだったわ。でも靴は脱ぎなさい。泥棒じゃないんだから。」

「足跡だって残らないと思うんだけどな~。」

そう言いながらも翔太は靴を脱いだ。


「さて、ママっ子くんはどこにいるかな?」

「えっ、おばさんのベットじゃないの?」

「優子、本気にするなよ。大地が可哀相じゃん。もし本当に潜り込んでいても見て見ぬ振りしろよな。」

「あっ、ごめん。」

「どれ、大声で呼んでみるか。」

「翔ちゃん、それだと偽者にも聞こえちゃうんじゃないかい?」

「大地の偽者か、確かに厄介だな。見分けがつかんからな。俺の偽者もそっくりだったし。でも俺ってあんな感じだったのか。自分を鏡以外で見たのは初めてだったよ。あんまりかっこ良くなかったな。ちょっとがっくりだ。」

「そうお?私の偽者はちゃんと美人だったわよ?」

「おおっ、さすがはお嬢だ。ぶれないぜ!」

やはり暗い他人の家は怖いのだろう。三人ともお喋りで誤魔化しているみたいだ。

「大地って一人っ子だったよな?」

「そうだよ、後はおばさんとおじさんだけだよ。」

竜馬が翔太の問いかけに答える。

「となるとこの部屋がおばさんたちの部屋かな?」

一階の台所を抜けた先にある扉の前で翔太が立ち止まる。

「翔ちゃん、お先にどうぞ。」

竜馬が優子の後ろに隠れながら言う。

「お嬢、こうゆう時はレディーファーストは無視なんだよな?」

「当然。さっさと行きなさい。」

「くぅ~、みんな冷たいぜ。」

翔太は静かに扉を開けた。

「お邪魔しま~す。大地君はいますかぁ~。」

大地が部屋の中に首を突っ込んだ途端、がばっと扉が開いた。

「うわーっ!」

大地は驚いて後ろに飛びのける。大地のすぐ後ろにいた二人も巻き添えで団子状態で転がった。大地を驚かせた人影はそんな三人の惨状に気付きもせず廊下を歩いてトイレに入っていった。

「おっ、おばさんかぁ。びっくりしたぜ。」

その時、部屋の中から大地の声が聞こえた。


「お前たち、なにやってるの?」

「おっ、大地いたのかよ。いたならさっさと出てこいよ、びっくりさせるな!」

「大ちゃん、俺たち大ちゃんが来ないから迎えに来たんだ。みんなも外で待ってるよ。」

「俺はいいよ、ここにいる。みんなは帰ってくれ。俺は母さんを守らなくちゃならないんだ。」

明かりのない部屋では大地の顔は良く見えないが多分今まで泣いていたのだろう。声が少しうわずっていた。

「大地、あなた本物よね?確かめていい?」

優子が大地に声をかける。

「やっぱりお前たちの家にも偽者がいたのか・・。やつは今俺の部屋で寝ているよ。俺は本物さ。」

その時、用を済ませた母親がトイレから戻ってきた。入り口を塞ぐ三人をすり抜け部屋に入っていく。大地は邪魔にならないように脇によける。頭では必要がないと分かっていても反射的によけてしまうのだ。

「俺は偽者を倒さなくちゃならない。だからお前たちとは行けない。」

そう言って大地は部屋の隅にしゃがみ込んだ。目線の先には母親がいる。

「大地、触っていい?」

優子は大地の言葉を無視して問いかけた。だが大地は返事をしない。優子は大地の肩に触れた。そこにはちゃんと大地の感触があった。

「ちょっと大地と二人だけで話すからあなたたちは先に戻っていて。大丈夫、すぐに追いかけるから。」

優子の提案に翔太は少し難色を示したが大地の状態を見てお手上げとばかりに従った。


優子は大地の目を見る。その瞳には光がなかった。

「大地、みんなといよう。偽者は大丈夫、あなたのママに危害は加えないわ。」

優子が大地の前にしゃがみ込んで言葉をかける。

「あなたは一人じゃないの。仲間がいるじゃない。みんなで考えよう。その為にはあなたが必要なの。」

優子の言葉でくすんでいた大地の瞳に光が戻る。

「優子、お前は寂しくなかったのか?家族に、母親に見て貰えなくて・・。」

優子は大地の問いかけにすぐには答えられなかった。しかし、意を決し答える。

「ショックだったわ。ママは偽者ばかりに声をかけるんですもの。でもママは悪くない、ママにとっては偽者が私なの。ママはいつも通り私を愛していてくれていたわ。」

優子の言葉を大地はかみ締める。

「優子、俺・・。ちょっとかっこ悪いな。」

「そうね、でもいいネタだわ。当分このネタであなたをからかってあげる。」

「ひでぇ~。」

優子に手を引かれて大地は部屋を出て行く。扉を閉める時、何か母親に言いたそうだったが唇をかみ締め無言で扉を閉めた。

外ではみんなが待っていてくれた。みな家族から認識されなくて辛かっただろうに大地の為に集まってくれている。そんなみんなの気持ちが分かって大地は一筋だけ涙を流した。


「優子。」

「なによ。」

「サンキュー。」

「あらあら。」

いつもと違うしおらしい素直な大地の言葉に戸惑った優子は、敢えて明るく、軽く振舞う。

「まぁ、子分ができたんですもの。安い買い物だったわ。」

「うわっ、ひでぇ~。」

一拍の間をおいて、二人は思わず笑ってしまった。

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