祟り神の封印
「俺たち、一体どうなっちゃったんだ?」
誰もいなくなった教室で8人はボツリボツリと話し合う。
コンビニで状況を確認した後、8人は取り合えず学校に戻ることにした。
8人が戻ってこなくて大騒ぎになっていると思うといたたまれなかったが、もしかしたら突然元に戻るかもしれないという望みもあった。しかし、結果は残酷なものであった。誰一人残っていなかったのである。まるで8人など初めからいなかったくらいの無視っぷりである。
だがみんなそれぞれ予感はあった。学校へ戻る途中、何人かのクラスメイトの下校と重なったのだ。生徒が8人も戻ってこないのに親も呼ばずに生徒を下校させる教師はいない。少なくともみんなの先生は絶対にしない。なのに下校させた。その意味が語るところはひとつだ。
先生も僕らを忘れている。
誰もいない教室を見て、全員が確信した。僕らは見えなくなっただけじゃない。存在そのものを抹消されたのだ。今までは驚きながらもなんとかしてこの状況を大人の人に知らせて助けてもらおうと考えていた。大人たちだって僕らを探してくれると思っていた。しかし、この世界にいたこと自体を忘れられては誰が探してくれるのだろう。
「俺たち、一体どうなっちゃったんだ?」
大地が2度目の問いかけを口にする。
「お昼まではなんともなかったわ。優由子ちゃんたちとも普通に喋れてたし。」
「あの後、誠二のじいちゃんにも声をかけられた。あの時はまだ俺たちが見えていたんだ。」
大地が記憶を辿って確認ポイントを進める。
「そうだよなぁ、あっ!祠に行く道に入る前に軽トラにクラクション鳴らされたじゃん。あれって俺たちが見えていたから鳴らしたんだよな?」
「あんたが走って横切るからでしょう。猫や狸じゃないんだから車の直前を飛び出さないでちょうだい。」
「いや、あんだけ距離があれば・・、ごめんちょ・・。」
翔太は言い返そうとしたが優子に睨まれて降参する。
「となるとやっぱり祠か・・。」
「あの姉ちゃんたちの衝撃行動が原因なんじゃねぇの?ほら、俺たちには刺激が強すぎて思わず現実逃避しちゃったとか。」
「竜馬は逃避どころか近づこうとして岩から落ちたんでしょう。スケベも大概にしなさいよね。下手したら死んでたわよ。」
「あの人たちは、あの時既に私たちが見えていなかったんだと思うの。でなきゃあそこであんなことは普通しないわ。」
桃子が流れを軌道修正する。
「そうだよなぁ、いくらバカップルとはいえ、小学生の目の前でおっぱいは出さないよなぁ。」
大地の『おっぱい』という言葉に優子の眉がぴくりと動く。
「そうなると祠への道に入ったところから、あのカップルが僕たちの前に来た間に何かあったということになるね。」
武士が範囲をまとめた。
「やっぱり大岩に登っちゃったのがいけなかったのかなぁ。」
「それもあるかもしれないけど、私は多分、あの花がお札の代わりだったと思うの。」
桃子の言葉に未来が下を向いてしまう。
「未来のせいじゃないわ。あんなところに咲いているんだもん。他の誰かが摘んでしまってもおかしくないもの。」
「そうだよ、大体花を千切った位で祟られてたら俺たちなんか100回は呪われているぜ、な?翔太。」
「いや、俺は精々50回だよ。」
大地と翔太が混ぜ返す。
「大地、誤魔化しはよそう。可能性がありそうなことは全て洗い出さないといけないと思う。取り敢え思い当たる事をまとめて見よう。」
そう言って尊氏はノートに書き出し始めた。
●祠に行く道に入る前に軽トラにクラクション鳴らされた。認識されていたと判断する。
●祠で会ったカップルは僕らを認識していなかった。
●大地と竜馬が岩に登った。
●未来が花を千切った。
ここまで書いて筆が止まる。
「後はなにか気づいたことはあるかい?」
尊氏の問いかけにみんなが当時を思い出そうと頭を捻る。
「大岩に登ったのは高さを測るためでしょう?写真も撮ったわ。後、祠に行く道すがらは特に変なことはしなかった気がする。」
「となるとやっぱり大岩に登ったことと花を取ったことが一番怪しいか。」
「いやいや、結構みんな登っていたみたいだぜ?泥も結構付いていたし。あっ、写真取ったじゃん!確認してみようぜ!」
大地の言葉に尊氏がカメラの画像を確認する。そこには確かに大地たち以外の足跡があった。
「となると花が原因なのか?」
「いや、それだっておかしくね?道は草刈りがされていただろう?岩の周りだって結構きれいだった。つまり誰かが手入れしていたってことじゃん。その人だって花を引っこ抜く可能性はあるんじゃね?桃子たちが始めて千切ったなんて考えられないよ。」
翔太は敢えて未来ではなく桃子の名前を出す。
「そうね、私の思い過ごしだったのかもしれない。事前にあんな言い伝えを読んでいたからそれ以外に目が行かなかったのかも・・。」
「そうだよ、大体そんな大層なものなら触らないように囲っておくだろう?あれはただの珍しい花だっただけさ。」
桃子と翔太は、心の中では怪しいと思いつつも未来のことを思い、わざと無視するようなことをいう。しかし、尊氏は違った。
「未来、確かに花を1本千切ったくらいでこんな状況になるとは思えない。でも切欠なんてそんなものなのかもしれない。もしかしたら他の事と併せ技で発動するようになっていたのかも。だから君にはキツイかもしれないが花を取ったことがこの現象の発動条件を満たしたものとして考えていきたい。我慢できるよね?」
尊氏の言葉に未来は少し間をおいてから頷いた。尊氏は決して未来を責めているわけではない。それどころか慮っているくらいだ。しかし、この状況を打破するにはこうなった事の本当の理由が必要だった。それを確かめる為には花の件から目をそらす訳にはいかない。
「桃子の読んだ言い伝えってどんなだったんだい?覚えている範囲で教えてくれよ。」
武士が雰囲気を察して話題を変えた。
「あれは町の図書館にあった郷土史の中にあったんだけど、昔、ここら辺を根城にしていた悪霊が通りかかった高僧に封印されたのがあの石の祠だと伝えられているの。その際、悪霊を祟り神として祭り外に出てこないよう奉るよう言われたらしいわ。でも長い年月が過ぎると段々忘れられていって祭ることがなくなり、封印の力が弱くなり悪霊が出てきてしまう時があったんですって。」
「悪霊かぁ、昔の人は何でも悪霊のせいにするってじいちゃんもいっていたからなぁ。」
「その出てきてしまった悪霊がする悪さが神隠しだったそうよ。でも徳の高い僧や修験者を呼んでお払いしてもらうと消えてしまった村人は帰ってきたんだって。」
「おおっ、大ヒントだ!俺たちも早速坊さんにお経を上げてもらおう!」
「どうやって伝えるのよ。私たちの言葉は聞こえないのよ?」
「あーっ、母ちゃん辺りが気を利かせて頼んでくれないかなぁ?」
「どうかしら、私たちただの神隠しとは違うじゃない。存在自体を覚えていてくれてないのよ?いなくなった事さえ気付いて貰えてないじゃない。」
「いやいや、母ちゃんが俺を忘れるわけないじゃん。・・多分、わすれないよ・・。」
「ごめん、翔太。でもあんまり楽観していると駄目だった時のダメージが大きいと思うの。」
優子が翔太を慰めた。
「桃子の話だと封印は人々の悪霊を敬う気持ちということになる。それが弱まり、ちょうどその場にいた僕らに祟ったということになるのか?」
「うん、それが一番の原因なんだろうけどあの話には続きかあって、悪霊を封印してくださった修験者がこのままでは再度同じことが起こると村人が祠を忘れないように策を施してくださったらしいの。」
「へぇ~、アフターサービス付とはサービス満点じゃん。んで、どんな?」
「当時は珍しかった南方の花の種を蒔かれて手入れをし、その花を売って糧にしなさいと言われたそうよ。花が売れれば収入になる。収入になれば手入れをし、その元となった祠も敬うだろうという考えだったみたい。」
「うわっ、でたよ。だから桃子は花に敏感だったのか。」
「でも、その花も長い年月ののち、手入れをされなくなった花はいつしかほとんどが枯れてしまったらしいの。そして祠もまた忘れられた・・。」
「うわっ、2度目ですか!そんで今度は誰が封印してくれたの?」
「ううん、3度目はなくて神隠しも起こらなくなったんですって。でも、あの祠には祟り神が眠っているから敬いなさいという伝承だけが言い伝えられた・・。」
「ちょっと、ちょっと。それじゃ全然今回のことの説明になってないじゃん。」
「成る程、花が封印のお札だったのか・・。」
「うん・・。」
「おいおい、二人だけで納得すんなよ!俺でも分かるように柔らかく説明してくれよ!」
「修験者は花に悪霊が出てこれないようにする霊力を持たせたのさ。だから花が咲く限り悪霊は外に出てこれなかったんだ。」
「えーっ、なんか話がおかしくね?だって花を育てて売れって言ったんだろう?それって花を摘めってことじゃん。なんでわざわざ封印している花を摘ませるんだよ?変だよ、修験者。」
「修験者はいづれ村人が花を育てなくなることも織り込み済みだったのさ。ただ一旦根付いた花はちょっとやそっとでは枯れない。特に祠周りの花には何か仕掛けたのかもな。つまり村人が悪霊のことを忘れても花が守ってくれると考えたんだろう。」
「なら未来が千切っちゃった花だって大丈夫じゃん。来年また咲くんだろう?お札の効力は続いているんだろう?」
「うん、根と葉は残っていたからね。でもあの花はここいらじゃ見ないものだった。もしかしたら最後の花だったのかもしれない。それが採られた事により一時的に封印が破られたと考えると辻褄が合う。」
「いや、花なんて夏しか咲かないぜ?冬はどうするんだよ。秋は?春は?」
「それは分からないな。もしかしたら僕たち以外にもいなくなった人がいるのかもしれない。なんたっていなくなったこと自体を分からなくされているからね。」
「来年、あの花がまた咲けば封印は復活し、俺たちは元に戻れるのかな?」
「絶対じゃないけど可能性はあると思う。」
推測ばかりではあるが武士の言葉にみんなが希望を見出した。しかし、1年は長い。それまで耐えられるだろうか?
なんといっても8人はまだ子供である。一人ではないが、世間から隔絶した世界で行き抜くことは容易ではなかった。