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巫女さま登場

「まっ、そうゆうことで私たちは荒神を浄化もしくは再度封印することになった。荒神が封印されれば君たちも元通りになり一件落着だ。夏休み中に戻れて良かったね。」

男の言葉に8人はほっとする。しかし、安心した途端、別の問題が頭をよぎった。

「あっ!偽者のやろう、ちゃんと宿題をやっただろうな!」

「私たちの偽者はともかく、大地や翔太の偽者は望み薄ねぇ。」

「ううっ、桃子さま、どうかご慈悲を。」

「しょうがないわね、今回は特別よ。」

「ヒャッホー!これで気兼ねなく残りの夏休みを満喫できるぜ!」


「それじゃウチの巫女さまにご登場頂くこととしよう。」

男の声に合わせるかのように突然男の隣に巫女装束の少女が現れた。

「うむっ、くるしゅうない。面を上げよ。我が許す。我を称えよ!」

「あっ、気にしなくていいからね。ただの出オチだから。」

ぱこん。

巫女さまと呼ばれた少女は、なにやら飾りの刻まれた棒のようなもので男の頭を叩く。

「うわっ、桃子より手が早いよ、この人。」

翔太の言葉に桃子が渋い顔をした。

「くんくん。およ?なんかケーキの匂いがするのぉ。」

「巫女さま、それは終わった後のお楽しみということで、サクっと片付けちゃいましょう。」

「そうか。では、悪霊退治に行くかのぉ。うひょひょひょひょ。2級クラスは久しぶりじゃ。10分くらいは遊んでくれるかのぉ。」

そう言って巫女さまは指をパチンと鳴らす。するとそこにいた全員が忽然と消えてしまった。


次の瞬間、8人は地元の祠の前にいた。もちろん男と巫女さまも一緒である。

「なっ、なんだぁ~!」

竜馬がすっとんきょんな声を上げ辺りを見渡している。他の7人もいきなりの状況変化に戸惑いを隠せない。

「瞬間空間移動。ちょっと驚いただろうけど気にしないでくれ。ただの便利グッズだから。」

男が8人に説明する。

「ほぉ、これが封じ込めの重石か。この程度で出てこれぬとは軟弱だのぉ。」

「巫女さま、石は飾りですから。その袂にある花がお札です。」

「ああっ、こっちか。ほいっ。」

巫女さまはこともあろうかお札花を蹴飛ばして葉を蹴散らしてしまう。

「ほれ、隠れてないで出てこんか!それとも久しぶりの現世は怖いのか?偽者なんぞ使って、後ろでふんぞり返っていては人生の楽しみの半分を捨てているようなものだぞよ。そんなことでは引きこもりと言われて笑われるぞよ。」

巫女さまは荒神に対して挑発する言葉を投げかける。

その時、地面のそこかしこから黒いもやっとしたものが立ち上がった。

「よしっ!えらいぞ!自分の不始末は自分で拭わなくてわな。いざ、尋常に勝負じゃ!」

「それじゃ、巫女さま、後はお願いします。私たちは特等席で見ていますから。」

「うむっ!今回は特別にタダにしてやろう。我のかっこいいバトルを心ゆくまで堪能するがよい!」

男は子供たちを促して祠を離れる。小道まで退くと男は道の両脇になにやら棒を挿して呪文を唱えた。

「ば~りや。えんがっちょ。」


その頃、黒いもやっとしたものは少しづつ集合し始める。そして身の丈4メートル程の人型になった。その姿は人型といっても輪郭はぼやけ、腕は地に付くほど長い。目と口はあるが、その奥は深い闇のようだ。

「なんじゃ、超小型のだいだらぼっちか?これだから昔の悪霊はだめなのじゃ。今はドラゴンが全盛じゃぞ。一辺死んでアニメで勉強し直して来い!」

そう言い放つと巫女さまは袂から白い紙を荒神に投げつけた。紙は途中で何枚にも分裂し荒神の周りを飛び回る。荒神がそれを払うと紙に触れた部分が爆発した。

「がははははっ、驚いたか!これぞ、現代科学の証。ニトログリングリン入りの人形じゃ!」


それでも荒神は人形を払い続けた。爆発によって飛散した部位はすぐに周りから補修され全体の形は崩れない。

「ほうっ、結構な霊力だのぅ。さすがは2級相当じゃ。褒めてとらすぞよ。ほれ、褒美じゃ。受け取れ!」

巫女さまはそう言うと懐からなにやら白い粉状のものを取り出し荒神にぱらっと投げ付ける。その白い粉を被った荒神はみるみる体が溶け出し縮小していった。

「おおっ、さすがは悪霊じゃ。お清めの塩には手も足も出ないと見える。」

荒神は体を丸めて塩に当たる面積を小さくする。


「ぬははははっ、もがけ、苦しめ!ただの塩と侮ったお主の愚かさを思い知れ!これぞ、天が原より直輸入したアマテラスさまご用達の粗塩じゃ!因幡のうさぎ如きが使った2級品とは出来が違うぞよ。」

しかし、3回振りかけたところで塩がなくなった。

「およっ、ちとケチりすぎたか?じゃが大抵はこれで溶けきるのじゃがのぉ。」

荒神は塩の攻撃がないとわかると大量の水を発生させ体から塩を洗い流してしまった。

「ほうっ、シャワー付とは中々清潔じゃ。いいだろう!次はお主のターンじゃ!お主の実力のほど見せてもらおう!」


今度は荒神が反撃に出る。大きく両手を広げるとごおーっという音と共に周りのものを吸い寄せ飲み込み始めた。忽ち回りは突風が吹き荒れ耐え切れなかった木々の葉や草花が吸い込まれてゆく。

「あははははっ、なんじゃ回りに遠慮しておるのか!その昔は一踏みで湖を作り、一吹きで山を枯らしたお主が今更何を遠慮しておる!ドーンっとこんか!そんなことでは花唄妹愛媛命のしもべの名が泣くぞ!」

巫女さまの挑発に乗ったのか、荒神は今度は物ではなく生き物の生命エネルギーを吸い込み始める。忽ち周囲の木々や植物が萎れ枯れだした。その範囲が巫女さまのところまで広かる。巫女さまはそれを難なく弾き飛ばしたが周りまでは防御しきれない。忽ち後ろの子供たちのところまで影響は広がった。


「なにあれ?植物がみんな枯れてゆく。」

桃子が驚きの表情で呟く。

「生命の刈り取り。花唄妹愛媛命のもうひとつの一面である冬の事象だ。栄えたものはいずれ滅びる。そして次の世代に舞台を明け渡す。その理に抗ったものへの罰があの吐息なんだ。」

男が説明している間にも荒神の吐息はぐんぐん近付いて来る。そして男と子供たちを飲み込んだ。

しかし、男を中心に3メートルほどの範囲は吐息の影響を受けなかった。

「ねっ、便利なアイテムだろう?」

男は自分が着ている装束を指差して自慢する。

「でも、このままでは町まで巻きこんじまうよ!」

大地が吐息の先端を見ながらもっともなことを言う。その時、祠の方から凄まじい叫び声が聞こえた。大地が振り返ってみるとそこには大きなオレンジ色のゆりの花を両手に掴んだ巫女さまが荒神の前で花と花とをくっ付けていた。


「ほれほれ、どうした?吐息が止まっておるぞよ。我がせっかくおしべとめしべで生命の誕生の仕方を説明してやっておるのに、終焉を演じるお主がそんなではこの世は生命で溢れてしまうではないか。ほれほれ、さっさとこの花を枯らさぬととんでもない事になるぞよ。この世が百合の花園になってしまうかもしれぬではないか。そんなことになったら童貞18歳男子が鼻血を噴いて喜んでしまうぞよ。」

巫女さまがとんでもない事を言って荒神に擦り寄ってゆく。

「何で百合のお花畑になると男の子が鼻血を噴くの?」

未来が桃子に聞くが、桃子は未来は知らなくてもいいのと言って誤魔化した。

「ぬははははっ、ほれほれほれ!そんなことでは可憐な花1本手折れぬぞよ。」


その時、巫女さまの胸元が赤く点滅しピコンピコンという音が響き渡った。

「なんじゃこれは!今丁度いい所なのに邪魔しおってからに!」

「それは巫女さまが2級相手にはこのくらいのハンデは必要と勝手に自己ルールで付けたカラータイマーです。」

「なにーっ!アホかお前は!」

「アホは巫女さまです。後1分ですよ。何とかしてください!」

「ぎゃーっ、まっ、マグネシウムこうせーん!あちっ、あつっ、熱いわ!なんじゃ、なんでマグネシウムは金属のくせして燃えるんじゃ!どうせ燃えるなら荒神に届いてから燃えんか!」

「巫女さま、そんな化学ネタはいいですからさっさとやってください。後30秒ですよ。」

「あっ、アイスクラッカー!とうっ!あれ?なんで凍ったクッキーが出てくるんじゃ?こんなんで怪獣が倒せるのか?」

「巫女さま、掛け声が違います。アイ○ラッカーです。うろ覚えで使うからそんなことになるにですよ。ちゃんとDVDを見て復習してください。」

「くそーっ、荒神め、卑怯な手を使いおる。格下と思って手を抜いてやればつけ上がりおって。許せん!ぐちゃんぐちゃんのべろんべろんにしてやる!!」

そう言って巫女さまはパチンと指を鳴らした。

鳴らした。確かに鳴らしました。しかし、何も起こらなかった。

「およっ?なんじゃ、大砲が出てこんぞよ。故障か?」

「巫女さま、時間切れです。続きは1週間後です。」

「なにーっ!たっ、退却じゃ~っ!総員たいひ~!」

巫女さまの掛け声に走り出す8人と探偵。その後を荒神が両手をぐるんぐるん振り回して追ってきた。

やれやれ、何しに出てきたんだ、この人は。

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