初めての野菜つくり
幽霊化してから2週間、8人はなんとか日々のサイクルを確立しつつあった。捨てられた不用品を集め、水を引き、サバイバルさながら火を起こした。ただ火に関しては大地たちが3時間かけてやっと新聞紙に火を点した瞬間、桃子たちが町からライターを拾って戻って来たため大地たちは1時間ほど不貞腐れていた。
だが何といっても未来たちがホームセンターから破棄された野菜の苗を拾ってきたのがみんなを沸かせた。そして今日は始めての野菜つくりに挑戦である。
「これがナスの苗か。うん、これはじいちゃんの畑で見たことがあるよ。」
「キュウリとトマト。これはスイカか?」
「解からない、取り敢えず持てるだけ持ってきたから。」
「トウモロコシもあったわ。後はゴーヤね。」
「ひゃーっ、育て方は解かるのかい?」
「うん、あの後、私は分かれて図書館で調べてきたの。そんなには難しくはないみたい。お日様と水やりさえ間違わなければ大丈夫。」
「厳十郎さんちの畑、草むしりしといて良かったぜ。すぐに植えた方がいいんだろう?」
「そうね、キュウリやトマトは支えがいるらしいから苗の側に何か棒を挿しておくんですって。」
「よし、では二手に分かれよう。僕と武士と竜馬はもう少し草刈りをして畑を広げる。未来たちは苗を植えてくれ。棒は家の裏にシノ竹があった。あれを使おう。」
「了解。うひょ~、これでトウモロコシが食えるぜ!」
「塩と醤油も準備しないとな。」
「醤油は弁当のがあるじゃん。問題は塩だな。」
「海水を蒸発させると塩が残るらしいよ。」
「竜馬ぁ、いくら電車に乗れるようになったからって海まで行くのは大変だぞ。それに潮風はお札花によくないだろう?」
「ゆで卵には塩のパックが付いていたぜ。」
「ん~っ、でも今までゆで卵が捨てられていたことないからなぁ。」
大地たちは苗を植えながらトウモロコシを如何にして食べるかで盛り上がる。桃子たちはトマトとキュウリだ。
「まぁ、トマトは生でもおいしいと思うのよ。でもキュウリには是非ともマヨネーズを掛けたいわ。」
「私はゴマドレッシングが好きなの。」
「私、お味噌も好き!」
「あら、未来は結構しぶいわね。何て言うんだっけ?キュウリの味噌和えって。」
「モロキューっておじいちゃんは言ってた。」
「あーっ、そうそう、それ。お味噌はお味噌汁のパックがあれば代用できるからマヨやドレッシングより可能性が高いわ。」
「やったー!」
「でも今から植えていつ食べれるようになるかしら。破棄するくらいだから時期的にはもう遅いんでしょう?」
「ん~っ、9月になってからかなぁ。トマトとキュウリは結構育ちが早いって書いてあったけど。」
「うわ~っ、1ケ月後かぁ。野菜って結構大変なのねぇ。」
「うん、虫とかの駆除もちゃんとしないと葉っぱを食べられて枯れちゃったりするんですって。」
「虫!尊氏!蚊取り線香の目処は付いたの!あの杉の煙、煙いだけであんまり効いてないわよ!」
突然、優子に怒られて尊氏は武士の後ろに隠れる。
「まぁ、あれは代用品だから。この前、図書館で調べて今新しいやつを天日で乾燥している。今度のやつは効くはずだ。」
「優子、家の周りの草むしりもほぼ終わった。やつらは草むらがないと暮らしていけないからな。水溜りのボウフラも退治したし段々数も減るさ。」
「むーっ、あいつらなんで私ばかりに寄って来るのかしら。」
「はははっ、お嬢がそれだけ魅力的なのさ。」
8人はそれぞれ手分けして作業に当たる。こんな本格的な農作業は始めてであったが、これがやがて野菜を手に入れる為の第一歩なのだと思うと自然と力が入った。
「間隔はこれくらいでいいのか?」
「どうだろう?まぁ、近すぎるよりはいいんじゃね。」
「あっ、ここ根っこが残っているよ。なんだこれ?芋の根か?どこまでも続いているぞ。」
「地下茎ね。それが残っているとまた生えてくるから全部掘り起こしてちょうだい。」
「ほいさっ。ひゃ~、なげ~。」
「深さはこの苗が入っていた入れ物くらいでいいんだよな。」
「そうね。でも土が固いようなら少し掘り起こして混ぜてくれる?空気を含んだほうがいいって書いてあったから。」
「桃ちゃん、もうお水をあげてもいいの?」
「そうね、1株にバケツ一杯を目安にあげてちょうだい。ただ葉っぱとかには掛けないように注意してね。日差しで暖められて弱っちゃうらしいの。」
「は~い。」
「肥料はどうすんの?俺たちのウンチでいいのかな。」
ぱこん。
「なんであんたの排泄物で育った野菜を食べなきゃなんないのよ!」
「なんだよお嬢、そんなこと気にするなよ。大体、無農薬系の肥料なんて殆ど生き物の糞らしいぜ。この前、テレビで見たもん。」
「う~っ、だからって・・。」
「まぁ、肥料に関しては草を発酵させて作るやつもあるはずだから調べるよ。」
「竜馬、おしっこのアンモニアはよくないらしいからここでしないでよ。」
「えっ、そうなの?やべっ、俺、毎日朝顔にかけてたよ。だから育ちが悪かったのか。」
竜馬のアホ発言にみんなは呆れ顔だ。まぁ、長年放置されてきた地面内の微生物の駆除など、所々間違った知識もあるようだが許容範囲である。お店で売る為ではないのだから、要は食べられればよいのだ。そして夏の日差しは少年少女たちの期待を背負いらんらんと野菜たちの葉に降り注ぐのであった。




