ちょっと息抜き
「今日から夏休みじゃん!」
それはコンビニで朝食を食べ終え拠点に帰る道すがら通学の学生姿が見えない事に気付いた竜馬が、突然上げた声から始まった。
「あーっ、給食を試し忘れたわ。」
「あ~あ、来週はテーマパークに連れて行って貰えるはずだったのになぁ。」
「私も、水族館。イルカショー楽しみだったのに・・。」
みんながそれぞれ計画していた夏休みの行事を口にする。
「くそっ、荒神め!この夏休みイベントを潰してくれた借りはでかいぞ!祠の周りを花だらけにして後100年は出てこれないようにしてやるからな!」
「いやいや、みんなここは逆転の発想で考えよう。」
「何よ大地、随分前向きね。何か良い事でもあるの?」
「ふふふふふっ、俺は気付いてしまったのだよ。この幽霊化の利点、それは映画館で新作映画を見放題だ!」
「おおっ!」
大地の発案に翔太たちがその手があったかと感嘆の声を挙げた。
「うわ~っ、最低。」
「そう言うなよ、イエローモンスターは今日からじゃなかったっけ?」
「あなたたち、タダ見をしようってわけ?」
「いや、その・・、でも俺たち金払っても受け取ってくれないじゃん。」
「そうだ、そうだ。あっちが悪い。まぁ、映画を見れるだけのお金、持ってないけどね。」
「ううっ、段々罪の意識が薄れそうだわ。」
「そう言うなよ、お嬢。お嬢だってキュアキュアの新作観て見たいだろう?」
「うっ、それは・・、観たいけど。」
「アイドルのステージだってチケット無しで最前列だぜ!」
「いや、翔太。それどころか一緒にステージで踊ることだってできるぜ。」
「おおっ、バックダンサーじゃなくてツートップか!よし!俺のラジオ体操をみんなに見せてやる!」
「そう言えば来月隣の市民会館にBLC59が来るわね。」
「いやさすがに女の振り付けはできねぇよ。」
「わっ、私、できる!」
未来が得意そうに言い切った。
「おっ、さすが未来だ。よし!なんとかして隣の市に行く算段を考えるか!」
「いいの!?」
「電車にさえ乗れれば行けるんだ。何か手はあるはずさ。」
「また、適当なこと言って。駄目だったらがっかりするじゃない。」
「そんときゃ、歩くさ。なに、たかが80キロ。二日もあれば着くんじゃね?」
「えっ、歩くの?」
「最悪そんな手もあるってことさ。無料なら俺たちも乗り物に乗れるはずなんだ。もしくは切符を拾うとかな。」
「尊氏のチケットが有効なのにお金が反応しないってとこが解せないよな。」
「そうよね。自販機もお金を受け取らないし。」
「私たちのお金も幽霊化しているのかもな。」
「くっそーっ、チケットみたいに使い放題になると思ったのに。」
「なんなんだろうね。境がいまいち分からないよ。」
「ねぇ、拾ったお金なら使えるんじゃないかしら。」
「あーっ、でもそうそう金は落ちてないよ。俺今まで10円しか拾ったことがない。」
「そう言えば自販機の下なんかには結構落ちているって聞いた事があるわ。」
「おおっ、本当かよ。それが本当なら町中の自販機の下を総ざらいすれば結構な額が集まるんじゃね。」
「私、自販機のところで百円拾ったことがある。」
未来が言う。
「なに!ひゃ、百円だとー!これはますますやる気が出てきたぜ!」
「でも交番に届けなくて、いいの?」
「いやいや、今の俺たちをおまわりさんは認識してくれないから。だから拾ったお金は俺たちが大切に使わせていただきます。」
「まぁ、それもこれも拾ったお金を自販機が認識してくれればの話よね。」
「あらら、お嬢~っ、がっかりするような事言うなよ。大丈夫!きっと使えるさ!」
その後8人は、手分けして自販機の下を探し回った。普通なら恥ずかしくて到底出来ない行為だが、今の8人は他の人から見えていない。街中やスーパーなどの人ごみの中でもだれかれはばかることなく自販機の下を覗く事が出来た。
「おおっ、あの神々しく白く輝くものはもしや500円玉さまではないか!」
「なに!おい、竜馬、棒だ!先の曲がった棒を探してくれ!」
「こっ、これでいいかい?」
「おうっ、バッチリだ。へへへっ、500円玉ちゃん、待ってろよ。今、日の目に会わせてやるからな!」
「ヒャッホー!500円ゲットだぜー!」
「だっ、大ちゃん、使えるの?そのお金本当に使えるの?」
「まて、焦るな。今試す。いっ、いくぞ!」
大地が拾った硬貨を自販機の投入口に入れるとコトンという音と共に自販機の商品ランプが点灯した。
「やったー!大成功!竜馬、どれにする?俺はコーラがいいんだけど。桃子たちはなに飲むかな。紅茶か?あっ、いちごか?」
「大ちゃん、大丈夫だよ。多分お釣りも出てくるから、桃子たちにはお釣りを渡せば自分で選ぶよ。」
「あっ、そうか。よし、翔太が見つけたんだから翔太から選んでくれ。」
「ひとり1本づつでいいんだよな?」
「おうっ、960円あればいいんだ。後、460円くらい楽勝さ!」
3人はそれぞれ選んだジュースを口にした。
「うわっ、うま!冷えたコーラは最高だ!」
「うん!すげ~おいしいよ。」
「一週間ぶりだからなぁ。しみるぜ!」
その後、8人は合流し拾ったお金を出し合う。合計で1680円ものお金が集まった。
「いや、実は俺たち360円を使っちゃったんだ。だから俺たちの分はいいよ。差し引いておいてくれ。」
「大地たちはいやしんぼねぇ。男なんだから我慢しなさいよ。だらしない。」
「いや~、そうは言ってもコーラの魅力には勝てなかったよ。お嬢たちも飲めよ。美味かったぜぇ。」
「あなたに言われなくたって飲むわよ。わたしは380円も拾ったんだから!」
「おっ、すげー!俺たちも500円玉さま以外は3人で420円しか集められなかったよ。いや~、さすがはお嬢。おみそれしました。」
「未来はどれにする?大地たちはもう飲んじゃったからペットポトルの大きいやつにしようか。」
「あっ、桃子が微妙に怒ってるよ。」
その時、なにやら考え込んでいた尊氏がぽつりと呟く。
「これで切符を買えばいいんだ。」
「えっ?」
「あっ、そうね。自販機が反応したのなら切符の販売機だって反応するはずよね。」
「でも大切なお金なのに・・。」
「そうだな、隣町までは子供料金でも片道800円はかかる。往復なら1600円だ。8人だと9000円掛かるからな。これはちょっと大変だ。」
「12800円よ。適当に計算しないで。でも今回だけで2000円くらい集まったんでしょう?探していない場所はまだまだあるわ。それくらい貯まるんじゃないの?」
「ん~っ、コーラは飲みたし、されどコンサートも行きたし。ああっ、飲むべきか、踊るべきか?」
「うわっ、翔太がシェークスピアでボケたわ。明日は雨ね。」
「どっか~ん!お嬢それはないぜ!」
「あははははっ、なに、コンサートにはまだ日があるだ。別の方法も試してみようじゃないか。」
「なんだよ、なんか思いついたのか?」
「まあね、明日実験してみよう。」
次の日、武士たちはお札花の前にいた。
「もう、花は萎んでしまったけど葉は元気だ。この花には荒神を封印する力が宿っている。でも葉や茎にもある程度の力が宿っていると考えるのが普通だ。でなきゃ花が散った後に厳十郎さんの秘密基地が偽者に見つからなかった説明がつかない。」
「ほうっ、それで?」
「この花を持っていれば戻ることは無理でも荒神の呪い弱めて電車に乗るくらいは出来るかも知れない。」
「おおっ、それは新しい。でも花は持ち歩けないじゃん。掘るの?」
「幸い、花はここに12株ある。1つ掘り出して試してみても結界に影響はないと思うんだ。」
「そうだな、もしも上手くいけばこれは色々応用が利くはずだ。何か鉢みたいのはないかな。」
「取り敢えずこのバケツで代用しようよ。穴が開いてたから使えなかったんだ。」
「よし、ほんじゃ、土を入れて、お札花を・・、あれお札花って球根だったんだ。」
「へぇ~、調べてみるもんだねぇ。」
「どう?上手く掘れた?」
「おうっ、バッチリだ!」
翔太がバケツに植え替えたお札花を見せる。
「桃子、お札花って球根だったぜ。」
「えっ、そうなの?ふ~ん、百合とかチューリップ系なのかしら。後で調べてみるわ。」
その後、8人は揃って駅へ行く。勿論、バスが使える区間はバスを利用した。
「どうする?切符も試すか?」
「取り敢えず乗れるかだけ試そう。だから一番安いやつを買ってくれ。」
「ほい、了解。」
切符を1枚だけ買って8人は駅のホームへ向かった。勿論改札はスルーである。
結果から言うと予想通り電車に乗ることが出来てしまった。しかも1鉢で全員がである。試しに切符だけでも乗ってみたがこれば料金区間を過ぎた途端、電車を通り過ぎて線路に落ちてしまった。駅で走り出した時に落ちたので怪我はなかったが電車の車輪が脇を走り抜けていくのは恐ろしかった。
「よ~し、これで隣町までの足は確保できた。後はコンサートの日を待つだけだ!」
「未来はこの花を枯らさないように翔太と手入れをしてね。水のあげ過ぎは根が腐りやすくなるらしいからほどほどにね。」
「うん!」




