秘密基地を作ろう!
次の日、尊氏と武士と優子はコンビニ弁当とペットボトルの水を持って厳十郎の家に来た。他の6人は町に使えそうな物を探しに行ってる。尊氏たちは先に来て家の状態を確かめる役だ。
尊氏たちはそこで気付いた事がある。昨日刈ったはずの道路の草が元に戻っていたのだ。だがまた最初からやり直しかと辟易しなから鎌を入れると突然目の前の草が消えた。驚いて後ずさるとまた草が現れる。
「これって何なの?」
優子が尊氏に問いかける。
「分からんが僕たちが起こした結果と僕たち以外の人たちから見た事象の摺り合わせが行われているんだと思う。」
「つまり他の人たちから見たらこの道は相変わらず雑草だらけと言う事?」
「多分ね。そして俺たちが近づくと俺たちの行動によってなされた結果が表面化するのかもしれない。」
「でもコンビニのガラスは元に戻ったわ。」
「それは所有権の差じゃないかな。あのガラスはお店のもの。この雑草は誰のものではない。」
「だそうよ。尊氏、メモっておいてね。」
「優子も大概のことでは驚かなくなったね。」
「びっくり回路も使用限度があるのよ。今月分はもう使い切っちゃったわ。」
「はははははっ、確かに。でも僕はまだ少し残っているよ。」
三人はお喋りをしながら厳十郎の家への小道を歩く。
「この脇は厳十郎さんちの畑なのよね。ここを借りれば何か作れるかしら。」
「何かって言ってもな。何がある?僕たちは野菜なんか作ったことないよ?」
「ん~っ、レタスとかキャベツとか大根とか。」
「レタスは食べても腹にたまらないよ。トウモロコシとかサツマイモの方がいいんじゃないか。」
「その件に関しては図書館で調べてみよう。種を蒔く時期もあるだろうし、そもそも種を手に入れられるかもまだ未定だからね。」
家の前についたので取り敢えず武士が話をまとめた。
「桃子はこの家を掃除して住みたいような事を言っていたのよねぇ。」
「見た目はアレだけど住めない事はないんじゃないかな。ガラスだって1枚も割れてないし。」
「町中で空き家を探してもいいけど、ここには花があるからな。それを考慮するとここを拠点にするのは利にかなっている。」
「そうは言ってもねぇ。」
優子は雑草だらけの庭を見ながらため息をついた。
「大地は花の近くにテントを張って秘密基地を作り直すとか言ってたわよね。」
「それはちょっと無謀だな。僕らは8人もいるからね。寝るだけでも6畳間くらいのスペースは欲しい。手に入る材料ではそこまで大きな部屋は作れないだろう。」
「そうよねぇ、町にはいくらでも材料があるのに私たちは手に取ることすら出来ないんですものね。」
「まっ、そこら辺は無人島に漂流したのと同じさ。なまじ見えるからがっかりするけどモノによっては拾ってこれるんだ。条件はこっちの方が遥かにマシさ。」
「ロビンソンクルーソだっけ?今時サバイバルなんて流行らないのに。」
優子は誰も住まなくなって久しい厳十郎の家を見ながらまたため息をついた。
やがて大地たちが捨てられて手に取ることが出来たモノを持ってやって来た。
そして大地と優子のひと悶着が起こる。
「いやお嬢、秘密基地ってのはさぁ、もっとこう手作り感があってこじんまりとしていて遊び場でなくてはいけないんだ。」
優子の厳十郎の家を拠点とする案に大地が反論する。
「そう?ならそっちは大地たちに任せるわ。私はちゃんと屋根と床のある所に住みたいの。」
「ちぇっ、お嬢は男のロマンを理解していないなぁ。」
「男じゃなくて子供でしょ。今の状況で一から住む所を作るなんて馬鹿げてるわ。はい、家を掃除して住むことに賛成の人。手を挙げて。」
優子の問い掛けに大地と翔太以外がおずおずと手を挙げた。
「何だ!竜馬、裏切るのか!」
「ピッピー、はい、大地は有権者に対して脅迫行為を行った為、発言権を取り上げます。よって本件は厳十郎さんの家を掃除して拠点化することで決定です。」
優子の有無を言わせぬ迫力に大地たちは敗北を認めざる得なかった。
「ううっ、これが専権政治の強権か。少数派の意見なんて聞き入れてくれないんだ。」
「夢みたいなことを語るからよ。現実を見なさい。物事には、出来ることと出来ないことがあるの。絵に描いた餅は食べられないのよ。」
その後、優子の決定により掃除の段取りの相談が始まる。ここでリーダーシップを取ったのが桃子である。桃子は掃除の仕方や必要なものをリストアップする。
掃除の為に用意するもの
ほうき・ちりとり・はたき・ごみ袋
マスク・ぞうきん・バケツ。あれば洗剤
暮らしていく為に用意するもの
布団・網戸・ロウソク・ライター・なべ・フライパン・皿・箸
できれば殺虫剤。
この中でごみ袋とバケツは拾ってきて今手元にあった。ロウソクもお墓から失敬してきた。
「大地たちは川原を探してみて。不法投棄されたのがあるかもしれない。尊氏たちは空き家巡りね。私たちはお店の廃棄ヤードを探しましょう。」
桃子がテキパキと役割をみんなに振り分ける。そして町に戻ろうとしてふと目が止まる。
「この井戸って飲めるのかしら。」
「一応、色と匂いは確かめたけど、飲むのはちょっと怖いな。腹痛くらいで済めばいいけど、僕たち医者に行けないからね。」
桃子の問い掛けに武士が答えた。
「そうね、沸かせば大丈夫だと思うけど、私たち火も起こせないものね。」
「火かぁ、俺たち文明人なのに縄文人より生きるのが下手なんだな。」
「昔の人はなんでも自分でやらなきゃならなかったからな。その分、効率が悪いんだ。僕らは数にまかせて分業化することにより効率よく物を生み出している。トータルで考えれば現代人の勝ちさ。」
「その枠から弾き飛ばされた俺たちってチョー不幸じゃね?」
「これもいい機会だ。サバイバルの達人になれよ。」
「いや、今のサバイバルはこんな泥臭いことは受けないよ。火起こしだってレクリエーションだもん。」
なんやかやと文句を言いながらも8人は生きる為に歩いている。武士は数にまかせてと表現していたが仲間がいることは本当に心強かった。みんな言葉にはしないが心の中で一人出ないことの幸せをかみ締めていた。




