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花を探す

厳十郎の生家はすぐに見つかった。役場の戦没者名簿に載っていたのだ。だが今は誰も住んでいなかった。それどころかこの一帯が過疎化し誰も住んでいないのだ。家屋は荒れ果て朽ちるに任せている。道に至っては背の高い雑草が生い茂り道の体をなしていない。そんな藪を拾ったカマで武士が切り開く。サビだらけのカマは刃が欠け中々切れないが武士は力任せに押し開いていった。

「武士、交代するか?」

大地が武士に声をかける。武士の額は汗でびっしょりだ。

「いや、大丈夫だ。もう少しで背の高い草はなくなる。そしたら後は踏み付けて進もう。」

そう言って武士は最後の草をなぎ払った。

「おおっ、すげー!ここまで草だらけの庭はちょっと見たことがないな。どれくらい住んでいないんだろう?」

視界が開け家の全貌が見渡せると大地が驚きの声を挙げた。

窓ガラスが割れているようなことはなかったが、屋根の上にも雑草が数箇所生えている。玄関の前の庭にはひざ位の高さの草が満遍なくひしめき合っていた。

「手紙にはこの家の裏に秘密基地があるって書いてあったよな。」

家の裏側はすぐに山すそになっている。それ程高い山ではないが手入れをしていない山林は木々の枝葉が日光を遮り薄暗かった。

「これはちょっと大変かもしれない。」

裏に回った武士たちはその光景に落胆する。家の裏は一面の蔦で覆われていたのだ。これでは秘密基地を見つけるどころではない。それどころかお札の花がまだ残っているかも怪しい。自然の生存競争は過激だ。光を求めて全ての植物が上へ上へと伸びてゆく。日光を得られないモノたちはやがて萎れて消えてゆくのだ。

「どうする?手当たり次第に探すか?」

大地が尊氏に聞いた。

「大地がここに秘密基地を作るとしたらどこにする?」

「ああ、そうだなぁ。家からはできるだけ離れるな。でも離れすぎるのも不安だ。適度な距離で家から見えない所がベストじゃね。」

「手紙には畑があると書いてあった。多分畑は僕らが歩いて来た道の両脇にあったと思う。もしくは家の西側だ。」

「何で?」

「水の問題さ。西側には小さな水路があった。ここに来る前に道路の側溝に流れ出ていただろう。」

「あったっけ?タカジーよく見ているな。」

「畑には水が必要だ。雨だけに頼らないとすると水辺の近くに作るのが基本だろう。」

「はは~っ、なんか推理モノみたいだな。その調子で秘密基地の場所も当ててくれよ。」

「畑のある方は傾斜もなだらかだ。あの木の奥なら畑と家が一直線になる。僕はあそこを推すね。」

「く~っ、また藪こぎかぁ。よし、今度は俺が先頭に立つよ。桃子たちは待機だな。竜馬もここにいろ。何かあったら大声で知らせてくれ。」

「了解。」

大地たちは一旦家の表側に戻ってから尊氏が推測した場所めがけて雑草を切り開いてゆく。

後に残った桃子たちは厳十郎の家を眺めた。

「どのくらい住んでいないんだろうね。」

「最初見た時は、すげーボロと思ったけど、近くで見るとそれ程でもないよ。ガラスだって割れてないし。」

「そうぉ?なんか全体的に傾いている気がするんだけど。」

「錯覚じゃないかしら。ほら、後ろの山の木が斜面に対して少し斜めだからそれに惑わされるのよ。」

「家の中はそれ程荒れてないよ。というか何も無いな。」

竜馬がガラス越しに家の中を覗いた。桃子たちもそれに倣う。

「ねぇ、この家って掃除すればまだ住めるんじゃない?」

「え~っ、嫌よ~。ネズミとかいそうだもの。」

「食べ物が無いはずだからいないんじゃないかな。」

「そぉうぉ~?」

「偽者たちもここの存在は知らないと思うの。隠れ家としては結構いい物件だと思うけど。」

「でも、厳十郎さんの偽者はここに住んでいたんだろう?荒神は知ってんじゃないか?」

「あっ、そうか。どうなんだろう。」

「こっちが母屋であっちが離れなのかしら。」

優子が少し離れた場所にある小さな小屋を見ながら言う。

「いや、あれは風呂場なんじゃないかな。ほら煙突みたいなのが突き出ているだろう?」

「あっ、本当だ。なら隣の扉が更衣室?」

「あれは多分厠だね。」

「ああっ、おトイレかぁ。昔は外にあったんだ。」

「うん、じいちゃんちの隣の家があんなだった。多分そうだよ。」

桃子たちは大地たちを待つ間、家の周りを見ながらあれやこれやと推測している。昔と今の家では作りも配置も違うが人が住むのに必要なものは同じだ。ただ効率を求め一箇所に詰め込んだ現在の家屋に住んでいた桃子たちには配置や使い勝手がピンとこないだけである。


その頃、目的地に着いた大地たちは早速辺りを探し始める。

畑の奥は広葉樹が生い茂り太陽の光が地面まで届かない。だからか植物もそれ程多くなかった。よって厳十郎の秘密基地もすぐに見つかった。いや、秘密基地ではなく白い花を見つけたのだ。

「これ、お札の花かな?」

見つけた花はすでに萎れていた。しかし、葉は濃い緑で元気そうだった。

「どうだろう。翔太、桃子たちを連れてきてくれ。」

「分かった。」

翔太は家の方へ駆け出す。

「これが花だとするとここいらが秘密基地か・・。名残はないな。」

武士が辺りを見渡して言った。やがて桃子たちがやって来た。

「この花なんだけどどうだろう?萎れちゃってるけどあの花かな。」

大地が桃子に聞く。

桃子と未来は暫く花や葉を見ていたがその眼が輝く。

「ええ、間違いないわ。あの花と同じだわ。」

「うおっしゃー!お札、ゲットだぜぇー!」

「この花を祠に持っていけば呪いが解けるのかい!」

「試してみたいけど、駄目だった場合は荒神に僕らが花を手に入れたことがばれるな。それを考えると萎れた花ではちょっと躊躇する・・。」

尊氏は慎重だった。その言葉に桃子も同意する。

「そうよね。祠の花だって枯れた訳ではないから、葉っぱじゃなくて白い花自体に何かあるのかもしれないし。」

「これって温室とかで育てればもう一回咲かないかな?」

「ん~っ、どうだろう。俺たちって朝顔くらいしか育てた経験がないからな。」

「母ちゃんならこうゆうの得意なんだけどなぁ。」

竜馬はせっかく見つけた花を試せないのが悔しいのか何とかしようと案を出した。

「ここはちょっと薄暗いわよね。祠の花も岩の陰にあったから、もしかしたらあまり日光が当たらないところが好きなのかも。」

「チューリップみたいに球根なのかな。球根なら水栽培が出来るんじゃね?」

みんな、荒神への切り札である白い花を手に入れたことで興奮気味である。あれやこれやと話が弾んだが尊氏がまとめた。

「みんな、厳十郎さんのおかげで白い花は手に入った。ただ時期が悪かったのか花は萎みかけている。早く試したいのは分かるがここは慎重に事を運びたい。だから祠に持って行くのはもう少し話し合ってからにしないか?」

「そうだな、急いては事を仕損じるって言うからな。」

「あらやだ。大地が間違わないで格言を言ったわ。」

「お嬢、それはないよぉ。」

大地の言葉にみんなが笑った。

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