悪霊は嫌なやつ
尊氏たちが戻り、お互いが発見した新事実を教えあった。
「おおっ、さすがタカジー!備えあれば嬉しいだ!」
桃子が翔太のいい間違いにため息をつく。優子にいたっては諦め顔だ。
「それって俺でも大丈夫なのかなぁ。」
「うん、それも試した。チケットを持たずに優子だけがバスに乗ってみたんだ。そしたら乗れたんだけど50メートルくらいでバスをすり抜けちゃって置いて行かれた。」
「あれ、気を付けた方がいいわ。バスの床って結構高さがあったの。混雑していたからスピードは出ていなかったけど、いきなりだったから結構効いたわ。」
「それってチケットの効力範囲があるってことかな?それともタカジーからの距離か?」
「それも試した。チケットを桃子に渡して僕だけが乗っても結果は同じだった。だからバスに乗れるのはチケットの力だね。」
「成る程、だから行きのバスにもチケットを持っていない桃子たちが乗れたのか。」
「因みにそれぞれがチケットを持っていれば一人でも乗れるのも確認した。但し、一人分のチケットしか持っていないと二人で乗ることは出来なかった。」
「へえ~、しっかりしてるぜ、バス会社。」
「ここからは朗報だ。チケットは手元に11枚あった。図書館は周回コース外だから2枚必要なんだけどそれでもこうして全員帰ってこれた。これってどう思う?」
「・・チケットは使っても減らない。」
「ビンゴ!僕らにとってチケットはほぼ期間無限の乗り放題券になったのさ。」
「おおっ、すげぇ~!」
「周回コース外に行くにはチケットが2枚必要だけどみんなの分まではない。だから取り合えず1枚づつ持ってコース外に行く時は残りの3枚を使うことにするのはどうかな。」
「尊氏がいいのなら僕らに異存はないよ。チケットは君のなんだから。」
「ならそうゆうことで。残りの3枚は優子と桃子と未来が持つ。もしも彼女たちがいない場合は僕らの間で都合しあおう。失くすなよ竜馬?」
尊氏は男子グループにチケットを渡す。そそっかしい竜馬には一言釘を刺した。
「祠の情報に関しては目新しいものは見つからなかった。後、まだ見ていないのは中学校の図書室だけど望み薄かな。」
「あっ、それに関してはこっちで大発見があったよ!じゃじゃ~ん!経験者からのお手紙を発見しました!」
「経験者?手紙って誰から・・、というか僕たち宛てだったのかい?」
「まさに俺たち宛さ。いや~っ、昔の人はいい人だ。」
「すげ~んだよ、この人。一人で生き抜いたんだ。昔の人、ハンパねぇ~。」
武士が尊氏たちに手紙の内容を掻い摘んで聞かせた。そして尊氏は手紙を受け取り読み直す。
「やっぱり花が封印だったんだ・・。」
未来がぽつりと呟く。
「なんだ、未来。元気出せ!あれは荒神が仕組んだ罠だ。でなきゃ未来が近くにいる時に俺が飛び降りるわけないじゃん。うん、悪いのはみんな荒神だ!」
「そうだな、桃子やお嬢じゃ逆襲されるから大人しい未来をターゲットにしたとも考えられる。いや絶対そうだ。」
大地と翔太が話を交ぜ返す。桃子と優子は渋い顔だが未来を思っての当て馬である。故に聞き流した。
「うわ~っ、荒神ってやつ、人を見分ける目があるんだね。もしかして俺が岩から落ちたのも一番霊力のある俺を亡き者にしようとした荒神の仕業だったのかな?」
「いや、あれは荒神も予想外だったんじゃないかな?むしろあのアクシデントで荒神が復活する機会をなくして俺たちに意趣返しの神隠しを噛ましたのかもしれない。」
「ううっ、そんな、大ちゃん酷いよ~。」
竜馬のおちゃらけにみんなが笑った。
手紙を読み終え、尊氏が武士に返していう。
「これは大収穫だったな。なんといっても元に戻る方法が書いてある。」
尊氏の言葉にみんなが頷く。
「少しずつだけど希望が見えてきた。それを目標にすればきっと元に戻れる。みんながんばろう。なにが面白くてこんな事をするのか分からないが荒神なんかに負けてたまるか!」
「おおっ!」
尊氏の檄にみんなが拳を挙げて応えた。
そして大地が手紙を箱に戻して土に埋め直す。みんな宛の手紙だから戻さなくてもと思ったが、あるべき物はあるべき所にあるべきだと言う武士の言葉に従った。
「神社にはあの戦争で亡くなられた人たちの名前を彫った石碑があるわ。・・見てみる?」
桃子が厳十郎のことを思い口にする。
「そうだな。役場や郷土史を探せば住所も分かるかもしれない。」
「秘密基地かぁ。昔の人もそんなの作っていたんだね。」
「花、咲いてるかなぁ。もしも咲いてたら1年待つ必要ないんだよな?」
「ああ、それも確かめたいね。未来たちは花の形を覚えているだろう?」
「ええ、白い一輪草だったわ。初めは小さなチューリップかと思ったけどちょっと違ったわね。咲く季節も違うし。」
「写真を撮っておくべきだったか。あの花って今はどこに?」
「あそこの道路で桃ちゃんが車に轢かれそうになった時手放しちゃった。ごめんなさい。」
「ああっ、いいの、いいの。確かめただけだから。未来だって花は覚えているんだろう?それならいいじゃん。」
「うん。」
「今日はこれくらいにして明日、また行動しよう。今日も竜馬の家に泊まっていいかな?」
尊氏か竜馬に聞く。
「え~っ、ここからなら桃子んちが一番近いじゃん。」
ぱこん。
竜馬が優子に叩かれる。
「女の子の家に泊まりたいなんて10年早いわ。」
「いや、そうゆうつもりで言った訳じゃ・・。」
結局、みんなで竜馬の家に行くことになった。だが今行ってもまだみんな起きている。だからみんなが寝静まるまでコンビニで時間を潰した。
「あれ?鍵が掛かっている。何で?」
竜馬が勝手口の扉を回しながら呟く。
「これはもしかしたら偽者に締め出されたか。」
「そうね、手紙にもあったじゃない。意地悪してくるって。」
大地と優子が推測した。
「どうする?やっぱり私の家に行く?」
桃子が大地に聞く。
「う~ん、偽者同士で示し合わせていたら全滅かもしれないしなぁ。どうする、タカジー。」
「うん、これはちょっと僕たちが甘かったかな。」
尊氏は偽者からの妨害に対応を迫られた。
「でも、あいつら何でこんな事するんだろう?単なる嫌がらせか?荒神の命令なのかな。」
「俺たちが死ねば完全に入れ替われるんじゃないの。漫画なんかだと大抵そうだよ。」
竜馬が以前読んだ漫画のネタを応える。
「さて、全然知らない家にお邪魔するってのもあるけどどうするべ。」
「下手に動いて偽者に手を知られたくない。他人にも迷惑がかかるかもしれないからな。」
翔太の提案に尊氏は難色を示す。
「え~っ、ちょっと居間で寝かせて貰うだけだぜ?」
「翌日、その家を大地の偽者が放火するかもしれない。」
「うわっ、あいつならやりそう。」
「直接関われないから、私たちの良心に揺さぶりを掛けてくるのね。有り得そうだわ。」
桃子も他人の家に泊まることに危うさを覚える。
「仕方ない。今夜はコンビニで寝よう。どうせ朝には弁当を貰いに行くんだ。」
「あそこって冷蔵庫の音が結構でかいんだよなぁ。」
「あら、竜馬は外で寝てもいいのよ。ダンボールは貸してあげるわ。」
「ううっ、おっかないから一緒に寝かせてください。」
優子の提案に竜馬はあっさり屈服した。




