賞味期限過ぎ弁当争奪戦
現在時刻午後11時50分である。コンビニの店員は深夜時間帯の弁当入れ替え中だ。その作業風景を大地と尊氏と桃子が隣で見ている。勿論店員は気付きもしない。他の5人は竜馬の家の居間で待機だ。竜馬は偽者に会うのを嫌がったがやはり固いコンクリートの上では寝たくない。竜馬の家なら少なくともカーペットの上で寝れた。
「優子の話では破棄される弁当は一般用のごみとして出されるそうだ。勿論事業所ごみシールを貼ってね。ただすぐには外に出さない。回収車がくるまで店内にストックし直前に出すらしい。」
「何でまた?」
「カラス対策さ。後、浮浪者がごみを漁らないようにするためでもあるらしい。」
「ここら辺にはそんなおっちゃんはいないぜ?」
「いや、僕も知らなかったが一所に定住しないであちこち動き回る人たちが何人かいるらしい。」
「ひゃーっ、驚きの新事実。冬はどうすんだその人たち?」
「分からんよ。知りたいとも思わんね。」
「私たちはストックされた袋からお弁当を貰うのね。」
「そう。ただどの時点で所有権がなくなるのかまだはっきりしていない。もしかしたら回収車に放り込まれるまで駄目な可能性もゼロじゃない。それを今日は確認する。」
3人はいつになく饒舌だ。今の会話も既に3回目である。何故かと言えば気を紛らわすためだ。昼にクッキーとお菓子を食べたとはいえ8人で分けあえば1人分など高がしれてる。みな空腹なのである。そんな状態で食べ物の側にいれば目が釘付けになっても仕方がない。しかも店内には煮物のいい匂いが漂っている。これはきつかった。
「くそっ!金は持ってるんだ!なのになんで使えないんだよ!オデン食いてぇ~。」
大地は暗黙の禁を破り食べ物の事を口にしてしまう。
「もう、敢えて黙っていたのに大地はこらえ性がないんだから。」
「でも、確かにこの香りは腹にくるな。拷問に近いよ。」
「食べ物って大切だったのねぇ。お説教くさい人がテレビでよく言ってたけど今なら納得できるわ。」
「ああっ、フードロス?でもそれがあったからこそ今の僕らに希望があるんだけどね。」
「おっ、終わったみたいだ。付いていこうぜ!」
3人は店員についてバックヤードへ向かう。店員は店内から持ってきたあと数分で期限切れになる弁当をごみ袋に入れ替え封をした。そして店内用のごみ入れカーゴに放り込み店内に戻る。
「もっ、もう開けてもいいかな?」
大地が我慢できないといった風に尊氏に聞いた。
「そうだな、時間的にはまだ1分あるけど実験だ。1つ食べてみてくれ。」
「ヒャッホー!これ!このハンバーグ弁当食べちゃっていい?」
「どうぞ、お好きに。」
大地はビニールを破るのももどかしい様に早速ハンバーグにかぶりつく。だが結果は失敗。口に入れた瞬間に弁当は大地の手と口から消えた。
「確認その1。賞味期限切れ時刻前の弁当は食べられない。」
尊氏が冷静にノートに書き出す。大地は情けない顔をしたまま固まっている。
「大地、もう少したてば時間切れになるわ。そんなにがっかりしないの。」
桃子が大地を慰めた。
2分後、再度挑戦する。しかし結果は同じだった。
「確認その2。賞味期限後でも店内にある限り弁当は食べられない。」
「桃子・・、俺くじけそう・・。」
「まだ望みはあるわ。後は30分おきに確かめるんだっけ?」
桃子が尊氏に確認する。
「うん、まあ、この結果からあまり期待できないが外に出す前に所有権が消滅することも排除できない。できれば外のゴミ箱は漁りたくないからな。がんばれ大地。」
「ううっ、結構キツイぜ。腹が鳴りっぱなしだ。」
「回収車が来るのが午前5時。4時には交代の武士たちが来る。それまで3人で実験だ。」
「大地、なんだったら次は私がやるから漫画でも立ち読みしていたら?気が紛れるわよ。」
「ううっ、すまねぇ。ハンバーグを口まで運んだものだから胃がもう消化モードだ。水飲んでくるよ。」
だがその後の実験も全て失敗した。そうしている内に武士たちがやってくる。
「どうだった?」
「全滅。ちょっと旗色が悪いな。だがこれは予想の範囲内だ。本命は外に出した時だからな。」
「大地は?」
「水の飲みすぎでグロッキーだ。今トイレで桃子が指を突っ込んで吐き出させている。あいつつえーな。肝っ玉かあさんだ。」
「はははっ、桃子は長女だからな。弟たちの世話で慣れているんだろう。うん、ではここからは僕たちがやるよ。何か注意する点はあるかい?」
「口に入れた途端消える。空腹なせいかあれが結構きつい。気を付けてくれ。」
「分かった。僕らも腹が鳴ってあんまり寝付けなかったよ。君たちは眠れそうかい?」
「昼寝をしておいたが結構きている。空腹も睡眠欲には勝てないのかな。」
「まっ、それもまだ健康な証さ。これが駄目だったら次の手を考えよう。」
「それじゃ頼む。僕は桃子たちを連れて竜馬の家に戻るよ。」
「ああ、未来が心配している。早く戻ってやってくれ。」
尊氏たちが店を出るのを見送った後、武士と翔太と優子は実験を再開した。
そして5時になる。店員が弁当の入ったカートを外に持ち出す。そして外のゴミ箱に入れ替え始めた。
「くそっ、こいつなんでぎりぎりまで外に出さないんだよ!もう回収車があそこまで来ているのに!」
翔太は300メートルほど先の道路を見ながら焦っている。
「間に合うかしら?」
優子も心配そうだ。
「もう開けちゃってもいいんじゃね?というか開けよう!」
翔太が店員が捨てたごみ袋をごそごそ開け始める。そして中から弁当を全部取り出した。
「武士、こっちを試してくれ。優子はこれだ!」
気が焦っているのか翔太は二人にも弁当を渡す。三人は急いでビニールを剥ぎ弁当を口にする。
「!!」
弁当を口にした三人の目が丸くなる。
「食べれる!もぐもぐっ。食べれるわよ、武士!」
「うん、成功だ!よし!翔太、弁当は全部持っていくぞ!回収車が来る前にここを離れよう!」
「なっ、なんでだよう?」
「回収車が来た途端、弁当の所有権があっちに移るかもしれない。石橋は叩いて渡るんだ!」
「うわ~ん、武士まで難しいこと言い始めたよ~。」
そう言いながらも弁当を抱えて走り出す。弁当は6個あった。その他にもおにぎりが5個、サンドイッチが3つあった。これだけあれば全員の腹を満たすことが出来る。サンドイッチとおにぎりは潰れていたが気にしている場合ではない。三人は一目散で回収車から遠ざかる方へ走った。
十数分後、三人は祠のところに付いた。そこには既に5人が待っている。三人の姿を見てその手に弁当が抱えられているのを知ると全員が駆け寄る。
「成功か!」
「おうっ、危ないところだったぜ!でも全部持ってきた。みんなで食おう!ほれ、未来、スパゲッティーがいいか?のり弁もあるぞ!」
「翔ちゃん!俺、これ食っていい?いい?」
「おう、でも弁当を食べたやつはおにぎりは駄目だぞ。」
「翔太、このサンドイッチ潰れちゃってる。」
「いや、あの店員ガサツでさぁ。お嬢、店員教育がなってないんじゃねぇの?」
ぱこん。
みんな2日ぶりのまともな食事に道路の上ということも忘れてはしゃいでいた。




