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郷土の由来を調べてみよう!

夏休みまで2週間を切り誰もがそわそわし始めた頃、担任の先生は夏休みの自由研究に役立ててほしいと野外授業を計画した。テーマごとにグループを作り協力して2学期に発表させたいらしい。

クラスでは仲良しグループが幾つかに別れテーマをあれこれ出し合っている。そんな中、尊氏たかうじは前から気になっていた地元の変わった地名の由来を調べることに決め有志を募った。すると7人がこの話に乗ってきた。

 大地だいち

 翔太しょうた

 竜馬りょうま

 武士たけし

 桃子ももこ

 未来みらい

 優子ゆうこだ。


「これは意外なメンバーが集まったな。大地や翔太は自分のグループはいいのか?」

尊氏が二人の男子に聞く。二人はこのクラスの男子勢力を三分するリーダー格の内の二人だった。

「いいんだよ、あいつらもたまには俺抜きでやらないとな。」

「ふっ、この前、誠二に駆けっこで負けて以来、今いち居ずらいんだろう?なんたってやる前に大口叩いちゃったもんなぁ。」

大地に対して翔太がからかう。

「うるせー、あれはたまたま調子が出なかっただけだ。次は負けない!」

「そうゆう翔太こそ、なんでこっちに来たの?あなた亮介たちと仲いいじゃない。」

大地に対し更に追い討ちをかけようとした翔太に優子が割り込む。

「いやぁ、ほら亮介って真里子が好きじゃん。でも俺昔、真里子からのチョコを突っ返しちゃったからちょっとぎくしゃくなのよ。そんな俺が居たら真里子をグループに呼べないじゃん。だからこっちに入れてちょんまげ。」

翔太が言ったバレンタインの件は2年も前のことだ。もう、誰も覚えていない。そんな理由を敢えて出してくるのは何か別の事を隠しているのかもしれない。

翔太の話を未来の隣で聞いていた桃子は、少し勘ぐったが別に気にするまでも無いかと聞き流した。初めに聞いた優子は今年になってから転入してきた転校生なのでバレンタイン事件自体を知らない。でも如何にもありそうな話だったのであっさりと納得してしまった。


「まぁ、いつものグループ割とは違うけどみんな自分から集まったんだからちゃんとやってくれよ。」

尊氏がみんなに釘を刺す。確かにこのメンバーはいつもに比べて異様だ。桃子や優子だって女子グループの頭を張ってもおかしくない位の人気者なのだ。大地、翔太、桃子、優子。このクラスの上位ランカーが何故か一同に集まってしまった。武士や尊氏だってセカンドポジションくらいの人望はあるから、傍から見たらゴールデンチームに見えるかもしれない。だが、一群を率いてきたやつらが集まれば些細なことで衝突も起こるだろう。これは失敗かなと尊氏は思った。


「なんだ、金賞でも狙うつもりか、タカジーは。」

尊氏は男子の間ではタカジーと呼ばれている。別に短くなってもいないがこちらの方が呼び易いのか、また本人も別に気にしていない為定着してしまった。

「それは出来次第だろう?中途半端な研究では結果はついてこないぞ。」

「ありゃりゃ、地図で調べてお仕舞いと思ったんだけど当てがはずれたか。」

言葉とは裏腹に翔太はそれ程気にしていないようだ。単なる会話のジャブだったのだろう。

「武士んちの方は結構変わった地名があるよな。地登りとか空落とか。」

「そうだね、言われてみればそうだ。今まで気にもしなかったけど確かに変わっているかも。」

「そういえば私の近所にも大きな石の祠があるのよねぇ。別に神社っていう訳ではないみたいなんだけど。あれって誰がお世話しているのかしら?」

「そりゃ、近所のばあちゃん、じいちゃんたちさ。大方、戦争から帰ってこなかった若者たちの霊でも祭っているんだろう。」

「あなたたち、地元のくせにその程度の認識しかなかったの?もしかして校歌の意味も分かってないんじゃない。」

「いや~っ、優子さまはお手厳しい。となると変なフィルターが付いていないという事で、優子さまに調査の絞り込みを任せた方がいいんじゃね?」

「さんせーい!」

翔太のおふざけ発言に竜馬が乗る。

「りょ~まぁ、たまには自分で考えないと脳みそが溶けて鼻から出て行っちゃうわよ。」

「いや、心配めさるな。竜馬には必殺『鼻から牛乳』が在り申す。」

「でへへへへっ。」

「ばか。竜馬、あんた翔太なんかとつるんでいるからアホが直んないのよ。私が鍛え直してあげるから放課後、図書室から郷土史の本を借りてきなさい。武士と大地は役所の図書室を調べてきて。そして明日、摺り合わせをしましょう。」

「そうね、私と未来はネットを調べてみるわ。」

「あっ、俺もそっちの方が・・。」

「あんたはどうせ全然関係ない所しか見ないでしょ。そうゆうのは自分ちでやって。」

尊氏の懸念を余所に何故か計画は進んでゆく。ここら辺はリーダー経験者の成せる技か。


その時、教室の一角で歓声が挙がった。みんなが一斉に振り向く。そこには男子グループ残りの一派である『臣人とみひと』グループが女子の一派である『みお』グループをはやしてからかっていた。

「またかよ、あいつも嫌われている事を判れよな。」

大地は口では言うが止めようとはしない。これは怖じ気付いたのではなく大地が間に入ると余計に話がこじれるので関わるなと、優子に釘を刺されている為だ。大地は目で優子に訴える。


-お前が言ったんだからお前がなんとかしろよ。-


そんな大地のアイコンタクトを睨み返し、優子は臣人に向かって歩き始めた。それを武士が押し止め優子の前に出る。

「じんじん、今のはちょっと見逃せないな。何だったら僕が相手になるよ。」

そう、臣人は名前がかっこ良すぎるのでみんなからじんじんと言われていた。そして武士はグループこそ作らないけど怒らせると怖いことは2年前にクラス全員が目にしている。そんな武士の恫喝に対してじんじんは忽ち矛を収める。

「いや、その、うん、ちょっと調子に乗りすぎた。ごめん、澪。」

「いい加減にしてよね。一々絡まないで!」

澪は一戦交えずに収束してしまった事に、怒りを振り下ろす先を見失ってお冠だが武士の仲裁では致し方ない。一言、言い放ってから席に戻った。


武士は優子を促してグループに戻る。本来なら大地や翔太が冷やかそうなものだが二人はこの件に触れようとしない。なんせ武士は身長、体重、共にクラスで一番だ。学生服を着せたら誰も小学生とは気付かないだろう。しかも、普段の武士は温厚で優しく公平だった。そんなやつをわざわざからかうほど二人は馬鹿ではない。そうゆう意味では武士はクラスで一番の頼れる人気者なのかもしれない。


暫くすると先生が資料を手に教室へ戻ってきた。先輩たちの過去の発表作品やその研究資料などだ。あくまで参考程度に見てほしいと言っているが、実際はどうしても案が浮かばないグループへの救済措置だ。2、3人でグループを作った生徒たちが自分たちの手に負える物はないかと物色し始める。


「では、僕らはこの案で進めるということでいいな。」

尊氏たちのグループは主題がはっきりしていただけにあっという間にまとまった。

「いいんじゃね。下調べがちょいと大変だが、資料は多い方が信憑性が上がるからな。」

「グループリーダーは尊氏でいいわよね?」

「いいんじゃね。というか俺に任せたら金賞とれないよ?」

「地名もそうだけど苗字も調べると変なのがあるらしいわ。」

「おっ、その番組は俺も見たよ。でもあれって本当かなぁ。」

尊氏はみんなが自分にリーダーを任せておしゃべりモードに入ってしまった為、反論する間もなくリーダーとなった。

「では、これで先生に見せてくる。あんまり大きな声で喋るなよ。」

「ばか、先生がいる時に騒いだりするか!さっさとOKを貰って来いよ。」


取り敢えず8人は発案者の尊氏をリーダーにして、先生に計画書を提出し、了解とアドバイスを貰う。

「中々面白いところに目を付けたね。地名に関しては郵便局あたりのホームページが一覧もあって集めやすいかもしれない。ただ由来は郷土史か地元の方に聞くのがいいだろうね。後、注意点は色々な説が出てくるかもしれないけど、どれが正しいと決め付けないことだ。ネット系の無責任な話じゃなくて、みなさん言葉で伝承しているものだからね。そこら辺に気を付けて調べなさい。」

先生のアドバイスは的確だったが、あまりにも的確すぎて尊氏はちょっとショックを受けた。しかし、顔には出さない。

「はい、分かりました。ありがとうございました。」

尊氏は先生に礼を言いグループに返る。しかし話を切り出さない。

「どうだったの?」

優子が中々結果を報告しない尊氏に痺れを切らして問いただす。

「完璧。名前の集め方や調べ方も教えてくれた。」

「なんだ、もったいぶるから中教審あたりからストップを掛けられたかと思ったぜ。」

「翔太、この頃そればっかりね。いい加減次のブームを考えたら?」

「なんだよ、お前らこそ芸人の使い捨ては止めろよ。可哀想じゃん、俺。」

尊氏が神妙な顔をしているので翔太たちはそれとなく話題をそらした。

「先生のアドバイスが結構的確でさ、僕のオリジナルと思っていたからちょっとショックだったんだ。」

「ああっ、もしかしたら先輩たちも同じ様な事を調べてたのかもな。」

「んーっ、2学期の自由研究発表会は結構見ていたつもりなんだけど、似たようなのは無かったと思うなあー。未来も覚えがないよね?」

桃子に話を振られた未来はこくこくと頷く。

「まっ、どっちでもいいさ。先生の了解は得たんだ。タカジーもそんなことくらいでしょげるなよ。アイデアはアイデア。そこから導き出す結果で勝負だろう?」

この地名の由来調査は自分が最初に気付いたと内心驕おごっていた尊氏だが、そんな事はまず無いのだと歴史の厚みに教えられ、且つ仲間の気をおかない発言に慰められた。


「ほいじゃ、来週の野外授業までにテーマを絞り込んで、ピンポイントで裏を取ろう。結構奥が深くなりそうなテーマだからな。あれもこれもと手を出すとまとまらないぜ。そしていいネタが取れたらそのまま検察に証拠物件を渡してお終い。楽しい夏休みの始まりだ!」

翔太の芸風は少し大人びている気がする。警察じゃなくて検察とは意味が分かっているんだろうか?

「それって、失敗したら夏休みも続けるっていう意思表示と見ていいのかしら?」

「ううっ、桃子、それはないぜぇ・・、ゆるしてちょんまげ。」

私、ネット環境を自前で持ってないので月1回のネカフェでの予約投稿になります。

ご質問や感想へのリアルタイムでのお返事は叶いませんのでご了承ください。

本作品は全37話+登場人物紹介となります。

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