表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐の嫁入り  作者: 月花
始まり。
5/19

お願い。その2

前回の簡単なあらすじ。

月音を連れ戻しに来た佐江であったが、ともるが起こした偶然によって、彼女は気絶してしまっていた。

今回は佐江視点で、短いです。


タイトルを都合上変えました。(2017年3月5日)

 


「うっ……頭がズキズキする……」



 山沿いの道で倒れていた佐江(さえ)は頭を押さえながら立ち上がった。

 一体自分はこんなところで何をしていたのだったか。

 ふと、佐江は思い返す。顎に手を当て、彼女は数十分間唸り続けたが、まるでそこだけ記憶が抜け落ちてしまったかのように思い出せなかった。

 これ以上ここにいても、ただいたずらに時間を浪費するだけだと判断した彼女は、仕方なく、帰ろうときびすを返した。

 瞬間、足に何か当たる。何だろうと思ってその『何か』を手に取り、目を見開いた。


 瞳に、血のついた丸い玉ねぎが映る。


 彼女はそこからすべてを思い出した。



「月音様を探さなくては……!」



 そうだ、私は月音様を連れ戻すために、ここまで降りて来たのだった。

 そして、月音様と一緒にいた男に気絶させられたのだ。

 この玉ねぎに血がついていることと、私の頭から血が出ていることを(かんが)みれば、男が玉ねぎを使って自分を気絶させたことは間違いない。

 食べ物をこんなふうに使うなんて……。

 言い伝え通りの野蛮さに眉が寄る。


 佐江には、あの男が何を考えているのかわからないが、人間には違いない。何をしでかすかわかったものじゃないのだ。

 今頃、月音様は男に乱暴されているかもしれないし、変態的な行為を要求されているかもしれない。

 焦燥感はおのずと彼女をたきつけた。空気中に残る香りを頼りに、佐江は見慣れぬ世界へと駆け出した。



 1時間ほど探して──見つけた。



 電柱に半身を隠し、二人の様子を伺う。

 どうやら佐江が思っていたような扱いはまだ受けていないようだが、安心はできない。ああしているのは人気の無いところへ月音を連れ込み、密かにと考えているから、かもしれない。

 そう考えると、やはり人間は野蛮だ。

 早く助けたいが、さっきと同じように手を引くやり方では月音様は嫌がるだろうし、そこに男の加勢が加われば同じ結果になりかねない。

 まだ野菜(きょうき)も持っている訳だし……。


 やはり、母上秘伝のドロップキックで男を仕留めてから、月音様を連れ戻すべきだ。


 そう決めて彼女が出ていこうとしたところで、



「──灯さん!」



 と、月音の声が聞こえた。距離が離れていたことですべて聞き取ることはできなかったが、佐江はその名に出しかけた足を止める。

 佐江は先日、ともるという人物の名前を月音の話の中で聞いていたからだ。

 月音は灯に助けられたおかげで無事に戻ってこれた。もし彼が月音を助けてくれていなかったら今頃どうなっていたかわからない。

 そう考えると、あの男は案外信用できるのではないか。

 彼女の頭にそんなことが浮かぶ。


 佐江はもう一度半身を電柱に収めて考えた。

 日々退屈している月音の顔と、今の月音の生き生きとした顔を頭の中で比較しながら、考えた。


 私自身は外にうといが、あの男ならば……。



「あの男が月音様の連れになってくれれば……!」



 月音様が日々に退屈しなくて済む、と佐江は考えた。

 もちろん、彼を完全に信用したわけではないし、灯と聞こえたのは実は聞き間違いでしたーなんてこともありうる。

 だから佐江は、彼に期待しながら、月音を見守ることにした。 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ