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狐の嫁入り  作者: 月花
広がり。
13/19

気になるあの人の行方3

 多くの人が集まるショッピングモールの中、曲がり角から覗き込むようにして、服屋から二人が出てくるのを待つ佐江と亜紀。道行く人が不審な行為に走る二人に訝しげな視線を送るも、そんなことはお構いなし。



「……ねえ、ここからじゃよく見えないんだけど、やっぱりもっと近づかない?」


「先程も言いましたが、それは危険です。視力のいい私に任せておいてください」



 何度目になるかわからない亜紀のお願いを、佐江は聞き届けてくれない。その理由は亜紀にも理解できていた。

 いくら灯と月音の状況が気になるからといって、ストーカー紛いの行為は悪い行いに分類される。見つかってしまえば、幼馴染の近しい関係性が失われてしまう可能性がある。

 だが、それ以上に亜紀は彼らが何をしているのか気になっていた。



「お願い! 気になってしょうがないの!」



 だからこそ引き下がらない。なんとか佐江の同意を得ようとお願いし続ける。

 すると、佐江はそんな彼女の言葉を聞いて、しばし、瞑目(めいもく)した。

 佐江にとって亜紀の気持ちは容易に想像できる。あの(ともる)に気絶させられ、月音を見失った時の自分の焦りようを彼女は思い出し、



「……しょうがないですね」



 渋々といった様子で了承した。

 亜紀は一瞬驚いたような顔をした後、顔をニヤけさせた。



「やっぱり……佐江さんも気になるんじゃないですか?」


「なっ……!? 気にしていませんよ! これは、その、ここからでは死角で中もよく見えないですし!」

 


 本音を言えば、佐江だって二人の様子を見たい。照れ隠しするはずが、よくわからないうちに肯定してしまった佐江に尊さを覚えて、亜紀は心をほっこりさせる。

 佐江の指示に従い、曲がり角から出て、向かいの廊下と繋がる渡り廊下を二人で渡ろうとした、その時。



「きゃっ……」



 佐江は亜紀を押し倒した。

 一体何事かと思い、佐江を見つめるが、顔は服屋の方を向いている。



「……」



 佐江は亜紀の上体から退くと、渡り廊下に設置された()りガラスの柵から灯と月音のいると思われる方を覗き込む。

 その行為を見て亜紀は察した。

 二人が服屋から出てきたらしい。

 目線でこちらに来るように促す佐江に従って、亜紀は四つん這いでガラスの柵に近づき、彼女に倣らう。



「え……?」



 亜紀は自分の目を疑った。

 月音の服装が先ほどとは全く違うものになっていたからだ。

 あの服は灯が買ったのだろうか。いや、でも、それなら制服はどこに消えたのか。ゲームセンターで獲得した数本のうめぇ棒を除いて、二人とも手ぶらである。

 亜紀が混乱している内に、二人は前に進んでいく。



○○○



「いやー、いい映画だったね」


「以前来た時はこんなものなのかなって思ってましたけど」


「そんなこと思ってたんだ……」



 僕と月音さんは、つい先ほどまで映画を見ていた十三番スクリーンのある場所から出た。

 彼女の吐露(とろ)に地味にショックを受けるも、彼女はすぐさまフォローしてくれた。月音さんの気遣いが身にしみる。

 温かみのある照明に照らされた月音さんの晴れやかな顔を見るかぎりと、今回は挽回できたと思いたい。

 映画を見ることができるスクリーンのある部屋に続く入り口が密集した通路から、僕たちは出た。広く薄暗いエントランスには映画を見る目的で集まった大勢の人々が行き交っている。

 そこまで来て、一瞬言葉少なげになった彼女は、心なしか赤みがかって見える顔で、灯さん、ちょっといいですか、と言い、何処かに行ってしまう。突然のことに少し戸惑ったが、人の合間をスルスルとかい潜っていく彼女の行き先を認めて、察する。月音さんが戻って来たときに困らないようにするため、ずっと同じ場所に待機しようと決意。


 五分……。


 十分……。


 十五……。

 

 それなりの時間が経過したが、月音さんはまだ帰ってこない。気になって、彼女が向かった方向を向いて見ると……。

 店員のような服装をしている人に、月音さんは話しかけられていた。彼女の顔は優れない。

 話しかけてきている店員の服装にどこか見覚えを感じながら、僕は月音さんの元に駆け寄った。



「月音さん! どうしたの!?」


「灯さん! よかった…」



 僕が声をかけると、彼女の顔が明るくなる。反対に、怒った様子の店員は、僕を睨みつけた。

 一体何があったんだろうか。

 穏やかでない雰囲気を醸し出す店員に、そう思わずにいられない。



「ちょうどいいところにきましたね、折角ですし、共犯者としてあなたにも来ていただきましょうか」



 共犯者。その言葉の示すところは、僕と月音さんが犯罪を犯したと、この女性店員は言いたいのか?

 訳の分からない言い掛かりに聞こえたが、一拍置いて気づく。



「待ってください! これはその、違うんです!」



 どうしてこの店員と話が噛み合わないのか、悟った瞬間に僕は否定を口にしていた。



「証拠が目の前にあるのにどの口が違うと言っているんですか! その子が着ている服は、うちの服ですよ!」



 それなのだ。今月音さんが着ている服は先ほど服屋「ジュテーム」で試着した衣服の一つだ。会計はしていないが、決して万引きしてきたわけではない。これは、月音さんの変身が生んだ賜物(たまもの)なのだ。

 だから、僕たちは店員の指示に従ってはいけない。従ってしまえば、それは冤罪になってしまうからだ。

 正当性は確実にこちらにある。でも、今の状況を客観視した場合、僕たちが犯罪を犯したと見えるのは確実だ。

 どう説明すればいいんだ……!



「まだ支払ってないでしょう!」



 迷ってる場合じゃない。とにかく弁明しないと!



「わっ!?」


「きゃ……!?」



 僕と月音さんは店員に腕を掴まれ、そのまま強引に引っ張られた。



「違うんです、僕たちは何も取ってません!」


「話は後で聞きます、とにかく来てください」



 懇願するように弁明しても、まともに取り合ってもらえない。

 不安に染まった声で月音さんは僕の名前を呼ぶ。彼女を安心させる言葉が見つからないうちに、僕たちは薄暗い映画館エントランスを突き進んでいく。

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