過去その1
『かーごめかごめー、籠のなーかのとーりーは、いーつーいーつ出やーる…………』
放課後に同級生と一緒に遊ぶのが常で、あの時はかごめが自分たちの流行だった。
あの日は曇り空が広がっていただろうか。かごめで遊んでいた時、一人の女の子が木の陰からこっちを見つめていることに僕は気づいた。
彼女の目は金色で、服装は白い着物と頭巾を被っていたから、変な子だなー、と思ったけど、ものほしそうな瞳で見つめてくる彼女に僕はこんな感想を抱いた。
『あの子は一緒に遊びたいんじゃないか』ってね。
僕は彼女に声をかけた。うんって言うのかと思いきや、横に首を振ったっけ。
余計なお世話だったかなって最初は思ったけれど、次の日も、また次の日も、彼女は毎日やってきた。そしてみんなが解散するまでそこにいる。じっと見てくる。
やっぱりこの子は遊びたいんじゃないのかと思ったが、一度、そうではない、と意思表示をされた以上、何度も言うのは気が引けた。
しかしながら、どうも納得がいかなかったのも事実で、輪の中に入らないのであれば、何故にここに来るのか、解らなかった。
僕は探求心が強くて、解らないことをそのままにしておけない質だったので、ある時彼女に聞いた。
そうしたら、どうやら、彼女の中ではやりたいけど、できない事情があるらしいということが分かった。わけを聞きたいと思ったが、その理由も言えないような様子だったので断念した。
話を聞いた後も、彼女の日常は変わることがなかった。
毎日労力を割くほど強く願っているのに、背後にある理由に押しとどめられてしまっている彼女が僕にはとても不憫に思えた。
だから、ある時声をかけたのである。
「ほら、おいでよ」
「……え、ちょっと!?」
「いいからいいから」
適当なことを言って僕は彼女の手を引いた。驚きの目を向けられはしたが、抵抗はしてこなかった。
『かーごめかごめー、籠のなーかのとーりーは、いーつーいーつ出やーる…………』
初めは戸惑っていたけれど、徐々に彼女は笑顔になり、最終的には誰よりも楽しそうにしていた。その時の光の燈った目は今でも忘れない。彼女がうれしかったのは間違いないだろうが、僕自身もとても幸せな気持ちになった。
みんなで手を繋ぎ合い、みんなで一緒に歌った。僕は彼女の笑顔が好きになった。
それからの学校生活は、公園に遊びに行くことが一番の楽しみになっていた。今考えてみると、これが俗世間でいう、いわゆる恋ってやつだったのかもしれない。
それから、数か月がたったある日のこと。僕と彼女以外のみんなが先に帰った後だった。
「もう、一緒にいられない」
突然彼女にそう告げられた。わけがわからなかった。
「え、それって……冗談だよね!?」
何かに懇願するように彼女の顔を見たが、視線は逸らされる。
「ううん、違うの……私は、あなたとは、あなたたちとは一緒にいちゃダメ、だから……」
顔を暗くした彼女は苦しそうに言葉を絞り出す。なぜ、どうして、そういった言葉がぐるぐると頭の中を回った。いつも彼女は楽しそうにしていたのに、嫌な顔をしていた時なんか一時もなかったはずなのに。その言葉に僕は混乱した。
「どうして?今まで嫌だったの!?嫌だったらそう言ってくれれば僕は……!!」
「初めから言ってたじゃんか……!」
「……っ!」
思わず言葉に詰まる。何かを言おうとしても、なんにも出てこなかった。
確かにそうだ。彼女は初め、僕たちと一緒に遊ぶことを拒んでいた。それを無理やり輪に入れたのは僕だ。たとえ、それを彼女が容認していたとしても、責任は僕にも大いにあった。
何かを言わなければならない。でも、何といえばいいのだろうか。わからなかった。
「……ごめん」
ようやく口から出た言葉はたった三文字の謝辞だった。
彼女の顔に次第に、複雑な感情が積もっていくのが見て取れた。俯く彼女。前髪に隠れた瞳から、悲しみがあふれているのだろう、頬は、涙に濡れていた。
去りゆく彼女。どんどん小さくなる背。心は焦燥感に駆られた。でも、追いかけることは叶わなかった。
「泣かせてしまった……」
追いかけようにもショックで足が動かなかったから。
僕は、呆然と立ち尽くす。彼女を止めようと前に伸ばしたその手を、力なく、下げた。
読んでいただき、ありがとうございます。
連載を書くのは初めてで、緊張していますが、ゆったり頑張っていこうと思います。