俺が好きな人は
恋は人を変える。
恋をすれば普段のなにもない景色が輝いて見える。
恋をすれば毎日が楽しくなる。
恋をすれば些細なことがとても嬉しくなる。
恋をすれば些細なことでとても悲しくもなる。
恋をしてしまったら、叶わないと分かっていても夢を見てしまう。
「おーす、おはよー」
「おすおすおーす、本宮今日もまた遅刻ギリギリだなぁ」
「ほっとけ遅刻ってのはギリギリでもしなきゃいいんだよ」
「そりゃあそうだけど」
そう言って伊藤は笑った。
ここまではいつもと変わらない日常。
いつも通りの毎日。
「おはよー本宮君」
声かけられ思わずドキッとする。
「おーおはよー成海」
なるべく平静を装おって俺はそう返した。
これだって変わらない日常であるはずなのに俺は未だになれない。
いや、むしろ日に日に悪化しているような気すら覚える。
俺、そのうち心臓破裂する。
なんて頭の中で馬鹿なことを真面目に考える自分に笑いそうになる。
「ん?朝から良いことでもあった?なんだか嬉しそうだよ」
どうやら顔に出ていたらしい。
お前のことで馬鹿なこと考えて笑いそうになったんだよとはもちろん言えない。
「や、別になんでもねえよ」
ついつい素っ気ない返事をしてしまう。
「気にすんなって高橋、本宮が気持ち悪いのはいつものことだろ」
ケラケラと伊藤は笑う。
「お前、後で、ぶっ飛ばすからな」
本当にうるさいやつだ。
「やー本宮こわーい」
そう言ってまたケラケラと笑う。
うん。
こいつマジでぶっ飛ばす。
「あはは、相変わらず本宮君と伊藤君は仲がいいなぁ」
成海が微笑ましそうに言う。
え、なに可愛い。
笑ってるとやっぱ可愛いよな。
「まあ、付き合いも長いからねーそりゃあなんだかんだで仲良しですともよ」
「ただの腐れ縁だ」
「つれないこと言ってくれるじゃない」
「そうだよ本宮君仲良きことは美しきかな、だよ」
「美しいねぇ」
伊藤とは中学からの付き合いでたまたま進学先が同じだったり、進学したらクラスが同じだったり、やっぱただの腐れ縁だと思う。
美しい友情とかよく分からん。
「美しいと思うよ、仲良しな2人を見てると少し羨ましいなって思うから」
「成海もそうだろ?」
「えへへ、ありがとう本宮君」
ぶっきらぼうに言った俺の言葉に嬉しそうに成海は笑った。
そんな嬉しそうにするの反則だろ。
自分の顔が赤くなるのが分かる。
ヤバい、顔見られたくないな。
「おう、お前ら席つけー予鈴なるぞー」
そう思ったタイミングでガラッとドアが開き担任が入ってくる。
「予鈴なるぞーってまだなってないよユッキー」
「伊藤、担任様に向かってユッキーはやめろ、ちゃんと名前で呼べ」
「はいはーい友紀人せんせー」
伊藤が担任と話してる間に俺は席に着く。
と言っても立っていただけなので座るだけなんだが。
助かった。
急に顔赤くなったら変な奴だと思われそうで嫌なんだよ。
あぁ、でもホームルーム始まると成海が常には見えなくるんだよなーと凹む。
見られたくないのに見れないのは嫌だと言うのはわがままだろうか。
そう思うなら毎朝もう少し早く来れば良いだけなんだろうが、それは俺の身体が許さない。
まあ休み時間もあるし放課後もあるからいいか。
キンコーンカーンコーン。
予鈴が鳴る。
「よし、じゃあ予鈴も鳴ったことだしホームルームはじめるぞー。今日はお前ら楽しみの我らが九条高校の体育祭について話す」
おぉーだの、えぇーだのクラスから声が上がる。
「ユッキー男子高校で体育祭なんて全然楽しみなんかじゃないよー。可愛い女の子いてこその体育祭だよー」
「そんなこと言うな伊藤、数少ない高校の行事だ楽しめ」
恋をすればつまらない行事も楽しくなる。
恋をすれば毎日が楽しくなる。
恋をしてしまったら、叶わないと分かっていても夢を見てしまう。
俺が好きになった相手とは結ばれない。
俺が好きな人は成海で。
俺が好きな人は男だった。