左回りに早くなる。
グルゥゥゥ
鳴き声と共に木々の間から姿を見せたのは、一匹の灰色の毛で覆われた大型犬のような魔物である。
警戒しているのか姿を見せた位置より近づこうとしない。
この隙に【真理】で相手を伺う。
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グレーウルフ
level:7
【筋力】12
【耐久】8
【俊敏】17
【器用】4
【知力】5
【魔力】6
【運気】7
スキル
【俊足(level2)】
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ステータスでは俺が勝っているが武器もないし、かと言って逃げるも【俊敏】が同格だから逃げ切るかどうかわからない。
それに気になるのはスキル。
【俊足】ってことは一定方向へ補正がかかるスキルだろうか…
――いや、ふざけてないよ!
生きるか死ぬかのまじだから!
お互いが相手の出方を伺い、場の空気が緊張に包まれる。
一陣の風が駆け抜ける。
これが合図になったのだろう。
グレーウルフが上体を少し下げ地を蹴り駆け出す。一目散に俺を目指して…
なぜだ!?
そこは羊狙えよ!お前ら童話とかでよくバーターしてるじゃん!
これじゃ逃げるのは無理か…
「ここは僕に任せてください」
ラムが俺とグレーウルフの進路上に割って入る。
おっ!まさか勝てるのか?
「エアーショット」
何か呟いてるなと見てると突然叫び口を大きく開ける。
開けた口から不可視の何かが飛び出し、地面に痕跡を残しながらグレーウルフに向かって突き進む。
「おぉ!」
すげー!
非常食のくせに攻撃できんじゃん!てか、こいつって俺より強いんじゃないか…
羊モドキに対して少し劣等感を抱いてしまったが、今は攻撃の行く末を見守る方が大事だ。
そして、普通に避けられました。
そらそうだよ。
正面から攻撃来たら少し横に移動すれは避けれるよ。
「ラム、もう一発だ」
数撃ちゃ当たるだろう精神で次を要求するが…
「えっ、もう無理ですよ。さっきのに全魔力込めましたから…」
つ、使えね~。
なんで一発限りをあんな避けやすい真正面狙うんだよ。
そうこうしてるうちにグレーウルフがラムの眼前まで迫っていた。
あっ、喰われたな。
「メェェェェェェ」
囮にして逃げながら念仏でも唱えようかと、方向転換しようとしたとき、体当たりにより吹っ飛ばされ叫ぶラムとその勢いのまま俺目指して突っ込んでくるグレーウルフの姿が映った。
なぜに!?バーターコンビで仲良くやれよ!
俺めがけて飛びかってくるグレーウルフを横に動いて避け、距離を稼ぐために走り出す。
グレーウルフは正面にある木を蹴り、跳んだ勢いを最大限に利用して更に距離をつめる。
前方の岩を避けるために左に逸れる。
追随するグレーウルフも同じ方向に逸れていく。
このタイミングでグレーウルフが加速し距離を縮めてきた。
これってまさかスキルか!?
やはり【俊足】の能力は…
グルゥゥゥ
―くだらないこと考えている場合じゃなかった。
グレーウルフとの距離は体一つ分までに縮まっていた。
逃げ切る方法は思い付くんだが場所がな…
いや、もうやるしかないか。
感覚を研ぎ澄まし、グレーウルフが仕留める為に距離をなくそうと瞬間を見極める。
今だ!
僅かながらに駆る音が変化したタイミングを見計らい木に向かって跳ぶ。
木にぶつかる直前で幹を蹴り、八艘飛びの要領で木と木を蹴り上がり太めの枝に掴まる。
タイミングを逃したグレーウルフは降りてこいと言わんばかりに吠える。
「なんとかなったけど、ここからどうするかだな」
逃げ切るにも手立てもなく、どうしたものかと辺りを見回すと掴まっている木の枝と幹の境にあるものが目に留まる。
「ワンワンうるせぇんだよ!これでも食ってろ。」
大口を開け吠えまくってたから俺の投げたものは勢いよくグレーウルフの口に飛び込んだ。
「よし!飲み込んだな」
どんな効果があるか期待もあり、少しワクワクする。
グレーウルフはグゥと小さく鳴き、仰向けになって倒れ痙攣して動かなくなる。
「えっ、これって即効性の猛毒なのか…」
あまりの効果に動揺してしまう。
まだ数本枝と幹の境に群生し、風に揺られる白い傘のキノコ。
風に揺られる情景はまるで嘲笑っているかのようだ。