赤い果物といえばあれだよね!
坂道を慎重に下り、木々に差し掛かる手前で一度歩を止める。
人一人が通れる程度しかない道幅なのでバジリスクのような大型の化け物が立ち塞がることはできないだろうが、木から飛び掛かれたらそこでお陀仏確定だ。
暫く木々を睨み付け、生物の気配がないことを確かめる。
「あの辺りには何もいないと思うか?」
「気配もないですし、大丈夫だと思いますよ」
自分だけでは自信が持てず、ラムにも確認してもらう。
チキンだと思いたければ思うがいい!
安全マージンを余分にとってるだけだから。
一匹居たんだから他にもいるかもしれないじゃないか。
羊モドキ(非常食)に頼ってしまった自分の脆弱な心と葛藤しながら下っていくと木々の下には小さな広場のような空間が広がっていた。
木々に差し掛かった時同様に安全かしっかり確認してから下り立つ。
「今度は何もいなかったな」
広場に降りてからも警戒を緩めず周囲を見回す。
木々立ち並び日の光を通さないのか森の中は薄暗く、先がどうなってるのか確認することは叶わなかった。
「ラム、このまま森を抜けることはできると思うか」
「無理だと思います」
即答された…
「どうしてだ?」
「ホルンの森は広大です。隣接するアガット教国やイージアン共和国を多い尽くす以上の規模で魔物の種類も多く、異世界から来たばかりで戦うことを知らないセイさんでは余程の幸運に恵まれない限り無理かと」
運頼みか…
神にでも祈ってみるか?
いや、あの変態に祈ったところで効果はないだろう。時間の無駄だ。
とりあえず、森を出るのは後回しだとして食い物はすぐに見つかるかも知れない。
ここを拠点と考えて移動してみるか。
どっちへ進んでもさして変わらないだろうと崖を背に直進する。
暫く直進すると足下にキノコが群生していた。
【真理】を使って調べる。
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シロゴブダケ
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名前しかわからね…
何をもって【真理】だよ…
「このシロゴブダケって食べれるか?」
キノコを指差し聞いてみる。
「…それ毒キノコですよ」
「…ですよね」
見た目は真っ白たがらいけそうだと思い、一つ取ってみたら傘の裏側が緑色が支配し変な凹凸があった。
―なんかグロいな。
これで毒がなかったとしても食わない自信がある。
更に進むが食い物らしきものは見つからない。
シロゴブダケは其処らかしこに生えているのだが…
いい加減空腹に堪えられなくなり神に怨み言でも言ってやろうと上を見れば赤い木の実が目に入る。
あれってリンゴじゃね?
木になっていたのは赤く丸びを帯びた果実。
一度リンゴと認識してしまうと、もうリンゴにしか見えない。
【真理】を使って調べる。
――――――――――――――
オレンジ
――――――――――――――
…なんだろう。
言葉で言い表せないけど、すごく悲しい気持ちになった。
いや、この際食えたら名前なんて関係ない。
「あのオレンジは食べれるか?」
「はい、食べれますよ」
よし、ついに食い物が手に入るぞ!
それでどうやって採るかが問題なのだが、跳んで届くような高さじゃないし登るしかないか。
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今俺の手には赤いオレンジがある。
インドア全開だった俺は苦労すること間違いなしと思いながら木登りに挑んだのだが、あれあれよと難なく登りきりオレンジを獲得することに成功した。
ステータスか!
確か【筋力】【俊敏】【器用】が高いおかげなのか?
グゥ~
原因究明したかったがお腹がもう待てないらしい。
手にもった赤いオレンジを一口齧る。
溢れる果汁、口に広がる甘み。まさにこれは…
―そう白桃だ。
「い、意味がわからん!」
「ヒィ、どうしたんですか?」
一緒にオレンジを齧っていたラムが俺のご乱心に驚き、口からオレンジを溢した。
「いや、何でもない。気にしないでくれ。」
ここは異世界。
自分の持っている常識は通じないと改め直す。
オレンジを二つほど食べ、多少空腹が満たされたこにより自分の無防備さに今更ながら気づく。
一度広場まで引き返そうと、もいで落としておいたオレンジを手に取る。
「そろそろ行くぞ」
まだ食べていたラムを急かすが…
グルゥゥゥ
どうやら既に遅かったようだ。