♪3.かかわり
ホームルームが終わった瞬間、私は席を立つ。頭を冷やして、少し気持ちを落ち着けさせなければならない。それに、早くしなければ──
「楓桜たん♪ 席、交換してくれない?」
──こうなる。捕まるのだ、猛獣に。
彼女はホームルームが始まる前に私が直したぬいぐるみの持ち主、水瀬 明奈さん。水瀬さんは妹キャラで甘え上手。そのため皆も彼女には甘いのだが……今回ばかりは違うようで。
「私は良いけど、他の人はダメみたいだよ?」
そう言うと水瀬さんは周りを見回し、そして頬を膨らませた。
「えーっ、皆もなのぉ……」
「当たり前でしょ!!」
「今回ばかりは譲れないんだから……!!」
そんな言い合いをしている女子という名の猛獣たちから離れ、私は教室を出る。
ほっとしたのも束の間。私の手が誰かに掴まれる。
「九条さん、待って!」
振り向いてみれば、そこにいたのはホームルームで先生に年齢を聞いていた彼――赤城 龍くん。
「……なに?」
「いや! あの、えっと……」
彼はパッと手を放し、目を泳がせながら言い淀んでいた。言葉を選んでいるようにも見える。何かを決心したかのように私と目を合わせると、彼は少し大きめの声で言った。
「オレと、友達になってくれませんかっ?!」
「……いいよ」
私は小さく頷いてそう返す。むしろ断る理由がない。
「やった……!! ありがとっ!」
「別に。……でも。どうして私なの? 赤城くん、たくさん友達いるじゃない」
そう言うと、彼は言いずらそうに目をそらした。
事実、赤城くんはクラスのムードメーカー的存在で、二年になってクラス替えをしたのにも関わらず、早二日にして多くの人に囲まれていた。
赤城くんはかっこいいし性格も良いから、女子はもちろん、男子からも人気がある。彼は本当に友達が多い。だから余計に不思議だった。
その時、一時間目の開始を知らせるチャイムがなる。
「あ。早く教室入って座ろう。テルちゃんに怒られる」
“テルちゃん”……たぶん、先生の朝倉 輝義の“輝”をとったあだ名だろう。
赤城くんはそう言うと教室に入ろうとし、その直前で振り返り笑顔で言った。
「あのさ! オレのこと、“龍”って呼んでよ。オレも“楓桜”って呼ぶからさ」
私は一瞬何を言われたのかわからなくて呆然としてしまったけれど、「わかった」と返して教室に入って行った彼のあとに続いた。
席に座り思わず俯く。
(久しぶりに、友達をつくってしまった)
ふと、そう思った。一年のときの友達とも関わりを絶って、もう誰とも関わりをもたないって決めていたのに。
(……深く、関わらないようにしよう)
そう心に決めた……はずだった。
「よし、じゃあ席座れー。始めるぞ」
ドアが開き、そう言いながら先生が入ってくる。散らばっていたクラスメイト達が各自の席に座った。
一時間目では委員会について決めるらしい。まず最初に先生が委員会についての説明をする。各委員会男女一人ずつが委員となるため、先に第一希望を聞いていくことになった。着々と進んでいく中、図書委員会の番がくる。
「次、図書委員会。まず女子」
その声に手を挙げたのは私だけだった。図書委員会はあまり好評ではないのだ。地味、早く帰れない、というのが理由。
「九条だけか? じゃあ決まりだな」
黒板の図書委員会の欄に私の名前が書かれる。
「次、男子」
次の瞬間、教室がざわめいた。
――手を挙げたのは、龍くんと鑑 悠聖、その二人だったのだ。