♪2.はじまり
「おーいお前ら、席着けー」
そんなダルそうな声と共に担任の先生が入ってきた。そしてホームルームが始まる。
はじめは先生の自己紹介。先生が黒板に自分の名前を書きだす。
「えー、まず俺の名前は朝倉 輝義。国語科担当だ。……っつーことで、よろしく」
先生が言い終えた途端、一人の男子が言った。
「何歳ですかー?」
「32」
「…………」
「なんだ」
「いや。予想に反してお若いな、と……」
「よーし、お前。いい度胸してんなぁ……。名前は?」
「赤城でっす☆」
「丁度いい。お前から自己紹介しろ」
そんな感じで私たちは出席番号順に自己紹介をすることになった。先生もそれと同時に出欠をとっている。
何事もなく淡々と自己紹介を済ましていくクラスメイト達。そんな中──
「――じゃあ次。えっと、あぁ転校生じゃん」
「マジで?! 転校生来てんの?!」
教室がざわめきだした。
「……鑑」
「…………」
「あ? おい、鑑。いないのか」
次の瞬間。
ガンッ……!!
そんな大きな音と共に教室のドアが開かれた。教室中が一瞬にして静まり返り、一斉にクラスメイト全員の視線がそちらに向く。私もまたドアのほうに目を向けた。そして、固まる。
「今、来ました」
そう言って現れた彼は、一つだけ空いた席――つまり自分の席へと真っ直ぐに進みバッグを置いた。そこは私の隣の席。
「鑑 悠聖です。よろしく」
教室中が再びざわめきだした。女子の頬は赤く染まり、男子は不満を露わにしている。
私はただ、呆然と彼を見つめた。
(――どうして……?)
ふと、彼がこちらを向き目が合ってしまった。私は咄嗟に目をそらし視線を窓の外へと向ける。
気持ちが落ち着かない。落ち着くはずがない。
(どうして……どうして彼が、ここにいるの……?)
「――おい。おい、九条。次、お前」
「……あ、はい」
溢れそうになる涙を必死にこらえ、私は動揺を隠しながら起立し自己紹介をする。
「――九条 楓桜です。よろしくお願いします」
言い終えるとすぐに座り、私は誰にも顔を見られないよう俯いた。
あまりにも似すぎていた。彼に。かつて私が大好きだった人に。
――一年前。私を置いて、死んでしまった恋人に。