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♪1.前奏

 高校二年になって2日目。

 私のクラス二年A組には、既にグループが完成している。……が、私は未だにどのグループにも属していない。しようとも思っていない。そんな私を、誰もが遠巻きに見る。

「…………」

教室のドアを開け中に入る。誰も私に声をかけることはない。目を向けることさえない。私はただ自分の席を目指した。場所は窓側の一番後ろ。新学期早々席替えをしたため、ここになった。

 私自身、結構気に入っている。ここから見る空がすごく綺麗だし、窓から差す日の光が暖かいし、入ってくる風も涼しくてほっとできるから。

 私は一人を望む。誰とも関わりを持ちたくない。

 ――失うのが、恐いから。


 ふと、教室に甲高い声が響く。

「きゃあっ!! やだ、どうしよう……」

いきなり耳に響いてきた声に、私の落ち着く一時は遮られた。

 その声の主は、早くも我がA組のアイドル的存在の女子だった。彼女が手にしているバックにつけていたのであろうクマのぬいぐるみは、残酷にも首がもげてしまっている。


「これ、彼氏からもらったものなのに……」


 ――その言葉に思わず反応してしまった。


 「貸して」

気づけば声をかけてしまっていた。クマのぬいぐるみを手にしていた彼女がこちらを振り向く。目には涙が浮かんでいた。その子の周りの女子たちは訝しむように私を見つめる。当たり前の反応だろう。空気と化していた私がいきなり話かけたのだから。

 しかし彼女は、そんな友人たちを気にも留めず私にぬいぐるみを渡してくれた。

「これ、最初に何か飾りとかついてた?」

「え? あ、えっと、首にピンクのリボンがついてた」

「ピンクのリボン……」

私が少し考えている間にも、彼女の目には涙があふれてきていた。

その子の周りにいる女子達や彼女の泣き声に集まってきた男子達が必死に慰めている。

「大丈夫、ちゃんと直るよ」

「え?」

私は自分の席に着く。そしてバッグから裁縫セットを取り出し、ぬいぐるみの修繕に取り掛かった。



 あまり時間がかかることなく修繕を終える。

「はい、できたよ。こんな感じでいい?」

「わぁ……すごいねっ!ありがとうっ!!」

直したクマのぬいぐるみを渡すと、持ち主である彼女は目を輝かせながらそう言ってくれた。それを見つめるクラスメートたちは茫然としている。

「……完成度高っ……」

「文字通りの“元通り”だよ、これ……」

私は裁縫セットをしまいながら「他の所もほつれてたから、直しておいた」と伝えると、満面の笑みで「ありがとう」と彼女が言った。私は頷くだけでそれに応える。そして私はまた、外の景色に目を移す。


 ぼーっと空を眺めてみた。白い雲が、ゆっくりと広い『空』という名の海を流れていく。沈むことなく、ただ浮かんで流れていく。

 ───その海に沈んでいった者と過ごした日々は、流されることなく、沈むことなく、未だに私の胸にとどまっている。


 私の時間は止まったまま。


 流れることなく、縛られるままに。




 私はただ、楽しかったあの日々を思い返した。






 ――その時の私はまだ知らない。

 これから始まる、恋の物語を。再び(・・)紡がれる、恋の歌を。

 その恋が嘘か本当か。私はその狭間で彷徨うことになる――……









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