第1輪
「貴方は私と付き合いなさい」
唐突に彼女はそんなことを言った。
なんだこれは。
それが僕が彼女に告白されて思った最初の感想だった。
決してあり得ないがここでOKしたら彼女ができたと散々からかわれ、断ればそれがクラスメート達に伝搬され振った理由についてあれこれ聞かれたあげく延々とからかわれるに違いない。
結局からかわれるのか。
つまり、今こうやって告白されてしまったことで僕の平和な日常は傾くと言うことだ。
嫌だ。困る。
相手に失礼なこととは分かっているが、僕としては迷惑だ。
なんで僕なんだ。
常にある程度ほどよい距離をとり嫌われることも好かれることもなく生ぬるい人間関係を好んで、女子からは人畜無害君とまで言われてきた僕が。
ましてや告白なんかされることはないと自負していた僕が。
「さっさと答えてくれないかしら?OKならOK、嫌なら嫌。実に分かりやすい2択でしょう?」
黙々と苦悩とパニックに未だ立ち直れない頭をフル回転させながら、しかし表情は平静を装い黙って突っ立ったままの状態でいたら思わず突っ込まれてしまった。
そしてどうやら彼女の頭の中には3択目の答えであろう考えさせてという考えは存在しないらしい。
実にはっきりとして男らしい。
ってか、告白した方がなんであんな強気なんだろうか。
僕は本当に告白されたのか?
なんならどっきりでしたーって結末の方がまだ笑い話で済む分助かる。
しかし、相手の表情を見るからには嘘ではないことが伝わってくる。
なんだか鬼気迫る表情である。
いっそ睨まれている。
「どうしてこうなった……」
僕は彼女には聞こえないような声で呟いた。
神様僕は一体どうしてこんな目に合わなくてはいけないのでしょうか。
これを夢の中の出来事にしてくれるのならば毎日神社に行ってお礼参りいたします。
下を向いて気づかれないようにして目をつむり神に念じる。
そして目を開けると。
……やっぱり事態は変わらなかった。
僕はいつ、なぜ、どこで決断を誤ってしまったのか。
いや、本当は分かっているが。
ついさっきからここまでのことがまるで走馬灯のように流れていく。
ああ、懐かしきあの日々。
2度と戻れないかもしれないあの平穏な日々。
グッバイ。
そして走馬灯は僕の記憶を30分ほど前に戻す。