小説家が望むプレゼント
ふと、「サンタ支援機構企画」というものを見かけたので、乱入させていただきました。
十二月ももう終盤、世間ではクリスマスやら年末年始のお出かけ予定で賑わっている中、一人の小説家はパソコンの前で頭を抱えていた。
さて困った。今年中になんとか書き終わらなければ、連載が打ち切られてしまう。
何とか途中までは書けた物の、この先の展開で詰まってしまった。
最初にノートやらなにやらにプロットを書いておけば、こんなことにはならなかったのだろうが、勢いだけで書いてしまう癖がこのような結果を招いてしまった。
しかし、いまさら嘆いてもしょうがない。今からプロットを書いてもいいのだが、そんなことをやっても結局先の話を考えなければならないから意味が無い。
さて、どうしたものか。
窓を見ると、雪まで降ってきた。
世間ではホワイトクリスマスなどと言って歓迎されるのだろうが、冗談じゃない。外を見ていると、心まで冷えてしまいそうだ。
カーテンを閉めてしまおうかとも思ったが、コタツから出るのも億劫な状態だ。
そんなことより、先の話を考えなければ。さて、どうするか。
そんなことを考えていると、トントン、と窓から音が聞こえてきた。
気が散るのでスルーしていると、今度はガラガラと窓が開く音がした。同時に、外の冷たい空気と雪が入り込んでくる。
小説家が窓を見ると、赤と白の服を着て、白い袋を持った白ヒゲの老年男性が入ってくるところだった。
どこかで見た姿。これは……
「メリークリスマス!」
男が言うや否や、小説家は携帯を手に取り、何故か友人に電話をかけた。
「あ、もしもし、俺だけど。今、窓から真っ赤な服を着て白い袋を持った強盗が、俺を凍死させようとしてる。俺はもうダメだ、後のことは頼む……」
小説家が言いかけたとき、赤服の男が小説家から携帯を取り上げ、電源を切った。
「一体何をしているのだ」
「いや、それこっちの台詞だし」
赤服の男は、そっと携帯を小説家に戻した。
「警察に通報されたことなら何度かあったが、友人に遺言を残すやつは初めて見た」
「警察に通報された時点でやめておけ」
はぁ、と小説家は一つため息をつくと、その息が白くなって消える。それで、ようやく窓が開けっ放しだったことに気が付いた。
「とにかく、窓を閉めてくれ」
「仕方ないな」
「いやいや、お前がやったんだろ」
小説家に言われ、赤服の男はがらがらと窓を閉めた。ジュータンの上に入り込んだ雪が落ち、やがて室温で溶けていく。
「ということで、私のことは良くご存知だな」
「いや、とりあえず赤い服を着た不審者ということは良くわかるのだが」
いつの間にかコタツにもぐりこんでいた赤服の男に、小説家はひとまず毒を浴びせておく。
「最近は煙突というものが無いから勘違いされやすいが、私はサンタクロースだ。サンタクロース。良く知っているだろう」
「サンタクロースというものは知っている。しかし、いくらサンタクロースだろうが、無断で家に入るのは不法侵入だ。あと、入ってくる場所は関係ない」
「夢も希望もない奴だな、大人って」
「現実を言っているだけだ。で、その自傷サンタクロースが何の用だ?」
「Mな趣味は持っていないのだが……」
気が付くと、自称サンタクロースは首以外の全身がコタツにめり込んでいた。いますぐ蹴りだしたい衝動を、小説家は押さえる。
「サンタクロースといえば、決まっているだろ。プレゼントを渡しに来たのだ」
「プレゼント? サンタクロースは、良い子にしていた子供にプレゼントを渡すものだろ」
「そうなのだが、最近の少子化傾向で、プレゼントを配る子供が減ってだね。そこで、一部では大人にも配ることにしたのだ」
まるで芋虫のような姿の自称サンタクロースに、小説家は殴りたい衝動を抑える。衝動だらけで体が爆発しそうだ。
「なるほど。で、俺はその一部に選ばれたわけか」
「そういうこと」
今度は湯飲みに入ったお茶を奪おうとしてきたが、寸でのところで奪還に成功した。舌打ちが聴こえたような気がするが、気にしなかった。
「で、どんなプレゼントをくれるというのだ?」
気が乗らなかったが、とりあえずもらえるものは貰っておこうと思い、小説家がサンタクロースに聞いた。
「基本的には、何でもレゼントできる」
「何でも? 本当か?」
「もちろん、いろいろと条件はあるが」
「何でもじゃないじゃないか」
一瞬期待した俺がバカだったとばかりに、小説家はため息をついた。
「そりゃもちろん、こちらも予算や都合があるからね。例えば、実在しないものや物体、思考、精神等の手に触れることができないものはプレゼントできない。願いを叶えるなどとは違うからね。あと、とんでもない金額のものも無理。家やロケットをくれと言われても、準備は不可能だ。法に触れるものも論外」
「結構限られてくるな」
「簡単に言うと、そうだな、君が現実的に購入可能で、誰かにプレゼントできるもの、と考えればいいかな」
「そんなの、自分で買ったほうが早い気がするのだがな。それこそ、現金でくれといいたいくらいだ」
湯飲みに残ったお茶を飲み干し、テーブルに置く。新しいお茶を注ごうとしたとき、サンタクロースの目線が気になったので途中でやめた。
「そうだな、最近の子供はほしいものがわかりにくいから、以前はおもちゃ券なんかをプレゼントしていたのだが、全国的に扱わなくなってきたり、使える店舗が限られたりしていたからやめたのだ。現金で渡すのは、プレゼントとは言わないだろう」
「確かに。それこそ夢も希望もないよな」
サンタクロースの癖にまともなことを言うな、などと考えながら、自分の欲しいものを考えてみた。
しかし、いざそう言われるとなかなか思いつかないものだ。
「そうだな、欲しいものといわれてもな」
「結構、そう言う人が多いから困っているところだ。何がしたいかってことがわかっていない人ばかりでね、リサーチも難しい」
「何がしたいか、ねぇ……」
ふと、小説家はあることを疑問に思った。
「そうだ、売っているものでなくても、例えば誰かの手作りのものでもいいのか?」
突拍子も無い質問に、サンタクロースはコタツから飛び出した。
「手作り? まあ、物によってはできないことはないが、しかし手作りは手作りでも、誰かの手作りっていうわけにはいかない。手作りのものについては全て私が作ることになっているのだ。何だ、女の子の手作りのお菓子でも欲しいのか?」
たしかに、女の子の手作りのお菓子は欲しいといえば欲しい。が、小説家は別のことを考えていた。
「よし、じゃあこれで行こう。俺が欲しいものは」
何故か小説家は立ち上がって、パソコンの画面を指差した。
「この小説の続きが書かれた原稿用紙がくれ。もちろん、お前が書いたものでもかまない」
そういわれ、思わずサンタクロースは画面を覗いた。そしてしばらく本文を読んで、こういった。
「だったら、さっきの私とのやり取りを取り入れればいいじゃないか」
「ああ、なるほど」
こうして小説家はスランプを脱出し、見事に原稿を年内に仕上げた。
どうやらこの小説家にとっては最高のプレゼントになったようだ。
余談だが、サンタクロースは小説家に通報され、不法侵入で捕まったようだ。
最近は何故か「小説家」を題材とした作品が多くなってきている気がするのです。何ででしょう(汁
とにもかくにも、もうすぐクリスマス。今年はどんなクリスマスになるんでしょうか。