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金色の悪夢

蒼は、ひたすら龍の宮の奥で気の安定を図っていた。

それがとても難しいのは、何も蒼が気を使いなれていない訳ではなかった。どうも、月の力で必死で押えながら…それはまた、月の力で気を乱している、そんな感じなのだ。例えれば、ドアのこちらとあちらで、開けようとしてまた閉じようとしているような感じがする。

やっぱり、十六夜の力が、気を乱しているのか…。

蒼はそう思いながらも、尚も気を安定させようとその反発するような力と戦い続けた。月を睨み、十六夜にも念を送る。

《十六夜!何をやってんだ、誰に操られてる?!それともお前の意思なのか!》

十六夜からは答えはない。蒼は自分に出来るだけのことをしようと、必死に集中した。だが、自分はいつまでこれを続けられるだろう…。


将維は、ただじっと座っていた。

この膜がある限り、動く方が早く力を消耗して、早く自分の命を縮めてしまうことになると思ったからだ。自分の体は小さいが、おそらく一週間ぐらいは気を取らなくても大丈夫なはず。

将維は父を思った。今頃きっと探してくださっている。自分はここに居るのに、知らせることも出来ない。刀はどこかに落としたようで、さして居なかった。それがこの近くにでも落ちていたなら、自分の居場所の目安くらいにはなるのに…。

将維はため息をついた。もうすぐ6歳になるのに。このままじゃ母上におめでとうのキスをしてもらえない…。

なぜだか今夜は、とても母の身が気になった。母もきっと心配している。父はそんな母を見て、余計に慌てて自分を探そうと必死になっているに違いない。

父の跡を継ぐというのに、こんなにあっさりさらわれてしまった自分が、不甲斐なかった。

将維は、いつしかうとうととしていた。

ぼーっとしている視界の隅に、何かが動く気配がした。将維はハッとして息を飲んだ。まさか、またあの人の老人が戻って来たのか?

しかしそれは、人ではなかった。人型をしていたが、光に包まれ、何やらふらふらと蛇行しながらこちらへ歩いて来る。気がまったく通らないので、将維にはその気が読めなかった。

いよいよこちらに近付いた時、将維はその姿を見た。

それは、月の人型だった。

「十六夜か?」将維は言った。「見つけてくれたのか?!早く、父上に…」

しかし、十六夜の様子は変だった。何かと戦っているかのように汗を額に光らせ、それでも懸命にこちらへ歩いて来る。脚はもつれ、時にふらふらと膝を付いた。

「十六夜…どうしたんだ?」

十六夜は答えない。ただ、必死にこちらへ歩き、ついに膜の目の前にまで着いた。

「これ…を…」

十六夜は、尚も必死で何かにあがらい続けていた。それでも手を伸ばすと、膜に触れた。その手は震えている。

「十六夜…。」

十六夜の指が、膜を突き抜けて離れた。そこだけ、小さく穴が開いている。

「これが…限界だ…。」十六夜は息を切らせている。「早くここから気を放て!」

十六夜は意識を失うように倒れた。と思うと、スッと立ち上がり、真っ直ぐに歩いて出て行った。

訳が分からない将維は、言われるままにそこから気を龍の宮へ向けて放った。

《父上ー!!》


十六夜が戻ったのを見た彎は、満足げに頷いた。

「どこに行っておった?時に主は意識もないのに勝手に動き回る。月は徘徊癖があるのだの。」と天を仰いだ。「では、仕上げじゃ!炎嘉のやつが死んだのは無念だが、維心が残っておる。炎嘉の分も苦しませてやろうぞ。あの妃をさらって来るのだ。」

十六夜はじっと前を見たまま動かない。彎はいらいらと言った。

「お前はいつもこの命には従わぬ。なぜに女ひとりここへ連れて来ることが出来ぬ。あの維心の寵姫を奪ってこその復讐であるのに。」

十六夜はただ、立っていた。目は何も映しておらず、動く様子もない。彎はため息をついた。

「ほんに月は扱いの難しい…」と、彎は将維の気が飛び出したのを感じた。「何?!あの小童!」

彎は洞窟へ飛んだ。



維心はハッと顔を上げた。今確かに将維の気がした。

《父上ー!》

すぐに、将維の念が飛んで来る。場所は分かった!

《将維!すぐに行くゆえな!》

維心は維月を振り返った。今や意識は途切れ途切れで、定かである時の方が少ない。それでも、ハッと目を開いたかと思うと、小さな声で囁くように、言った。

「維心様…お早く将維を…」

維心は維月の手を握って頬を寄せた。

「…すぐに帰るゆえ。維月、がんばるのだ。将維を連れ帰るゆえな。」

維月は小さく頷いた。維心は走って窓へ向かい、叫んだ。

「北へ行く!全軍に知らせよ!将維が見つかった!」

龍身になって飛び立った維心はものすごいスピードで飛び去った。他の軍神は追い付くことが出来なかった。


一方、彎は、必死に将維の所へ向かっていた。維心が来る!こやつを手にしておかねば、こちらが危ない!

将維は、父を呼んだ後、じっと待っていた。父はすぐに来ると言った。

しかし、来たのはあの老人だった。しかし、もう父はここへ着くはず。父のスピードは、凄まじく早いのだ。

「何しに来た!」

将維は叫んだ。老人は膜の端をつまむと、そのまま膜を消し去り、将維を運ぼうとした。しかし将維は思った以上に重く、また気が強い。彎は十六夜を使った。

「そいつを運べ!」

十六夜はひょいと将維を掴むと、小脇に抱え、彎の後ろを付いて歩いた。

「離せ!十六夜、どうしたんだよ!なんでそんな奴の言うこと聞いてるんだ!」

将維はばたばたと暴れた。十六夜はそんなことには気が付かないかのように、掴んだ手を離さず将維を運び続けた。

将維は思った…何かに、縛られている。だから十六夜は、我を助けようとしてあんなにふらふらになって洞窟へ来たんだ。今は完全に意識を失っている…。

外へ出た時、覚えのある強大は気がびりびりと周辺を震わせて圧倒するのを感じた。

「もう来よったか!」彎は叫んで十六夜に指図した。「そやつを宙に浮かせて玉へこめろ!」

十六夜は宙へ舞い上がり、将維を光の玉にこめて浮かせた。その瞬間、大きな龍が目の前に舞い降りた。その姿は600年前に見たものと、少しも変わっていなかった。

《やはり主か、彎よ!炎嘉の言う通り、殺しておけばよかったわ!》

維心の気は、闘気までまとい、燃え上がるかのような形を成している。彎は着の圧力で今にも吹き飛ばされそうになりながら、目の前の将維を指した。

「ふん、見よ!主の息子はわしが手の中よ!このままいかようにも出来るのだぞ。返して欲しくば、手脚を一本ずつ返してやってもよいわ。」

《何?!》

維心は言って、十六夜を見た。その目は維心を見ていない。これか。十六夜が言っていたのはこれなのだ。

「父上!十六夜は我を助けてくれようとしたんだ!気を出せたのは十六夜のおかげなんだよ!でも、もう今分からなくなってて…。」

そうだったのか。十六夜は全て呑まれている訳ではない。意識の端にはあるのに、封じられたかのように動けないのだ。それを破ることが出来ずにいる…。

彎は振り返った。

「月め、よくもわしをたばかりおって。しかし聞いてもらうぞ。さあ童をゆっくり潰してみよ!」

十六夜は手を上げた。将維は苦しんでいる。

「父…上…。」

《将維!》

十六夜の光の守りの中で、彎は笑った。

「あの頃のお前にはなんの弱味もなかった。ただ最強でわしなどひれ伏すしかなかった。だがな、今のお前は隙だらけよ。お前には守るものが多過ぎるのだ。待った甲斐あったわ!」と維心に命じた

。「今すぐ人型に戻ってわしに膝まづけ!これを殺されたくなければな!」

維心の青い目は将維を見た。光の玉の中で圧力を掛けられ、息をしようとのた打ち回っている…。

維心は人型になって、膝を付いた。

彎は勝ち誇った笑いを浮かべて、叫んだ。

「わしの勝ちじゃ、維心め!」彎は術で縄を掛け、維心を縛り付けた。「龍封じの縄よ。ではそこで見ているがよいわ!」

彎は十六夜に何やら念を飛ばしたようだ。十六夜は空へ向け、何かの力を全開させた。

まるで、地が爆発したかのような振動が起こった。

地が大きく震え、割れようとしている。…と、何かの力が、また月から流れ、その流れは押し返された。彎は怒鳴った。

「…月の当主か!何をしている!月よ、お前の方が力は上であろうが!」

十六夜は空へと気を湧き上らせている。そちらに集中して、将維の光の玉に対する圧力が緩んだのが見てとれた。維心はホッとした。将維は、ぐったりして玉の中で息を荒くしている。

「十六夜!」維心は叫んだ。「維月は…維月を思い出せ!」

フッと力が緩んだ。十六夜はこちらを見る。

「維月…。」十六夜は月を見上げた。「維月…維月の気はどこだ?」

維心はそう言われてハッとした。維月の気…龍の宮から消えている?まさか…。

「早くそれを押し返せ!地を分かて!人など無用ぞ!力を放て!」

十六夜の目がまたうつろになった。力は堰を切ったように流れ出す。蒼が押し返しているのが分かるが、やはり本体とでは違う…押し返せなくなって来ている。

維心は縛られて地に倒れたまま、維月の気を再び探った。どう探っても気が読み取れない。目の前には将維が囚われている。将維は今息が正常になり、ただ横たわっているだけのようだった。

体の下の地が割れようと振動している。このままもう、終わりになっていいような気持ちに、維心はなっていた。維月の気が読めない。龍の宮へ戻っても、最悪の出来事を知らされるだけのような気がしてならない。我は、先の戦闘の折り、炎嘉に斬られようとしたが、あれの為に生きた。居なくなったのなら、我もまた…。

そう思った刹那、蒼の力が完全に圧倒されるのを維心は感じた。


上空の気の流れは、一気に乱れ、巻き上がって爆発したかのようであった…。


その少し前、蒼は、必死で十六夜に抗っていた。

急に将維の気が感じられ、維心の気がそこへ向かい、十六夜の気がしたかと思うと、まるで今まで手で綱引きしていたのが、ダンプカーにでも引っ張られるような勢いで、乱されて流され出したのだ。

必死でその力に飛びつき、押さえつけ、蒼は気を安定させようともがいた。

さっきから何やら宮が騒がしい。しかし、そんなことに気を留めていられないぐらい蒼は力に翻弄されていた。

十六夜はさすがに生まれながらに月だ。

当然だが、その力を引き出す能力は半端ない。まともに戦ってみて初めてわかった。オレではまだ、十六夜には勝てない…。

しかし、負けるわけには行かなかった。

先程から、龍の宮の近くの地まで大きく震え、地が割れようとしている。維心の守りまで破られようとしているのだ。

月の宮はどうなっているだろう。今は全員こちらへ移動して来ているので、何がどうなっているのかもわからない。村人は…それに他の人々は…。

十六夜の姿が月から見えた。金茶の目はうつろで、何も映していないようだ。どうしても十六夜を押えなければ、我に返った時、自分のしたことの大きさに、きっと十六夜は苦しむだろう。そして自分を責めて、もう二度と話すことが出来なくなるかもしれない。そんなのは、嫌だ。

蒼はだんだんに意識が遠くなってくるのを感じた。そういえば、さっきから母さんの気が…感じられないような…?でも母さんは陰の月だよね?生きてるよね?

蒼は必死に集中して、頭から玉の汗を流していた。もう、ダメだ。オレは力が足りない…。

「蒼様!」

瑤姫の叫ぶ声を聞いた。ばたばたと何人かの龍が蒼に駆け寄って来る。宮が大きく揺れ出したのが分かる。ダメだ…寝てる暇はないんだ、押さえないと。


蒼は気を失ってそこへ倒れた。

脳裏には金色に光り輝いた、十六夜が地を壊滅へと導いているのが見えた。


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