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異常気象

高瀬 蒼…本作主人公。現在28歳。18歳の時に月と話せることに気付き、その後月と同じ命を宿らせ、月の力で闇やいろいろなモノと戦うことが出来る。


十六夜…月。蒼が地上へ実体化させるまでは、地上に来れなかった。全てにおいて大きな力を持っているが、普段は神にも人にも無関心。維月と結婚しているが、維心に同情し、今は維心に維月を預ける。


維心…龍神。龍族の王。絶対的な力を持ち、他の神に君臨する。龍の寿命をはるかに超える時間生きている。


維月…蒼の母。人との間には双子を含めた五人の子が居る。今は維心の妃として龍の宮に暮らす。一度死んだ時に、月の裏側である若月の命をもらい、今は陰の月として生きている。


瑤姫…蒼の妻。維心の妹。蒼に嫁ぎ、月の宮で暮らす。

(そう)は、28歳の、人の世では実業家として生きている、その実は月と同じ生命を持つ男であった。

人として生きていたが、月と母との間に生まれた生命が自分にそのまま宿り、今では人ではなかったが、人の世の穏やかな日常を楽しんで生きていた。

蒼には龍の姫である妻・瑤姫(ようき)がおり、その妻との間には四歳になった娘の瑞姫(みずき)、二歳の息子・月夜(つきや)がいた。

10年ほど前に蒼が月の十六夜と共に大きな闇を封じてから、世は取り立てて恐ろしい闇に呑まれることもなく、平和で穏やかであった。

娘と庭で遊びながら、蒼は、なぜかこの幸せに不安を感じていた…。


維心(いしん)は、龍の宮の王であった。

妃の維月(いづき)との間には、息子の将維(しょうい)五歳、明維(めいい)四歳、晃維(こうい)三歳、娘の紫月(しづき)二歳が居た。居間で考え事をしていると、幼い声がした。

「父上。」

振り返ると、そこには将維が明維を連れて立っていた。

「何用ぞ。」

維心が聞くと、将維は思い切ったようにこちらを見て言った。

「我は、今明維と臣下に稽古をつけてもらっていたところです。」

維心は頷いた。

「良いことよ。今は平和ゆえ、どうしても怠けがちになるが、主ががんばれば、臣下も頑張らざるを得ぬだろうて。」

将維は続けた。

「義心に聞いたところによると、父上は最強の神でおられると。」

維心は眉を上げた。

「全力で戦こうたことはないゆえ、最強かどうかなど、皆の噂で言われておるのみよ。」

将維は黙っている。維心は何が言いたいのだろうと思い、口を開きかけたその時、維月が現れた。

「まあ維心様、察してやってくださいませ。」

維心は振り返って維月の手を取った。

「何をだ?」

「将維は維心様に、稽古の相手をしてもらいたいのですわ。そうよね、将維?」

将維は母を見て笑って頷いた。

「はい、母上。」

維心は微笑して立ち上がった。

「そうであったか。では、庭へ出ようほどに」と維月を見た。「主も来い。」

「おとーたま(お父様)」

ふと足元を見ると、一番下の紫月が足にまとわりついて維心を見上げていた。

「おお紫月」維心は娘を抱き上げた。「よしよし、主も行こうぞ。」

「おとーたま、すき。」

紫月は維心に頬を擦り付ける。息子達は維心にそっくりなのだが、その代わり紫月は維月にそっくりだった。話し方や言うことやしぐさも、一人前によく似ている。維心はこの娘が、かわいくて仕方なかった。

「父もよ。紫月、母のように育つのだぞ。」

維月はそれを見て微笑みながら、晃維の手を引いて一緒に庭へ出た。

洪達臣下が維心を探して居間へ入って来て、ふと外を見ると、維心が皇子達相手に剣を軽く振っているのが目に入った。その様子を維月が下の二人の皇子と共に見ている。洪は思わず微笑した。

「なんと…王があのように子守りをする姿を見るようになろうとは。」

横の兆加も頷いた。

「もう我らも何も心配は要らぬ。維月様はようお子を次々とお生み参らせて。一度にあのようにたくさんの皇子を抱えるようになるとは思いませなんだ。」

洪は言った。

「未だ王のご寵愛は深いゆえに、今また腹にお子を抱えていらっしゃる。ほんに維月様には頭が下がる思いであるわ。」

臣下の言うように、維心はようやく今、安らぎを覚えていた。愛する妃と子達、このようなものに囲まれて過ごす日が来ようとは、思ってもいなかった。

それだけに、それを失うことだけが、今はただ、怖かった。


維心は寝台に横になって考え込んでいた。昼間に洪達が報告して来たことは、気になる。維心が最近感じていた異変と、あまりに合致するからだ。

維月が、そこへ入って来た。維心は微笑んで迎えた。

「遅かったではないか。」

維月は苦笑した。

「紫月がぐずってなかなか眠らないので、乳母が難儀いたしておりましたの。なので私は今まで添い寝をしておりました。もしかして、もうお休みかもと思っておりましたのに。」

上の着物を脱ぐと、侍女がサッとそれを受け取って持って行く。維心は手を差し出した。

「早くこちらへ来い。」

維月は頷くと、維心の手を取って寝台へ横になった。維心は維月を抱き寄せると口付けた。離れた時、維月が言った。

「何か気がかりなことでもお有りなのではありませんか?入って来た時、難しいお顔をなさっておいででしたわ。」

維心は頷いた。

「今日、洪が我に、人の世の災害の被害について報告してきおったのよ。それが、常の年と比べ、あまりに多過ぎてな。特にここ最近は目に余るものがある。少し見に行かねばならぬと思うておった。」

維月は眉を寄せた。

「天の災害は防ぎようがないのではないですか?」

維心は首を振った。

「確かにその通りだが、多過ぎる。これが自然に起こっておることなら我も仕方がないと思うが、もし人のどうしようもない所で神が何かしておったら、それはなんとかせねばなるまいて。」

維月は口を押さえた。

「まあ…。」

維心は微笑して維月を抱き寄せた。

「よい。主は気にすることはない。我がなんとかするゆえな。主の役目は、子達を健やかに育てることと、常に我と共に居ることのみぞ。さあ、役目を果たせ。」

維月は維心の首に手を回した。維心は深く維月に口付けた。


ある日、月の宮では、蒼が村役場の者達の訪問を受けた。

「皆さん揃ってどうされたんですか。」

蒼は屋敷の応接間で言った。皆は顔を見合わせていたが、言った。

「実は…ここのところ、天候が不順でございまして。」

村の主な産業は農業だ。蒼もそれが気にかかっていた。

「そうですね。雨は少ないのに、日照時間が極端に少ない。世では異常気象と言っておりますね。」

相手は頷いた。

「このままでは米も不作になりますし、カリンも実の入らないものになってしまいます。この天候はなんとかできないものでしょうか。」

蒼は眉を上げた。天気をなんとかしろ?

蒼の表情を見た相手は、言った。

「蒼さんの力は見て知ってるんです。今更不思議がどうのなんて言いません。その力は、天候には使えないものなんでしょうか?」

蒼は背もたれにもたれ掛った。確かに村人にはここまで世話になって来ているし、この力のことも、決して口外せずにいてくれている。神社のことも良くしてくれているし、どうにか出来るなら、するべきなのかもしれない。

「…一度も天候を動かしたことがないので何とも言えないのですが、やってみましょう。雨を降らせるのは大丈夫です。でも、日差しを回復させるのがどうなのか、まだわからなくて…とにかく、やってみましょう。」

相手は深々と頭を下げた。

「どうかお願いします。梅雨には雨が降らなかったし、夏は曇ったままで日差しはないしで…困ってしまっていたので。」

蒼は頷きながら、まだこの村は雨が降った方なんだけど、と思った。瑤姫に何度雨を呼んでもらったか。ということは、他の所はもっと水に困っていると言うことかもしれない。

蒼は、村人が帰ると、瑤姫をすぐに呼んだ。

「瑤姫、すまないがまた雨を降らせられるか?」

瑤姫は顔をしかめた。

「…やってみますわ。この間の時も、かなり頑張ってやっとという感じで…何か、自然ではないものの力を感じます。お兄様ならすぐなのでしょうけれど。」

瑤姫が言い終わらないうちに、急に辺りが暗くなったかと思うと、いきなり雨が降り出した。蒼はびっくりして瑤姫を見た。

「瑤姫?」

瑤姫は首を振った。

「いいえ!これはきっとお兄様ですわ!こんなことが急に出来るのは、お兄様しかおりません!」

蒼は慌ててテレビを付けた。しばらく見ていると、天気の速報に切り替わった。突然の大雨に、どこの中継も大騒ぎしている。乾いた大地が潤って行くのに、この国中が安堵しているようだった。

蒼は維心の力に驚嘆した。たった一人で事もなげに全ての土地へ雨を降らせることが出来るんだ…。

雨はしばらく、降り続いた。しかし、いつもならたくさん降るはずの山間部にはあまり降らず、水場に降っていた。湖や池の辺りが一番よく降っていたので、これは間違いなく考えて降らせている雨だと思った。

そのあと、しとしとと降る雨も合わせて1週間ほど降り続いた雨は、きれいにやんだ。しかし、雨はやんでも、やはり曇っているのには違いなかった。

「晴れさせなきゃならないんだよ」蒼はため息をついた。「やってみるけど。十六夜、最近見かけないけど、どこ行ったんだろ、ほんとに。」

蒼は自分が月の力を、ほぼ全部使えると母の維月から聞いていた。もう人ではなくて、十六夜と同じ生命だからだ。慣れないながら、とにかく空を見て集中してみた。

雲を取り払って穴を開ける…。

蒼はそう、何度も念じて空を見た。集中しなければならないので、里の上空ぐらいならなんとかなりそうだったが、全国的にとなると難しそうだった。それでも、蒼は念じた。雲をどこかへ…。海の方へ…。

蒼の体から、大きな白い光が空へ向けてのび、打ち上げ花火のように上がったかと思うと、パアンと弾けた。

見ていると、自分から出た光が真っ直ぐに上に向かっていて、上空で円状にどんどん広がって行くのがはっきりと見えた。

広がって行くその光は雲を押しのけてそれでもどんどん広がって行く。ついに、円の端は見えなくなって分からなくなった。

しかし、その円状の光の向こうは、青空が広がって、急に夏の暑さを感じた。そうだ、夏はこの日差しじゃないか。蒼はその日差しに目を細めた。

瑤姫が月夜を抱いて、立っていた。

「蒼様、晴れましたね!こんなお天気、何週間ぶりかしら。侍女達にお洗濯を干してもらわなければ。」

すっかり家庭的になった瑤姫が、慌てて中へ入って行く。蒼は青空を見ながら、自分はいったい何回これをしなければならないんだろうと思った。異常気象とはいうが、あまりにもおかしすぎる…。


眼下に見える村の家々が、一斉にばたばたと布団を干したりしているのが見えた。


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